第309話 糸の上で綱渡りする子供達らしいです
白い糸、精霊が糸状になって見えるモノで形成されたドーム状のモノを見下ろせる位置にアリア、レイア、ヒースの3人はいた。
「ひえぇ~ダンテのヤツ、他人事と思って無茶言い過ぎじゃねぇ?」
「ん、否定しないけど、これ以上の方法は私もないと思う」
「意外とダンテって、腹を決めると遠慮ないよね……」
3人に課されたミッションはポロネまで繋ぐ道を切り開く事であった。
ポロネがあの状態になったのはポロネの父親、初代精霊王の加護を得し者からの力を遮断する為である。
ポロネの父親から契約者としての資格を奪う為にもポロネに干渉しなくてはならない。
その為にもポロネを覆う精霊を取り除く必要があった。
しかも切り裂ききるタイミングはダンテの詠唱と合わせないといけない無茶ぶりぶりである。
いくら父親の影響を最小限にする為とはいえ……である。
更に中央にある卵型になった場所にポロネがいるとダンテが言うのでそこにいるのだろうが問題はその距離である。
「ポロネがいるとこまで1kmぐらいあるよな?」
「そうだね……そこまで気の力で切り裂きながら進むんだけど、ダンテの話だと見えた時の糸を切るより強い力がいるという話。それを維持し続けて1kmか……」
「その為に私が配置されてる。体力の回復とブーストの補助、頑張る!」
アリアの言葉にレイアは頬に汗を一滴流しながら「簡単に言ってくれる!」と叫び、ヒースは嬉しそうに「頑張ります!」と胸を張る。
3人はダンテに指定された場所からドーム状になった糸の城を見つめる。
「いくら突進力を加える為といえさぁ?」
「ん、ダンテはウサギの皮を被った鬼」
「これは駆け降りるというより、落下するって言わない?」
ポロネを覆う、もっとも急こう配な場所、限りなく崖の上に3人はいた。
先陣を切る2人、レイアとヒースが生唾を飲み込む傍らでアリアがボソッと言う。
「きっと……ユウさんなら気軽に巴を肩に担ぎながら『いくか?』と余裕そうに笑う」
レイアの片眉が跳ね上がり、ヒースの口は真一文字に絞られる。
「「負けられないっ!!!!」」
呼吸ピッタリに同じセリフを吐くと2人の気が一気に膨れ上がる。
気を練り始める2人を満足そうに頷くアリアは「頑張れ」と言いながら、2人に強化魔法をかけていく。
魔法をかけつつ、ペーシア城がある方向を見つめる。
「ミュウはどこにいるの? ダンテは見かけたら、こちらに行くように言ってくれるとは言ってたけど……」
レイアとヒースとは違う形ではあるが、生命の力という意味では頼りになるミュウの所在がペーシア城に向かってから分からなくなっていた。
ミュウは無駄を嫌う性格をしている上に必要な事を本能的に見抜く野生を持っている。
だから、必要な事をしにいったのだろうとダンテに言われた事もあるがアリアもミュウを信じている。
普段は、お馬鹿さんで食い意地が張っているミュウであるが、ここぞ、という時はアリア達の切れそうになる連携を繋いだり、流れの急所を見抜く頼りになる1つ年上の友達を思う。
「ミュウ、待ってる。早く来て……」
祈る想いも魔法に変わったかのようにアリアの魔法が今までで一番の輝きを放ち、レイアとヒースを包んでいった。
▼
一方、アリア達と違う場所、水の加護、水精獣の加護の力の影響が強い綺麗な泉が沸く傍にやってきたダンテとスゥは簡単に最後の打ち合わせをしていた。
「僕はこれから魔力を練り上げながら、ポロネに干渉しようと思う。可能性だけど、それに反発するように白い糸による攻撃があるかもしれない。さすがにそれに対応できないから……どうしたの、スゥ?」
ダンテの説明を聞いている最中に考え込む様子を見せるスゥが気になって声をかける。
声をかけられた事が踏ん切りになったのかスゥが顔を上げるとダンテに確認してくる。
「ダンテ、ポロネに干渉する魔法を使わずに済めば、精霊界の門を開けるの楽になる?」
「えっ? あ、うん。できれば、すごく楽になるかな? ポロネが通れる門となるとウィンディーネとは比べ物にならない力がいるから」
スゥが何を言いたいか分からないダンテが更に聞こうとした時、スゥが先に口を開く。
『詠唱は想いを昇華させるのをサポートするもの。赤ちゃんがハイハイするように。魔法にとって魔力は火種となる力だけで後は強い想い、言葉の先にあるもので発動させるの』
スゥが思い出すように口にする言葉にダンテが「へっ?」と間の抜けた声を上げる。
そんなダンテを見つめるスゥが話しかける。
「これは『精霊の揺り籠』でホーラさん達を助けた人が言った言葉らしいの。ホーラさんも私もこの言葉に込められた本当の意味は分からない。でも、『詠唱は想いを昇華させるのをサポートするもの』という割り切ったような言葉が正しいのなら本当の意味でダンテのフォローできるの!」
「どういう事なの、スゥ!?」
スゥがとんでもない事を考えてそうで、尚且つ、この状況を好転させる期待を感じるダンテが身を乗り出すように聞く。
言ってるスゥも確信がある訳ではないようで不安からくる緊張から額に汗を滲ませながら言う。
「私は光文字に魔力を込めれるようになったの」
「あっ!?」
そう言われた瞬間に崖上でリホウが言っていた言葉を思い出す。
『あれだけ、諦めろ、と言ったのに隠れて訓練してるようですねぇ。しかも使い方の方向性は合ってる辺り、入れ知恵をしたのがいる……ハクだよな、どう考えても……』
リホウが言って意味はこういう事かと理解に至る。あの現場での爆発したような跡などはその練習の名残なのだろう。
だが、リホウの言葉にもあったが『使い方の方向性は合ってる』という言葉はまだモノにしてないとも取れる事に気付いたダンテがスゥに問う。
「スゥ、光文字を自在に使える? まだ不安があるというなら……」
「ダンテ、ポロネを精霊界へと送る自信はどの程度あるの?」
ダンテはスゥに遮られた言葉に絶句する。
そんなダンテに強がりの笑みを浮かべるスゥが言う。
「アリア、レイア、ヒース、どこに行ったか分からないミュウも、そして私達も不安がない事なんて何もないの! 初めから私達は蜘蛛の糸のような綱渡りをしてるの!」
驚くダンテの胸倉を掴むスゥが、
「御託を言ってる場合じゃないの! やるの? やらないの? やると言うの!!」
と無茶を言ってくるのにダンテは破顔させる。
「普段はおすまし顔してる事の多いスゥなのに、結構、激情家だよね?」
「煩いの! さっさと私に魔法のイメージを寄こすの!」
ほんのりと頬を染めるスゥは、ノーメイク姿を見られた女性のように恥ずかしかったようで背を向ける。
背を向けるスゥに「ありがとう」と感謝の言葉を告げるとダンテはスゥの肩に手を置くと魔法のイメージを伝え始めた。
また1つポロネを助けないと思える理由が増えた、とダンテは口許に笑みを浮かべる。
ダンテ達に残されたリミットまで2時間。
▼
少し時が戻り、ダンテ達が動き出す前の作戦会議をしていた頃、レンがペーシア城に戻り、四大精霊獣が集合した時、そこにピンク色の髪をした獣人の少女が現れる。
それに気付いた四大精霊獣の内の火の精霊獣のリューリカが、この忙しい時に、という想いを隠さずに眉を寄せながら声をかける。
「犬、何しに来た? わらわ達は忙しいのだが?」
「リューリカ、ミュウの枷、外して」
目を細めるリューリカと力みのない瞳で見つめるミュウが視線を交差させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます