03.不穏な空気
12月中旬。街は既にクリスマス一色の装飾がなされて、人々も師走とあって忙しいのか浮足立っている。
そんな街中の、とある5階建てのビルの空きテナントの一室には、怪しげな5人組が集ってなにやら計画を練っていた。
空き部屋だから勿論部屋には何も置かれておらず、極めて殺風景な部屋なのだが、何処からか持ち込んだのか木製で繊維が密に詰まって極めて頑丈そうな、
重厚で高そうな雰囲気を漂わせているテーブルだけが部屋の中央に置かれている。キズはあるもののまだまだ使用できる代物だ。
テーブルの上には街の地図と数枚の写真、そして走り書きされたコピー用紙のメモが散らばっている。
テーブルを囲むのは、一人は眼鏡の少年、一人は角刈りでゴツイが身長の低い男、一人は金髪で痩せ気味で金色に染めた髪の男。
その対面に茶髪で浅黒い肌をしたスレンダーな長身の女、もう一人に黒髪でセミロングで平均よりやや低めの身長の女が居た。
「去年のパイ投げによる聖夜撲滅鏖殺活動はまさに大成功に等しかった。奴らのパイを喰らった時の呆気にとられた顔と言ったら本当に面白かった!今回それに勝る活動をやろうと思う」
リーダー格と思われる、セルフレームの眼鏡を掛けた少年が口を開いた。高槻真だ。
真は計画をメモしたコピー用紙と対象となるモノの写真をテーブルの中央に並べ、皆の視線をそこに集中させる。
ゴツイ男と黒髪セミロングの女はなるほどと頷いた様子だったが、金髪の男と茶髪の女は眉間に皺をよせていた。
「…イルミネーションのメインイベントのモミの木に放火?流石にこれはマズくねぇか?」
次に口を開いたのは金髪の男、伊尾木達郎である。こころなしかその態度は腰が引けている。
「何言ってんだよ、そろそろ俺たちの活動もこれくらい派手にアナーキーにならなきゃ次のステップにいけないぜ?ビビってんのかよ達郎!」
角刈りの男、三瓶基文が達郎を煽るような口調で言う。ここのビルは基文の父親が所有しており、彼はいわゆるボンボンの息子だ。
静かに頷くのは黒髪でセミロングの女の子、
それに対して、計画に渋った態度を見せているのは達郎と、何も態度に示さないが今までずっと沈黙を守っているスレンダーな女の子、
真は二人の態度に、何か不審なものを感じていた。
しかし、ここで何があるのかを追求して自ら雰囲気を悪くするのもためらわれたので真は何も言わずに計画の話を続ける。
「じゃあ計画の分担を話すよ。僕が実行役としてモミの木に着火する。逃走の手助けは基文と瑛美。事前準備としての資材調達なんかは達郎と亜理彩さんに任せる。良いね?」
基文と瑛美は頷き、了承の意を示す。達郎と亜理彩は押し黙ったままだ。煮え切らない態度の二人に、若干苛立った様子で念を押す真。
「達郎、亜理彩さん。いいですか?」
「あ、ああ」
「…了解」
明らかに、しぶしぶと言った態度をあからさまに見せている二人。
「じゃあ、今日は解散。達郎と亜理彩さんには後で事前準備について色々連絡しますんでよろしくお願いしますね」
「…おう」
達郎と亜理彩は返事も曖昧に、ビルの空き部屋を出た。
真は相変わらず二人の態度を訝っていた。不自然に、二人の距離が近いのも気がかりであった。
テーブル上を資料を仕舞いつつ、真は外をぼんやりと眺めていた基文に問いかけた。
「基文。あの二人、なんか妙に仲が良くないか?」
「そうか?俺にはそんな風には見えないけどなぁ~」
基文はこんな調子で人の気持ちや雰囲気をあまり気にする事が無い。そのせいでモテないともいえる。
真は基文の雰囲気の読めなさに半ば呆れ、ため息をついて外に目を向けた。
流石に瑛美は、二人の様子に薄々気づいているように、彼らが去ったドアの方向をずっと見つめていた。
…彼らは何故集い、クリスマスやバレンタインデー等にこのような不毛な活動をするのか。
一言でいえば彼らはモテない人々の集まりである。その逆恨みや恋愛に対する拗れた感情を憂さ晴らしするための、
自分たちの慰め(社会的にははた迷惑)をする為の団である。
自分勝手だという自覚はあるが、それ以上に逆恨みや妬みの感情が勝っていた為にこのような団を作るに至った。
彼らは何故モテないのか。何故彼女、彼氏ができないのか。
真は特に風貌や性格、運動神経などで普通の人々に劣る所などは見受けられないが、なぜか今まで彼女が出来た事が無かった。
しいて言えば妄想や思い込みが多少激しい程度で、彼を猫かわいがりしている綺麗な姉は何故真に彼女が出来ないのだろうとぼやいている。
基文は先ほど述べたように、空気や人の気持ちを読めない部分があり、デリカシーに欠ける部分がある。
その癖、恋愛に対しては妙に潔白でこだわりがあり、一言でいえば童貞臭い考えを持っている。その為モテない。
達郎は見た目は身長が高くて痩せており、顔も悪くない。一見すればモテる感じの風貌なのだが、痛い言動が鼻につく事が多く、彼女が出来そうでできないというジレンマを抱えている。モテる為にギターを始めたが所詮モテる為なので初心者レベルのまま上達していない。
彼らに共通しているのは今まで一度も彼女が出来た事がないことである。
そして、普通であればこのような団体には大抵男しかいないものだが、珍しい事にこの団には女性が二人もいる。
亜理彩はかつて彼氏が居た事がある。しかし、彼氏が遠くへ行く事になり遠距離恋愛は無理と言う事で別れたが、しかし彼氏は離れた地で早くも彼女を作ってしまった。風の噂でそれを知った亜理彩は嫉妬の感情を燃え上がらせ、態々現地まで行ってその彼女との仲を裂いたのである。情の深さが裏返ると恐ろしい事になる女だ。
そしてそれが原因で男性に対して不信感を持ってしまい、恋愛に対して二の足を踏んでいるのが現状だ。
瑛美は彼氏は今まで居た事はない。
瑛美の母親は浮気相手と共に彼女が幼いころに蒸発し、今は父親と弟と三人で暮らしている。
身勝手で家族を裏切った母親を許すことが出来ず、それ故に恋愛に対して憎しみの感情を持っている。
但し全く憎み切っているわけではなく、いわゆるBLややおいと呼ばれる物は好んでおり、自分で漫画を書いたりしている。
彼女らは何故これに参加したのか。
彼女らに共通するのは恋愛に対しての憎しみやトラウマを持っている事だ。
恋愛に対する不信感が男たちと同等にある為にこの団の理念に共感し、入団した。
彼らは共通に持っている昏い情熱によって今までは固い団結を持ち、行動を共にしてきた。
しかし、今はその固い結束に綻びがある。少なくとも真にはそう感じ取れた。
真はひとまず、残った二人にも声を掛ける。
「とりあえず、皆家に帰ろうか」
「そうだな。真と瑛美ちゃん、俺が奢るからバーガーショップで軽く何か食っていこうぜ」
「いいですね!私アップルパイとオレンジジュースでお願いです!」
「…」
「なんだ真。辛気臭い顔して元気なさそうだな」
「そんな事無いよ。…奢りなら遠慮なく色々頼むかな」
真と瑛美が先に部屋を出て、鍵を持っている基文が最後に部屋を後にして、ポケットからカギを取り出す。
ドアに鍵を差し込み、捻ると金属音がしてシリンダーが回り、確かに部屋はロックされた。
ビルを出た後に彼らはバーガーショップでとりとめのない話をした。冬休みの事、宿題の事、これからの進路などについて。
その後、彼らはそれぞれの家に戻り、冬休みまで、計画の日までの日常を過ごそうとしていた。
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