第236話 目的と手段を履き違えない事のようです
20階層までクリア済みのアリア達は最短コースを歩きながら、ヒースに質問していた。
「そういえば、ヒースは20階層まで進んでたと言ってたのは聞いてたけど、そこで足止めされてるように聞こえたのは勘違いなの?」
ヒースの隣にいたスゥが思いだしたように聞くと頷いた後に答えてくる。
「はい、確かに20階層までは順調だったのですが足止めを食らっていました。20階層からガラリと変わり、『試練の洞窟』が牙を剥いてきます」
「どう変わるの? 凄まじく敵の強さが跳ね上がるとか?」
後ろで聞いていたダンテは、しまった、という顔をしてが聞いてくる。
聞いているダンテが、しまった、という顔をしているのは前情報を集めずに強さが徐々にランクアップするだけだと勝手に思い込んでいた為であった。
ここまで来る間の難度が優しかったから、気が抜けていた事を示し、ダンテも気付いて自分を戒めた。
「確かに強いモンスターも現れます。僕が知る限りでは最終キャンプ地の40階層では、ゴブリンキングやレッサードラゴンなどが出ると聞いてますが、20~30階層では1度で現れるモンスターの数が増えます。時には先日のオークの群れのように、それだけならいいのですが、もっと厄介な事があります」
「厄介な事?」
聞き返すダンテにヒースは1つ頷くと続ける。
「数はいても烏合の衆であれば戦いようは1人でもあります。ですが、20階層からの種類の違うモンスター同士で徒党、いえ、私達のようにパーティ戦をしてきます」
ヒースの説明を聞いて、アリア達は絶句するほど驚いてしまう。
その言葉通りであれば、統率者がいることを示しているからであった。
アリア達が驚いたのを見て、勘違いさせた事に気付き、手を振って訂正してくる。
「今の説明だと、種族を越えて従えさせるフロアマスターのような者がいるように聞こえたかもしれませんが、それはなさそうです。パーティ同士で戦い合ったり、パーティ内で殺し合いを始める事もありますから」
実際にその場に遭遇したパーティの話では、自分達の事に気付いても、そっちのけで戦い続けたらしい。
そこまで聞いたアリアが疑問に思った事を聞く。
「ヒースはボッチでそういう話を聞きに行く相手がいるとは思わなかった。ちょっと感心」
「えっと……キャンプ地で休憩してたら興奮した人達が大声で話してたんで……」
俯きながら言うヒースを見つめるアリア達は居た堪れない気持ちにされる。
そんなヒースの肩をレイアとダンテが手を置いてくる。
「大丈夫! 今はアタシ達がいる!」
「そうですよ! 僕達は仲間です」
「あ、有難う」
ヒース本人も嬉しいのか悲しいのか分からないが涙を流し始める。
そんなヒースの頭に掌を載せるミュウ。
「男は簡単に泣いたらアカン! ユーイが言ってた」
「そうだね」
返事するヒースは苦笑いを浮かべてミュウに感謝を告げる。
それまで黙っていたスゥがダンテを見て、頷くと頷かれ返されて自信が付いたようで言葉にする。
「それを聞いて納得ですの。ダテに『試練の洞窟』と呼ばれてる訳じゃないの」
「はい、ここを最初にクリアした事がある人が同じような言葉を言われて、そう呼ばれるようになったそうです」
「悪い、アタシにも分かるように言ってくれ」
頭を掻きながら、頭脳労働が苦手なレイアは困った顔を向ける。双子のアリアはどうやら言葉にされて理解した。
ちなみに、ミュウは毅然とした態度で先頭を歩きながら、決して振り返らない。分からないモノは分からないと匙を投げているからであった。
「つまり、20階層までは単純な戦闘力。で、40階層のキャンプ地まではパーティ戦のノウハウを学んだり、ソロでパーティに挑む術が学べる。そして、40階層から最下層までが強敵との戦いという流れなんだろうね」
ダンテの言葉に頷いてみせるヒース。
そう言われて理解に至るレイアであるが、当然のように首を傾げる。
「なんで、そんな都合の良いモノがあるんだ?」
「諸説は色々あるそうですが、大昔にここにダンジョンを生み出した者が訓練所として作った、という話が僕は一番好きです」
嬉しそうに話すヒースが、ダンジョンマスターは人種だったという噂が濃厚と書かれていた、と興奮気味に話す。
それを聞くアリア達は、自分達と会う前のヒースは余暇を本などを読んで寂しさを紛らわせていたのだろうな、と気付き、ヒースの背中をポンポンと5人は叩いていく。
ヒースは目を白黒させるが、自分の知らない友達同士の遊びかと思ったのか、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それはそうと、ヒースはモンスターのパーティ戦に押されて20階層で足止めされてたの?」
「はい、皆さんと出会う前の僕では逃げ帰るのがやっとでした。ですが、今なら力押しで前に進めるかもしれませんが……それは愚かな選択だと巴さんと皆さんが戦う姿を見させて貰って実感してます」
そう言うヒースの言葉で巴との戦いを思い出し、ゲッソリするアリア達。
いくら枷が沢山あり、勝利条件が緩かったといえ、こういう例外もある。
あの時の巴の敗因をあげるなら、1人で処理できる事には限界がある、であった。
「まあ、間違いではない。でもあれは勝てたという気分にはなれなかった」
「だな、ちょっとパーティ戦するモンスターにも興味はあるけど、20階層からは最短コースで行かないと駄目だから、じっくり堪能はできないけど諦めだな」
双子のアリアとレイアが頷き合うがヒースが首を横に振って2人に近寄る。
「言いそびれてましたが、父さんに認められて『精霊の揺り籠』に参加させて貰う為に最下層に急ぎたいという話は忘れてくれませんか?」
「ど、どうしてだよ!」
レイアは、ヒースが父親に認められたくて必死だったのを肌で感じていたし、そう言ってくるヒース自身に未練があるのを感じ取っていた。
ヒースは迷いを振り切るように笑みを浮かべる。
「今回の巴さんとの一件、皆さんにとっても大事な出来事になったように、僕にとっても大事な事を気付く良いキッカケになりました」
「それが、理由で諦めるというの?」
真意を探るように目を細めるスゥがヒースの本音を見極めようとする。
苦笑するヒースが被り振る。
「違います。諦める、諦めない以前の問題で、僕が『精霊の揺り籠』に行く事を許される未来はきっとなかったんです。例え、『試練の洞窟』をクリアしても……それを今回の事で気付けました」
「じゃ、今やってる事はヒースにとって無駄ということ?」
そうアリアに問われるがヒースは迷わずに否定する。
「意味はあります。しっかりとここをクリアして、父さんに「僕も『試練の洞窟』をクリアできました。父さんの仕事を少しずつ、お手伝いさせてください」、と言って父さんの仕事を手伝えます」
「本当にそれでいいのかな?」
ニコニコするダンテが返ってくる返事を予想しながら聞くとヒースも笑みを返す。
「ええ、強さ、結果をひけらかして、させろ、というのは脅迫以外の何物でもありません。僕は『精霊の揺り籠』に行きたかったのではなく、父さんに認められたかったのですから」
「それを言われると耳が痛いの……」
スゥは弱った顔をして苦笑いを浮かべる。
振り返ったスゥの視界にもスゥと同じような顔をする3人が映った。
そこに映らなかった人物はヒースの横に来ると肩をバンバンと叩くと黙ってサムズアップする姿を見せたのはミュウであった。
「ああっ! ミュウ、お前、自分は関係ないって顔してるけど、こっち側だからなっ!」
それに気付いたレイアが叫ぶが知らぬ顔を決めるミュウはじゃれ合うように取っ組み合いを始める。
それを呆れる視線を向けるスゥとダンテを余所にアリアがヒースに問う。
「本当にそれでいい? 機会を逃すと次は同じモノは来ない事が多い。今回のは、まず間違いなく、それ」
「はい。未練がないと言えば嘘になりますが、おそらく僕が打てる一番良い手であるでしょうし、本当の意味で父さんに認められる術だと思います。それに、巴さんは僕にそれを気付かせる為に巻き込んだような気がするんです」
アリアと見つめ合う結果になって頬を紅潮させるヒース。
そんなヒースの様子に気付いたレイアがミュウをダンテの方へと飛ばして「任せた」と色んな意味で投げた。
アリアとヒースの間に割り込むようにやってきたレイアはヒースの手を取ると先頭を歩き出す。
「よし! 分かった。アタシ達が最後まで付き合ってやる」
「あ、有難う!」
いきなりのレイアの行動に焦った様子も見せたヒースだったが、すぐに笑みを浮かべて礼を言う。
それを見送るアリアは微笑ましそうに片頬に手を添えて首を傾げる。
「うふふ、そんなにムキにならなくても、ママはレイアの初恋の相手を取ったりしないのに」
「20階層のキャンプ地まで、しばらくあるから、その『ママ』という件について、ゆっくりと話し合いましょうなの」
ガンを飛ばし合うアリアとスゥ。
アリアは、「望むところ」と鼻息を荒くさせると肩をぶつけ合いながら、歩いて去るのをダンテはミュウと共に見送る。
「ああして争うより、協力し合った方が上手くいくと思うんだけど、ミュウはどう思う?」
そう聞くダンテをジッと見つめるミュウが1つ頷く。
「ダンテ、ミュウ、お腹減った」
「うん、聞いた僕が間違いだったね?」
溜息を吐いたダンテが食べ物を要求するミュウの背中を押しながら「20階層のキャンプ地に着いたらね?」と諭しながらアリア達を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます