第237話 何気に楽しそうなアリア達のようです

 アリア達は袋小路に追い詰められ、壁を背にどうしたものか、と頭を悩ましていた。


 引き攣った顔をしたダンテが声を裏返しながら、隣にいるミュウに叱責する。


「だから、無闇に触っちゃ駄目って言ったじゃないか!」

「ミュウ、猛省」


 表情はたいして悪い事をしたという表情をせずに項垂れる仕草をするミュウに更に食いつこうとしたダンテを隣にいたスゥが止める。


「止めるの、ミュウを責めても何も好転しないの!」


 スゥに諫められたダンテはバツ悪そうな顔をする。


 ダンテらしくない行動だと、アリア達も思うが今は致し方がないと感じているようで別段、ダンテを責めるような視線は寄こされない。


 何故なら、アリア達の一歩前の床はなく、その下には何百匹と言いたくなるような蛇が沢山おり、登ってこようとする蛇をアリアが防御魔法を応用してねずみ返しのようにして登れないようにしていた。


 中にはそれを根性で乗り切る蛇はレイアとヒースにより妨害されていた。


 そう、ダンテは爬虫類は大の苦手なのだ。


 苦手な蛇が波打つ水のように蠢くのを見れば身の毛もよだつといった状態になるのは致し方がない。

 平静も保てるモノじゃない。


「とは言ったものの、どうしたら良いものか悩みどころなの」


 特に苦手という訳ではないスゥですら直視はしたくない蛇達を目の端に捕えながら、こうなった経緯を思い出していた。







 20階層のキャンプ地に着いたアリア達は、軽く休憩を取ると最短コースを恐る恐る進むパーティを横目にズンズンと違うルートを歩き出す。


 ダンテはみんなの真ん中を歩きながら、マッピングをしながら話しかける。


「さっきヒースが言ってたように変わった行動をするモンスターが出始めるはずだから、安易に突っ込まないでね? 特にレイアとミュウ」

「うるせぇよ! ダンテ、分かってるよ」

「ミュウ、しっかり指示を聞いて動ける!」


 若干、不安が残る2人だが、言っておいたか、言ってないかで大きな違いが出る。後で叱る時にしか主に効果はないのが欠点であるが……


 はぁ、溜息を吐くダンテにレイアは肘を当てたり、ミュウはダンテの後ろに周りスリーパーホールドをかけたりしてくる。


 その仲よさげな雰囲気を振り撒く3人を見つめて羨ましげにするヒースが何かを思い出したかのように声を上げる。


「どうした、ヒース?」

「言い忘れがあった事を思い出したんです」


 アリアが声をかけると申し訳なさそうにしてヒースが頭を下げる。


 それと共にアリア達は足を止めてヒースを見つめる。


「20階層からはパーティ戦以外にもトラップがあるそうです。最短ルートは誰かしらが通っているので、運悪く復活したところに遭遇しない限り、危険はないですが、僕達が通るルートは……」

「トラップがそのままあるということなの。それはともかく、ヒースって、大事な事を土壇場で思い出して言う事が多いのは良くないの!」

「しょうがない。ヒースは今までボッチ。誰かと相談する必要がなかったから、自分の中で解決する習慣がついてる」


 ヒースは、本日2度目のアリアからのボッチ宣告でハートがボロボロになりながらも地面を踏み締めて耐える。目端に光るモノがあるのは気付かないのはエチケット。


 そんなヒースの肩に手を置くダンテは力強く頷く。


 頷きに答えるヒースとダンテは力強くハグをする事で男同士の友情が深まるのを感じる。


 代わりにアリア達の疑惑も深まる、以下略。


 男の友情を確認し合ったダンテは、コリコリと頭を指で掻きながら難しい顔をする。


「困ったな。僕達はそういう類の教育は受けてないんだよな」

「それがなんとかなるかもしれませんよ? ダテに『試練の洞窟』と呼ばれてる訳ではないようで、浅い層ではトラップが簡単だそうです」

「なるほどなの。つまり、経験がなくても注意さえすれば解除は可能、しかも、それを経験を積んで深く潜って行くと応用編のように難しくなる。まさに訓練所みたいな場所なの」


 スゥの言葉に「その通りです」と頷いて見せるヒース。


 そうなると心配事は1つとアリア、スゥ、ダンテ、苦笑するヒースが頷き合う。


 頷き合った後、アリアがレイアとミュウに向き合う。


「戦う以外は何もしないで」

「いきなり、戦力外通知かよ!」

「心外、ミュウ、罠見つける、作る、得意!」


 念の為なの、とスゥに説得されてレイアとミュウは渋々納得した。



 それから、しばらく戦闘らしい戦闘もなく、ダンテがマッピングする時間が過ぎて行った。


 そんな一行が、21階層で初めての袋小路に行き当たった。


 普通なら引き返す所だが、仕掛けがあったりするかもしれない、とアリア達が相談していると歩くだけで退屈していたレイアが腕捲りをして壁の方に歩き出す。


「よし、いっちょ、行き止まりの壁を殴ってみよう。そしたら抜け道があるかもしれない……ウゲェ」


 意気揚々と歩くレイアの背後からアリアが襟首を掴んで引っ張る。


 引っ張られたレイアは首が締まり、美少女が出してはいけない類の呻き声を出してしまった。


「いきなり力技に訴えない。後、何もするな、と言ったの忘れた?」

「だからって、いきなり引っ張るなよ! 首が締まって苦しかっただろうが!」


 口で言えば分かる、と憤るレイアであるが、傍で見ていたダンテが「どうだろう?」と首を傾げるのを目敏く見つけたレイアがダンテの両頬を抓んで制裁を始めた。


 それで溜飲が下がったようで、レイアは鼻を鳴らすとその場に座り込む。


 ミュウもレイアを倣うように少し離れた場所で座るのを見たアリア達は手分けしてトラップがあるか探し始めた。


 行き止まりの壁から調べ始めたアリア達を退屈そうに見ていたミュウの耳がピー―ンと伸びる。

 せわしなく辺りを見渡すミュウが座っていた後ろの床に顔を近づけると嬉しげな声を出す。


「ニクの気配、一杯!」


 そう言うと短剣の柄で床を叩き始めるのをアリア達は首を傾げながら見つめる。


 興奮気味のミュウを見つめて、訝しげに見るダンテが口を開く。


「肉の気配って、そんな所にある訳がないでしょ……?」


 ダンテが言葉にしたことによって、アリア達の表情が曇り出す。


 床の下にある肉の気配、つまり、それは……


 ミュウが何かを見つけたようで、嬉しそうな顔をして僅かに出ている突起を叩こうとするのをスローモーションで見つめる気分のダンテが叫ぶ。


「ミュウ! 駄目!」

「がぅ?」


 首を傾げてダンテを見つめるミュウの掌は無情にも突起を押し込んでしまっていた。


 ミュウが押したのは、罠の発動させるスイッチだったらしく、アリア達がいた床は致命的な音を響かせ、天井はゆっくりと降りてくる。


 床がひび割れると咄嗟にアリア達は袋小路に逃げ込み、難を逃れたかのように見えたが、床下から無数の蛇が蠢いていた。







 なんて事があった。


 ヒースが困った顔をしながら低くなっている天井に触れる。


 下がってきた高さは雄一であれば軽く屈まないと駄目な高さだが、アリア達は普通に立っていられる。


 割れた床の距離は5mはあると見え、水平に飛んで移動するのは、レイア、ミュウはでき、アリア達は生活魔法の風により足場を作る事で渡る事ができるがそれをせずにここに留まっていた。


 その理由は……


「ちゃんと始末してからいかないと、この蛇達が他の冒険者見習達に襲いかかったら寝ざめが悪いの」


 という訳である。


「僕もそう思いますが効果的で確実性がある方法が僕にはありません」


 スゥの言葉にヒースは申し訳なさそうに言いながら登ってくる蛇を薙ぎ払う。


 悔しげにするスゥを横目にアリアがダンテに


「ダンテ、何か良い手はない? 私の魔法ではこれが精一杯」

「そうは言われても、持久戦に持ち込むぐらいしか、僕がポプリさんのように火の魔法が使えれば話は変わったんですが、蛇と水の相性は最悪……」


 そう言う、ダンテだが、表情が固まり、顔中に汗が浮きだす。


 固まるダンテをヒース以外の面子がジッと見つめる。


 寝食を共にし、一緒に訓練などをしてきた間柄、何かを感じ取る。


「そ、そうだ! 明かり用に持ってきた油を撒いて火を上手く放てば、もしかするかも……」


 慌てて捲し立てるダンテの顔を両手でガシッと掴むスゥが鼻の頭がぶつかり合う距離、下手に動けばキスをしてしまう距離で問う。


「ダンテ、何を思い付いたの?」

「い、今、言った事だよ!」


 徐々に目を逸らしていくダンテに目を逸らさない、と怒るスゥに涙目にさせられるダンテ。


 嘘だとバレたと言う事はダンテも気付くが必死に抵抗するように口を真一文字にして耐える。


 そんなスゥとダンテの鍔ぜり合いを見つめる気分のアリア達であったが、不意にアリアが声を上げる。


「あっ、そういえば、ユウさんにできるようになったと言ってたアレの事?」


 アリアの声に反応したスゥがダンテを解放してアリアを見つめる。


 同じようにアリアを見つめるダンテは、もう終わった、と呟くと俯く。


 アリアはスゥに続きを促されて言葉にする。


「確か、ダンテの近接対応にユウさんに教えられた『水牢』だった? 自分を中心に水を纏い、その水に取り込まれたモノはダンテが解放する気にならない限り、水の中に取り込まれ続けて窒息するだったような?」


 この場にいる面子の視線を一身に受けるダンテは震えながら力説する。


「む、無理だよ? あんな中に放り込まれて制御し続ける自信ないからね! 僕が爬虫類が苦手って知ってるよね?」


 ダンテが泣きながら、『水牢』に閉じ込められた蛇達をその中央で見つめるのを想像して! と訴えてくる。


 言われるがまま、想像する面子。


 ヒースは絶望だ、と呟き、顔を伏せるが、アリア達は母性が溢れるような笑みを浮かべて、ソッとダンテの体を掴んでくる。


 8つの手に掴まれたダンテは、


「分かってたけど、アリア達は鬼だぁ!」

「大丈夫、私達はいつまでも仲間」

「ダンテなら、できると信じてるの」

「やっぱり、ここは男のダンテにアタシの信頼全振りだぜぇ!」

「ダンテ、帰りにニク奢る」


 イヤイヤするダンテを笑顔でゆっくり引きずるのをヒースが見つめて呟く。


「女の子って可愛く優しいだけじゃないんだ……」

「無理だとは思うけど、ヒース、助けてぇ! 後、ミュウ、奢るお金ないよね? 僕から借りてるのに!」


 そう叫ぶダンテの言葉通り、ヒースは右往左往するだけで役には立たない。


 アリアが右手をスゥが左手を、そして、レイアが右足、ミュウが左足を掴んで宙に浮かせる。


 ギャァ――と叫ぶダンテを振り子のように揺らすと問答無用に蛇の海へと投棄する。


 こうして、初めてのトラップをアリア達は乗り越えた。

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