第219話 敗者復活戦らしいです

 巴と再戦を決めたレイアは、物見遊山である事を隠さないホーラ達3人と、巴には会いたくないが、レイアが心配でシャーロットを始め、子供達全員が着いてやってきた。


 今回の旅に来てる面子でいないのは雄一のみであった。


 巴は最後にヒースを強くしてやる、と言っていた。


 ならば、目を覚ましたらすぐにでも、ヒースを鍛えている絵が浮かんだ。


 そうなると行き先はヒースの家か、きっとあの巴とやりあった場所の近くにいるとレイアは踏んでいた。

 きっと持ち主と似た傾向があると。


 だから、レイアは訓練場所を目指して歩き出した。





 訓練に使ってる場所に着くと、ヒース達の姿はなかったが、すぐに居場所が特定された。少し離れた場所で爆煙が上がるのが見えた為であった。


 煙が上がる場所へと向かうと予想通りに巴とヒースの姿があった。


 ヒースは肩で荒い息を吐く姿は、鬼気迫る表情であった。


 一度は巴に治療されたはずの体には、おざなりに巻かれた包帯に血が滲み、痛々しい。


 何時から始めたか分からないが、相当、巴に体を苛め抜かれているようだ。


 キセルを咥える巴がやってきたレイア達を見上げる。


「おっ? 正直、意外じゃ。昨日の今日で、わっちの前にやってくるとは露ほどにも思ってなかったのじゃ。そこのホーラと言う小娘達と一緒なら勝てるとでも?」

「馬鹿言うな! アタシはアンタのその余裕ぶった面にコイツを叩きいれる為にやってきたんだ!」


 レイアは、握り拳を作ると巴に突き付ける。


 小馬鹿にするように紫煙を吐き出す巴は鼻で笑うように言う。


「わっちは、殺す気で来い、と言ったはずじゃが?」

「相手を殺すかどうか決めるのはアタシだ。相手に指示されてやる理由なんかない」


 レイアの言葉に肩を竦める巴はレイアの後ろで無表情で見守るホーラに目を向ける。


「このクソガキは、こう言っておるが、良いのじゃぞ? お前らが全員かかってきても?」

「覚悟を持って決めた相手を止める野暮をユウに教えて貰ってないさ」


 勿論、助けを求められてないのに助ける無粋もしない、とホーラは淡々と答えながら、巴に近づいていく。


 近づいてきたホーラを目を細めて見つめる巴は薄く笑う。


「今度こそ、わっちはあのクソガキを殺すぞ?」

「好きにするがいいさ。実力じゃ、レイアは勿論、アタイとテツ、ポプリで3人で挑んでも結果は同じさ。ただ、同条件だったら、という注意書きがあるけどね」


 ホーラの言葉に巴は苦虫を噛み締めたような顔をする。


 顔色を変化させる巴に底意地の悪い笑みを浮かべるホーラに巴は舌打ちをする。


 鼻を鳴らす巴は、再び、レイアに視線を向ける。


「わっちとやり合いたいのなら、まずはコヤツ、ヒースを倒してからじゃ」

「な、アタシはアンタとやり合いに来たんだ。なんでヒースと!」


 巴の言葉に動揺が生まれるレイアは、先程までの決意を秘めたような目を泳がせ始める。


 レイアが動揺する様を見て、余裕を取り戻した巴が笑みを浮かべる。


「敗者復活戦をしたいのであれば、相手の条件を飲むモノじゃ」

「アンタ、狙いは分かるけど、性格は最悪さ」


 半眼で見つめたホーラが肩を竦めて皆の下へと帰っていく後ろ姿に鼻を鳴らす巴。


 悔しげに歯軋りするレイアは、やけっぱちになって叫ぶ。


「分かった、やればいいんだろ?」


 レイアは、口にするのを止めたが、ヒースであれば、自分でも無力化できるという思いから受ける。


 巴の下から戻ってくるホーラがレイアの横を通り過ぎる時に、声をかけてくる。


「レイア、油断するんじゃないさ。あのヒースという坊や、ちょっと普通じゃないさ」


 立ち止まらず去るホーラの背中に、「どういう事!」と問いかけるがホーラは何も答えずに戻っていく。


 いきなりの御指名を受けたヒースは困った顔をして巴に声をかける。


「あの……巴さん。僕がレイアさんと戦う理由はないと思うのですが……」


 ヒースはレイアを見つめた後、その後方でレイアを心配そうに見つめるアリアをチラッと見つめた後、巴を改めて見つめる。


 紫煙を美味しそうに吐く巴はキセルをヒースに突き付ける。


「強くなりたくないのかの?」


 そう言われた瞬間、ヒースは顔を強張らせて背筋を伸ばす。


「確かに、行き先も分からないお前は向かう先は気付けた。じゃが、その先を進む為には乗り越えないといけない壁がある。それを独力で乗り越えられるというのじゃったら、好きにするのじゃ」


 そう言われたヒースは俯いて顔を上げると先程、巴と訓練をしてた時と同じ、鬼気迫る表情をしながら感情を殺した声で呟く。


「強くなりたいです」


 何の気負いもない動作でキセルをレイアに向ける。


「わっちが命令してやるのじゃ。あのクソガキを殺せ」

「はいっ!」


 返事すると迷いもなくシミタ―を抜き放つとレイアに迫る。


「なっ!」


 だいぶ距離が離れていたのに、レイアの短い悲鳴の間で詰め寄られる。


 慌てて後方に飛び、回避体勢に入ろうとするレイアであったが、ヒースのシミターが既にレイアの首を刈り取る軌道を描いていた。


 咄嗟にヒースのシミタ―の腹をアッパーカットする事で更に飛びのいて距離を取る事に成功する。


 距離を取られたヒースはシミタ―を構えてレイアに殺気を飛ばしてくる。


 レイア、いや、アリア達も今のヒースの動きに驚きを隠せなかった。


 間違いなく、昨日までのヒースであれば、レイア達の実力の方が上だったと確信していた。


 だが、蓋を開いたら、どうだ。


 ヒースはレイアと互角、いや、押していた。


 そんなレイア達の驚く顔を見て、カッカカ、と笑う巴が話しかけてくる。


「こんなはずじゃ、と思っておるようじゃな? 間違っておらんのじゃ。昨日までのコヤツならクソガキの圧勝じゃっただろうな」

「ひ、ヒースに何をしたの! 1日でそんなに強くなれたら苦労ないの!」


 後ろで見てたスゥが居ても経ってもられなくなったようで、声を震わせながら叫ぶ。


「聞き捨てならん事をペラペラ吼えるなよ? 負け犬が。わっちはただ、コヤツの力の使い方を教えてやったに過ぎん。時折、居るのじゃ。普通が邪魔する変則的な天才がな。そう言う意味では、お前らが兄と慕う、そこのアルビノと一緒じゃ」

「えっ、僕?」


 いきなり、話に巻き込まれて目を白黒させるテツであったが、傍にいるホーラとポプリがバツ悪そうな顔をする。


「これは不味いですね、レイアが巴さんとやり合う前に……」

「ちっ、そう言う事か……本当に厄介さ」


 その呟きを聞いたアリアが叫ぶ。


「レイア、危なすぎる。無理してまで戦う意味なんか……」

「意味はある!!」


 振り向かずにレイアは腹からの声を上げる。


「アタシ、アタシ達にはあったはずだ。それを忘れたアリア達はそこで見てろ。アタシがそれを見せてやる!」


 両手の掌を突き出すにして構えるレイアは緊張からの汗を流しながらも、口の端を上げて虚勢を張る。


 シミタ―を構えるヒースを睨みつけるレイアは「来い」と挑発する。


 すると、迷いを見せないヒースが飛びかかってくる。


 レイアはそんなヒースの懐に一歩踏み出す。


 振り翳されるシミタ―を右手で半円を描くよう逸らして軌道を変えて、すり足でコンパスで円を描くようにして左側に廻り込み、ヒースの斜め後ろから拳を放ち、脇腹を貫く。


 レイアの拳を食らったヒースは激痛に耐えるような表情をしながら、たたら踏む。


 再び、同じ構えをするレイアは神経を集中させるが、1点を見つめずにレイアの世界を広げながら、ダンガのいつもの訓練場所での事を思い出す。





「はぁ、何度言ったら分かるんだ?」

「だから、そんな廻りくどい方法でしなくても、一気に詰め寄って、一撃で敵を屠ればいいんだろ?」


 どんぶり勘定のレイアが、ギャアギャアと叫ぶのを困った顔をする雄一が頭をボリボリと掻いている。


 こんな事ではいけないと首を振る雄一が人差し指を立てて、レイアに詰め寄って頑張る。


「あのな? 格下の相手ならそれでいいが、実力が近しい相手や強い相手をする時はどうするんだ? 例えば、俺やテツを相手にする時は?」

「ぐっ、頑張って強くなるから大丈夫!」


 口を突き出して横を向くレイアを見て、頭痛に耐えるようにする雄一が、「強くなるまで待って貰えるといいな?」と言うとバツ悪そうな顔を向けてくる。


「レイアはスゥのように防具に頼った戦い方はできない。そんなレイアができる攻撃にいなす方法は3つだ。一つは速度頼りで逃げ回る。その速度でどうにもならない相手の攻撃には……」





 持ち直したヒースがレイアに先程より早い動きで襲いかかる。


 今度は真横からの攻撃に切り替えてくる。


 レイアは迷いもなく触れ合える程の距離まで詰め寄り、シミタ―を持つヒースの手首を掴むレイアは足捌きで円を描くようにしてヒースに背を向けると一本背負いの要領で投げ飛ばす。


 投げ飛ばされたヒースを見つめるレイアは、復習するように呟く。


「円は力の循環。その流れを理解できれば受け流せる。アタシの安全領域は怖いと思える一歩前!」


 地面に叩きつけられたヒースは飛び起きると、再び、レイアに飛びかかる。


 だが、受け流され、流れに逆らわないレイアの蹴りが背中を蹴っ飛ばす。




 そんなレイアを見つめていたシャーロットは安堵の溜息を吐いて、ホーラに話しかける。


「一時はどうなるかと思ったが、レイアが押しているな」


 嬉しそうに見つめるシャーロットであったが、ホーラ達3人の表情が固まっている事に訝しげに見つめる。


「確かに押しているように見えます、ですが……」

「ああ、あの巴が笑って見てるさ。まだ隠し玉があると見た方がいいさ」


 ホーラとポプリがそう言うのをテツは目を細めながら頷いて見せる。


 シャーロット達の会話を聞いていたアリア達は、祈るようにレイアを見つめる。


「どうして、戦うの? レイア……」


 アリアは妹の考えている事が分からず、辛そうに見つめる。


 こんな時、シホーヌに制限された力が使えない事が腹立たしく思うアリアであった。




 しこたま、レイアにやられたい放題にされたヒースが脇腹を押さえながら、後ろにいる巴に声をかける。


「と、巴さん」

「良いのじゃ。使う事を許可する。それで勝負を決めてくるのじゃ」


 そう言われたヒースの気配が変わるのをレイアは感じる。


 半身でシミタ―を構えるヒースの力、気と雄一が呼ぶ力がある一か所に流れるのを感じる。


 集まる先に視線を向ける。


 それを見たレイアが目を剥き出しにして口をパクパクさせる。


 離れた所で見ていたシャーロットとメリーを除いた面子が声を上げる。


「そんな馬鹿な、それができるのは……」


 ホーラは絶句する。


 それを間近で見ているレイアは首を横に振りながら後ずさる。


「アイツと同じ事が出来るヤツがいるなんて……」


 レイアの視界にはシミタ―に白いオーラを纏わすヒースの姿があった。


 そう、雄一が巴にオーラを纏わすそれと酷似する姿にレイアは身を震わせ始めた。

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