第208話 お前ら何してるんだ?のようです

 怒りに染まり、ホーラ達に羽交い締めにされる雄一を眺める雄一バカの2人が勝利の美酒に酔いしれる。

 今にも暴れ出しそうな雄一に微笑みかけていると入り口側で騒ぎが起きて要る事に気付く面子達。


「ユウイチという冒険者はいるか!」

「ダンガから来られたユウイチ様! 居られたら、手を上げてください」


 などと騒ぐ声が冒険者ギルドに響き渡る。


 いきなり、自分の名前を叫ばれた事で我に返った雄一が振り返ると20人ぐらいの冒険者風の者や、商人風の者達が辺りを見渡す。


「な、なんだ? こっちに来てから、まだ何もしてないはずだ。おい、ミラー。ダンガの評価はまったく無意味なんだよな?」

「ええ、ダンガの評価はまったくの無意味ですね。ダンガのはね」


 うろたえる雄一にミラーは、余裕の笑みを浮かべる。


 そんな雄一を含み笑いするエイビスは人差し指を立てながら話しかけてくる。


「それはですね。ユウイチ殿が船旅の間に狩ったシーサーペントを見て、コミュニティの勧誘、ブローカ―契約を結ぼうとやってきたのでしょう。まったく、情報が古いですね?」


 雄一の事なら何でも知っていると言わんばかりのドヤ顔をで説明するエイビスにドン引きする雄一。


 雄一達が馬鹿をやっている間に先程から騒いでいたので、周りの冒険者達に認知されていたようで、リークされた者達が雄一の下へと駆け寄る。


 先陣を切るように走ってきたのは、そのまま英雄物語系の俳優に抜擢されそうな渋い男前が、少しおっかなびっくりにしながらも雄一の肩に手を置く。


「初見で分かるぞ。凄まじく腕が立つ男だという事が、その周りにいる少年少女も只者じゃない。君を幹部扱いでスカウトしたい。できれば、後ろの少年少女も!」


 自分達のコミュニティはザガンで3本指に入る大手コミュニティだと更に売り込んでくる。


 それに触発されるように勧誘目的でやってきたコミュニティの者達も騒ぎ始める。


 それを見た雄一はホーラ達を一度振り返るが、ホーラはお手上げのポーズでポプリはお任せします、と合図をしてくるが、テツは……聞くだけ無駄と見るのを止める。


 騒ぐ面子を見ながら、不本意であるミラーを頼って独自に動いたほうが良さそうだと思う雄一は波風を立てない断り方に頭を捻り出す。


 雄一が口を開く前にミラーが「コミュニティの代表の方々」と口を挟んできた。


「うるさい! 冒険者ギルドには関係ないだろう!」

「いえ、関係あります。私はミラーと申します。ユウイチ様はザガンでなく、ダンガにあるコミュニティの臨時拡張という形で参加を決められております。ユウイチ様は私の(オモチャ)担当コミュニティなのですから」


 決め顔で言うミラーは、申請書の諸々を突き付ける。


 そこには雄一のサインが書かれており、不備のない見事な偽造書類であった。


 何故なら、雄一はサインした覚えがない。


 しかも、無駄に本人でも見分ける事が無理なレベルの筆跡で書かれていた。


 確かに渡されたらサインする気ではあった雄一ではあるが、やはりコイツは切り捨てた方が世の為だろうかと苦悩する。


 コミュニティの者達がその書類を見つめると舌打ちをして去っていく。


「確かにコミュニティや担当受付などは統一した方がよろしいでしょうが、ブローカー、取引相手の窓口は多い方がよろしいですよ。大手コミュニティでは例外なくそうされております」


 そう言う先頭の商人の言葉がキッカケになり口火を切られる。


 騒々しい対応に苛立った雄一がテツミサイルの検討に入った頃、軽く掌を叩く音をさせて雄一の前に出てくる男、エイビスが商人達に笑みを浮かべてお辞儀をした。


「ユウイチ殿は私と(遊ぶ約束)専属契約を結ばれました。申し訳ありませんがお引き取りを……」


 ニヤニヤした笑みを浮かべながら、商人達の対応をするエイビスは楽しそう、いや、実際に楽しくてしょうがないのであろう。


 エイビスの姿を認めた商人達はすこぶる嫌そうな顔をする。


「げっ、『祟り神のエイビス』だ!」

「これがあの敵対すると決まって不幸な目に会うという?」


 恐れるように一歩下がる商人達は恐ろしいモノを見つめるような目をする。


「不幸になる前に必ずと家に『お家訪問!』というカードが飛び込んでくるらしく、何かを盗まれた物はないので安堵していると、その後、不幸になるらしい。忍び込んでくる者の目撃情報で紫の全身タイツ姿の中年の姿が確認されてる以外不明という話だ」

「新しい情報で、昨日、そのタイツに仲間がいる事が判明したらしいぞ!」


 その新しい相方は金髪のエルフが青いタイツを纏い、屋根伝いで走る姿を目撃されたようだ。


 不幸と言われると凄いモノを連想するが、聞く所によると、ある商人の奥さんの読みかけの本のしおりの代わりのように挟まれていた便箋を開けると、夫の浮気の動かぬ証拠などが記載されていた。


 また違う者は、ミミちゃん(4歳)に飴をあげるのが日課だった商人ジャン(偽名)30歳。


 少し太めの棒状の飴を舐める姿を眺めるだけの紳士だったらしいが、その情報が拡散したと同時にザガンから姿を消したらしい。


 どうやら、エイビスとの関わりを拒否した商人達が1人、また1人と去って行き、誰も残らなかった。


「この2人を誰かとチェンジして欲しい……」


 顔を両手で覆う雄一は捻り出すようにして言葉を洩らす。


 そんな雄一をほくそ笑むミラーとエイビス。


「ユウイチ殿、シーサーペントの素材関係もですが、私の方で取引させて貰うモノは全て、貢献度を優先順位にした処理の仕方にさせて貰いますが、宜しいでしょうか?」


 取扱いの基準をエイビスが求めてくる。


 金などいらないとは雄一も言わないが、それより今は時間の方が重要視される為、迷わず頷く。


「それで構わない。本当に無駄な時間はない。だから、性格は悪いが腕だけは信用してる、頼むぞ」


 それに笑みを浮かべて頷くエイビスから引き継ぐように、ミラーが話しかけてくる。


「明日からユウイチ様のザガン冒険者ライフが始まります。明日の朝にお勧めの依頼を用意しておきますので」


 食事などの用意はエイビスが用意しておいてくれるようなので旅支度は不要と言われる。


 特に異論はないし、雄一もまたこの2人の相手で疲れ切っていたので、頷いて了承しておとなしくする事にした。


 満面の笑みを浮かべた2人に手を振って見送られる雄一は、珍しく肩を落としながら冒険者ギルドを出ると丁度、冒険者ギルドを見に来た所のアリア達を発見する。


 心が疲弊している雄一は子供達に癒しを求める。


 そして雄一は、子供達を1人ずつハグしていく。


 アリアとミュウとスゥは素直に喜び、ダンテはどことなく恥ずかしそうにする。


 最後にレイアを抱き締めようとするが、


「気持ち悪いっ!」


 と、追い討ちをかけるような言葉を吐かれる。


 普段の雄一であれば即死系の言葉だが、その言葉ですら今日は心地良いらしい。


 それでも抱きつこうとする雄一の頬を抉るようにカウンターパンチを入れられる雄一は、とても幸せそうに笑みを浮かべた。

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