第3話 夢
◆◇◆◇
「にーちゃんがうっせーよー!」
「あ?」
扉が開く音がしてハッと目を開けると、そこは自室だった。
部屋の中では、目覚ましの音と携帯のアラーム音が重なり、すでに何の音かもわからない騒音が鳴り響いていた。
弟である弦斗が携帯を取り、アラームを止めて美弦に向けて投げつける。
「いってっ」
「うるさいんだよ兄ちゃんの目覚まし。よくこれで起きないね」
まだ鳴り続ける目覚まし時計も止め、上体を起こした美弦に対して投げつける。片手でキャッチしたのを確認すると、弦斗は部屋を出て行った。
投げつけられた目覚まし時計。夢で何かしらの夢を見、何かを叫んだ気がしたが思い出せない。所詮夢だから本来はそれでいいのだが、心の中で何かの引っ掛かりを覚えている。
「なぁ、なんだと思う」
「知らねぇよお前の夢の話なんて」
学校に行き、いつも集まる友人たちに、引っ掛かっている夢の話をするが、見ている本人が覚えていないものを、他人が知るはずはない。
もどかしいまま授業が始まる。
(面倒くさいな)
国語の授業。先生は生徒に興味を示さず、携帯でゲームをしていても、寝ていてもお菓子を食べていても、自分のペースで授業ができればいいというタイプの先生。
眠いとは感じない筈なのだが、少し机に突っ伏しただけで、ここ数日寝ていなかったくらいの眠気に襲われる。
(寝ちゃえ)
◆◇◆◇
「調子はどうなんだ」
「全然だ」
「何が起きたんだ」
「何やら音が聞こえると言って耳を塞いだかと思えば、いきなり倒れたと」
(なんだ、声がする)
授業中、居眠りをしていた美弦だったが、授業とは関係ない会話に耳が反応する。
声はレイサだ。どうして学校にレイサがいるのか。よくわからずに、顔を上げようとすると、伏せていたはずの身体が、仰向けになっていることに気付く。
腕に力を入れ、上体を起こす。
自室として用意された部屋の寝台にいるようだ。テーブルの部分には、レイサと見知らぬ男性の細身を感じさせる背中、ウェイスと国王の姿が見える。
(おいおい、国王がそうヒョイヒョイ一般人に会いに来ちゃっていいのかよ)
眺めていると、ウェイスと目が合う。立ち上がり、こちらに近づくと見知らぬ背中の男も、美弦のほうに少し体を向けるよう捻らせる。
銀色の縁のメガネをかけ、少し釣り目で冷たいイメージを残す。
「目が覚めたのか」
「……はい」
寝台脇に来たウェイスの質問に答えると、その隣に来た見知らぬ男が、手を伸ばしてくる。
「額に触れても?」
「はい」
医者だろうか。
一定の距離から近づこうとしない男に、美弦自らどうぞと前のめりになって額を差し出す。
熱を測るように額にひんやり冷たい手が触れると、じんわりと手の平から暖かい何かが流れ出す。目線だけを上に向け、何が起きているのかを確認しようとしたが、額で何が行われているかは、視界の限界により確認を取ることができない。しかし、視界に入ったのは、ほんのり緑色に光る何かが視界の上部で微かにとらえた。
言葉には出ていても、どのようなものかを見ていない魔法という物なのだろうか。
時間も経たずにその手は離れ、視線が合う。
「特に異常はなさそうだが」
「…あなたは…」
「紹介していなかったな。医者だ。ヴェイという」
ウェイスが簡単に説明した。
では逆にどういう状況だったのかを聞くと、いきなり中庭で音が聞こえると言って気を失ったとか。
気を失ってから約三時間ほど寝ていたとのこと。聞くなりその状況を思い出し、原因をもわかった。
(現実世界の目覚まし…だよなあれ)
目が覚めたら目覚ましが鳴っていたからと、美弦は勝手に仮定を進めていくと、やはりこちらが夢だったのではないかと思ってしまう。しかし、目が覚めると不思議とこちらの事を覚えていないことが、美弦にとって厄介な事。それも夢だからと言われてしまえば、こちらが夢とはっきりしてくる。
「あれ…?」
「どうした。どこか具合が悪いのか」
俯いた美弦に対し、診察に誤りがあったと思ったのか、ヴェイが手を伸ばすが、その手を触れさせまいと身を引き、少し距離を置いて止まる。
「えっと、心配かけてすみません。なんとなく原因は分かったんで」
「何が原因なんだ」
「あ、えっと、とりあえず大丈夫。ちょっと疲れてるだけだったみたいなんで、もう少し寝ててもいいですか」
ヴェイのほうでもウェイスでもレイサでもない。国王のほうをちらりと見つめながらそうお願いをすると、うっすらとほほ笑んで席を立つ。
わかったと一つ答え、部屋を出ていく国王に、レイサとウェイスが急いでついて行く。ヴェイに護衛はいらないのか、寝台の横に取り残されている。
「寝るのは構わないが、様態が急変しても困る」
「……大丈夫だと思いますが」
「私の事は気にするな」
(といわれましても)
しかし断っている時間も惜しい。下手をしたら、次の時間の授業まで寝ている可能性もある。
乱してしまった布団を整え、ヴェイに背を向けて中にもぐる。目を閉じるとすぐだった。
◆◇◆◇
目を覚ますと、まだ国語の授業中だった。
(あれ、一瞬寝てた?)
伏せていた身体を起こすと、教室の風景は変わっていなかった。
そのまま外を眺めると、雨が降り始めていた。確かに今日、通常は雨が降る予報が流れていた。しかし、問題とされている雲が消える件にて、天気予報士も渋い顔をしている。それが今回ようやく当たったのだ。
「居眠り珍しいな」
体育授業前、更衣室で着替えていた際に、後ろの席の圭太が現れ、そう伝えた。
「寝てた、よな?」
「は?」
「いや、あんま寝た気がしないんだよね」
「十五分は動かなかった」
「そんなに?」
体感的にはそんなに寝ていないつもりでいた美弦は、驚いて圭太のほうを見ると、他の友人も見ていたのか首を縦に振って同意する。
授業について行けなくなるからと、授業中寝ることは避けていた。
「とりあえず行くぞ」
授業が始まると、着替えた美弦を、友人たちは引きずるように出て行った。
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