第308話 3時間のようです
ダンテを先頭にアリア達は獣道を駆け抜けていた。
迷いも感じさせない走りを見せるダンテにスゥが後ろから問いかける。
「ダンテ、どこに行ったらいいか正確に分かってるの?」
「うん、少なくともポロネがいる場所は分かる。出会った時から違和感を感じてたけど、ポロネの出自がはっきりした今、ポロネの波動を辿るのは難しくないよ」
ずっとダンテはポロネを少し変わった娘ぐらいにしか思っていなかったが、人と精霊の間に生まれた娘と分かれば、半分は精霊であるポロネの力を感応するのは難しくは無かった。
こうやって走っているとドンドンとポロネとの距離が近づくのが分かる。昨日までの穏やかな気配があったポロネの波動ではなく、荒れ狂う海を思わせるような波がダンテを打ち付ける。
その力の波に酔わされそうになるがダンテは下唇を噛み締めて耐える。
この力を感じれる自分の能力がポロネとダンテを繋ぐ唯一の絆だと理解しているから。
「絶対に切らせたりしない!」
そう呟くダンテは加速する為に姿勢を低くすると今までの自分を置き去りにするように山道を駆けた。
▼
先頭を走り続けていたダンテが突然、両手を広げて立ち止まる。
急ブレーキをかけたダンテにぶつかりそうになりながらもアリア達も無事に止まる。
いきなり止まったダンテにレイアがキレ気味で叫ぶ。
「止まるなら止まるって言えよっ!!」
「見つけた」
レイアを無視して、そう呟いたダンテが崖下というには緩やかではあるが下方にある不自然に拓けた場所の中央を指差して見つめる。
ダンテに指差された場所をアリア達が凝視するが首を傾げる。
「どれの事を言ってる? 私には何もない場所にしか見えない」
「えっ? この凄い光景を目の前にして何を言ってるの!?」
慌てた様子のダンテが振り返るがアリアだけでなく、他の子達もダンテは何を言ってるのだろう? という顔を見せていた。
肩を竦めるレイアがダンテの肩を叩いてダンテの隣を通り過ぎようとする。
「暗くて見えないだけかもしれないし、近寄って見れば分かるんじゃねぇ?」
「駄目だ、レイア……危ないっ!」
ダンテがいる所より前に出たレイアの襟首を掴んだダンテが後方に跳ぶ。
襟首が締まって、女の子が出してはいけない類の呻き声を洩らすレイアを掴んだまま、ダンテは眉を顰めて、もう一度跳んだ。
レイアの襟首から手を離したダンテが前方を見つめて難しい顔をしていると咳き込むレイアが胸倉を掴んでくる。
「けほけほ、ダンテ、アタシに何か恨みでもあるのかよ!?」
「待って、レイア。どうやらレイアはダンテに助けて貰ったみたいだよ?」
レイアの肩に手を置くヒースが先程までレイアがいた場所を指差す。
ヒースに指差された場所を見たレイアは驚きの表情を浮かべる。
みんなが見つめる先、レイアが立っていた場所の地面が陥没、何か強い力に叩きつけられてできたヘコミがそこにあった。
困った様子を見せるダンテがみんなを見渡して言ってくる。
「本当にみんなは見えてないんだね……キッジとの話でレイア達が白い糸と言ってものと同じモノが小山になったものがさっきの場所にあったんだけど……どうしてアリア達には見えない?」
「それは、レイア達が見たのは死にかけの精霊だったからよ」
突然、横手から声をかけられたダンテ達は弾かれるようにそちらに顔を向けるとそこには白衣姿のレンが苛立ちを隠さずに髪を掻きむしりながらやってくる。
煙草のようなものを一気に吸い、吐き出しながらダンテ達を見渡した。
ここにレンが現れた事に驚くダンテであったが、被り振ると訳知ってそうなレンに問いかける事にする。
「死にかけの精霊ですか?」
「そうよ、ダンテには精霊が元々から見れるから見えるでしょうけど、アリア達には見えない。でも物質界で死にゆく精霊は人の目にも映るようになるわ」
そう言いながら近寄るレンが「貴方達にも見えるようにしてあげる」と言うと、ダンテを除くアリア達の額に人差し指で突いていく。
すると、アリア達が前方を見つめて声を上げる。
「なんじゃ、ありゃ!?」
「なるほど、アレが見えてたらダンテの行動と言動は理解できるの……」
アリア達の視界に白い触手が蠢き、その触手でドーム状のモノが形成されているのが見え、あそこに無防備に近づこうとしてたレイアなど露骨に嫌な顔を浮かべる。
それを眺めるアリア達を放置してレンがダンテに近寄り、目線を合わせてくる。
「ダンテ、どうしてもポロネを助けるの? 貴方には魔力量、制御力の両方足りてない。クリアしないといけない事が多いうえに、その1つですら貴方にとって命取りなのよ?」
「ごめんなさい、レンさん。僕はもうポロネと家に帰る以外の選択肢を選ばないと決めてます」
辛そうにしつつも言い切ってみせたダンテにレイアが「良く言った!」と喝采を送る。
レイアの短絡さにもだが、頑固になっているダンテに溜息を吐くレンはダンテの頭を抱くように引き寄せる。
「本当にユウイチのところの男の子は、ここぞ、という時、男の子するのよね……褒めてないからね? はっきりと馬鹿にしてるわよ」
馬鹿にしてると言われたダンテが情けない顔を見せるのにレンはクスリと笑い、煙草のようなものを咥えるのを止めるとダンテの額に唇を押し付ける。
顔を真っ赤にして後ずさるダンテに失笑するレン。
「水精獣の加護を与えたわ。本当は2~3年後のダンテの成長具合を見て与える予定だったけど……」
変な勘違いをしてた事に気付いたダンテが更に顔を赤くするのを無視して瞳を覗き込んでくる。
「いい? まだ、ダンテに2つの加護は早過ぎる。だから、ダンテが意識を手放したら、時が来るまで封印される。そうしないとダンテに与えられた加護が暴走する」
レンの説明を受けたダンテが礼を言おうとしてくるが、掌を突き付けたレンが止める。
「これでも、魔力も制御力も心許ない。しかも、ダンテ達に許された時間は日の出まで。これ以上は譲歩できないの。世界崩壊が始まる」
レンの言葉を生唾を飲み込みながら聞いたダンテは夜空に浮かぶ満月の位置が既に傾いている事を知り、日の出まで3時間程度だと見立てる。
「その時になってダンテ達が成功していなければ、貴方達に恨まれようがポロネを消滅させる。これは決定事項よ」
そう言うとレンはダンテ達の返事を聞かずに踵を返す。
去りゆくレンの背中にダンテが叫ぶ。
「レンさん、有難うございます!!」
この状況で礼を言えるダンテに一瞬、面喰うレンであったがすぐに柔らかい笑みを浮かべる。
「頑張りなさい、ダンテ。覚悟を決めた事を中途半端に諦めるような信者は要りませんよ?」
空を飛んで行くレンを見送ったダンテはアリア達に振り向いて見つめると頷かれる。
アリアがいつもの表情に乏しい顔を見せながら、いつも通りのセリフをダンテに放つ。
「んっ、作戦立案、ダンテに信頼全振り」
いつもならダンテが全部は勘弁して叫ぶところだが、格好をつけるように髪を掻き上げながら言ってくる。
「9割は任せて、1割ぐらいは頑張って!」
とてもダンテらしい言葉にアリア達の顔に笑みが浮かぶ。
それを確認したダンテが皆を見渡しながら、今、思い付く限りの作戦を伝え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます