第203話 運命の糸をダンガと繋いだものとの邂逅のようです
雄一達が港町に昼過ぎに着いた。
港で雄一達は待ち人を捜して辺りを見渡す。
「女王の話だとダンガ周辺を治める領主の使いが来てると聞いていたんだが?」
「でも、でも、あそこの外洋に出るタイプの船が1隻だけあるので、あれじゃないんですか?」
それほど大きくない港で今ある船で外洋に出れそうな船はポプリが言うようにアレ一隻しかない。
おそらくそうだとは思うが、ここに来ていると思われる使いを放置するのも住んでるダンガを治める領主を蔑ろにしていくように感じる雄一は頷きはするが動く様子を見せなかった。
子供達が船に興奮して、そろそろレイアとミュウを押さえるのが無理かな? と思わされた時、雄一達に一直線に近寄る一団に気付く。
先頭を身綺麗で、品の良いセンスを感じさせる出で立ちの初老の男性が5人程の騎士風の者を引き連れてやってくる。
雄一の前で止まると柔らかい笑みを浮かべる。柔らかい笑みを浮かべるが雄一を見つめる眼光は歴戦の戦士を思わせる。
「貴公がユウイチ殿だな? 顔合わせは初めてだが、数々の噂は聞き及んでいる」
「失礼だが、貴方はどなただ?」
見定められるように見られるのは慣れがあるとはいえ、誰とも知らない相手にされて、良い気分はしない雄一は名を訪ねる。
そう言われた初老の男性は、しまった! と驚いたような顔がどこか憎めない愛嬌を漂わせる。
「これは、失礼した。一度、ちゃんと会ってみたいと思っていたので、はしゃぎ過ぎてたようだ。ワシはダンガ一帯を治める領主ペペロンチーノと申す」
ペペロンチーノは雄一に握手を求めて手を差し出してくる。
それに対して、雄一は顔を引き攣らせながら、申し訳なさそうにしながらペペロンチーノの手を掴んで握手をする。
それを見たホーラ達は訝しい顔を雄一に向ける。
ホーラ達からすると雄一の態度は違和感だらけであった。
一般論で言えば、領主に会いたかったと言われて握手を求められたら、緊張の一つもするだろう。
だが、雄一は王族が相手だろうが、神と同義のエルダ―エルフは勿論、人から見れば神と同列である精霊や精霊獣にも変わらぬ態度を示していた。
それがどうした、只の一領主に腰がやや低くなっている雄一に違和感を感じさせられない訳がない。
握手をしたままのペペロンチーノは悪戯っ子のような顔をすると雄一に近づき、雄一にしか聞こえないように話しかける。
「あの時、騙されてやって本当に良かった。あの金髪のお嬢ちゃんは息災か?」
「あはは、その節はご迷惑をおかけしました。おかしいとは思ってましたが、やはり、そういうカラクリですか……ええ、無駄に元気です」
予想はしていたが、やはりそういう事とはっきりと分かると涙腺が緩みそうになる雄一であった。
「なあに、たった紙きれ一枚で、お主をダンガに招き入れる事になった。ワシは自分のカンを信じて生きてきた。だが、これまでの一番の大成功がこれだ。むしろ、お嬢ちゃんには感謝しておるよ」
「はぁ、恐縮です」
そんな雄一の背中をバンバンと叩くペペロンチーノは、ホーラ達に顔を向ける。
「さあ、お連れの方達、船は用意してある。若干一名、乗せていいのか? と思わされる人物がいるような気がするが、気のせいですかな?」
「ええ、きっと気のせいです」
おどけるペペロンチーノは、ポプリを見つめてそう言うが、崩れぬ笑顔を向けるポプリは、いけしゃあしゃあと言い放つ。
このドサクサに紛れてポプリを置き去りにしようと謀ったホーラが動こうとした。
だが、それを察知した子供達5人が抑え込む。
「ホーラ姉、気持ちは分かるけど、耐えてくれ」
「ポプリが癇癪起こしたら、きっと私達が巻き添えで居残りさせられる」
双子が必死に説得して、ミュウが背中から抱き付いて口を押さえる。
スゥとダンテがペペロンチーノとポプリに愛想笑いを浮かべる。
「もう、みんな待ちきれないみたいなの。お船に案内してくれると嬉しいの」
「うふふ、お子様が痺れを切らしてしまったので、お願いできますか?」
「そのようだ。では、ご案内しましょう」
ポプリの分厚い仮面は剥がれる事なく、笑みを浮かべながらそう言うと、ペペロンチーノは、好々爺然した笑みを浮かべる。
案内される中、雄一の様子がおかしかった事が気になっていたポプリがテツの脇腹を笑みを振り撒きながら肘で抉る。
抉られたテツは恨めしそうにポプリを見ると、目で聞け、と命令されて情けない顔をして雄一に質問する。
「ユウイチさん、どうして、ペペロンチーノさんに申し訳なさそうな顔をしてたんですか?」
「ああ、シホーヌが以前にやらかしてな……」
それに聞き耳を立てていた者達は全員が、ああ……と残念そうに溜息を零す。
細かい説明はいらない。
シホーヌがしでかしたとだけ分かれば、みんな聞く必要性を失う。
歩く理由のシホーヌの
▼
港に着くとその船を見上げる。
マストが3本あり、高く丸みを帯びた船尾と船首に突き出した帆柱状やりだしを持っている船を見て、雄一はキャラック船に似ていると思う。
元の世界の大航海時代では外洋に出る船では一番ポピュラーなもので有名なタイプだが、この世界でもあるんだな、と見つめる。
ただ……と雄一は頬に汗を流す。
大きな上部構造であるキャラックは強風で転覆しがちであった、と本に書かれていたような気がするが、覚え間違いであって欲しいと雄一は思う。
船に近づくとペペロンチーノの姿に気付いたと思われる船員達が船から駆け下りてくる。
ペペロンチーノを迎えるように1列に整列した、海の男、といった精悍な顔つきをした男達が息を合わせて頭を下げる。
「お待ちしておりました」
船長らしい人がペペロンチーノに頭を下げた後に雄一を見つめて、もう一度頭を下げてくる。
ペペロンチーノが嬉しげに彼らを紹介してくる。
「我が領の自慢の船員達だ。ユウイチ殿達の安全な船旅を約束するだろう」
「ウチの船員達は荒くれ者ばかりですが、きっちりと公私の区別は付いておりますので、ご安心ください」
ペペロンチーノの言葉を受けて、船長が自信ありげに行ってくるので雄一が問う。
「悪さするヤツがいたら、ぶん殴っていいか?」
それを聞いた船長が船員に振り返る。
「勿論です!!!」
気迫が籠った返事を聞いた雄一が続ける。
「家の子達に色目使ったら魚のエサにしていいか?」
船長はコメカミに汗を浮かばせながら振り返る。
「……も、勿論です」
「何故、間が合って、どもるだけでなく声が小さい?」
船長、船員が涙を流しながら、やけっぱちになって叫ぶ。
「勿論です!!!!!!!!!!!」
どうやら、あわよくばと口説く気はあったようだ。
青田買いとばかりに子供達を声をかけるものがいたら本気でする用意がある雄一だったので聞いておいて良かったようだ。
本当に魚のえさにしなくて済んだのだから。
ホーラ達は? となるが、あちらは自分で処理するだろうし、雄一が今のようにクギを刺しておかないと無謀に挑んだ奴らが、次の朝日を拝めないようになる恐れがあったので雄一が泥を被る事になった。
若干、対処の意味ではシャーロットが心配だったが、今はメリーが船を見て興奮したようでシャーロットの服の裾を激しく引っ張っていた。
それに苦笑しながら、
「分かったから、落ち着こう。これから乗るのだからな?」
と諭していた。
気を取り直した船長が雄一に言ってくる。
「もし、今日、出発されるのであれば、すぐにしたいと思うのですが?」
「急ぐ理由があるのか?」
「はい、これから日が暮れてくると港周辺には岩礁がありますので避けるのが難しくなります。無駄に出航の難易度を上げるのは愚策かと」
雄一はもっともな判断だと思い、後ろを振り返る。
ホーラ達は、問題ないと頷いてくる。
その後ろの子供達はむしろ我慢できないからすぐ乗せろと言わんばかりに鼻息を荒くしていた。
メリーは台所でシチューを作っていると突然現れて小皿を突き出して必死に味見をせがむアリアを思い出すように、船を指差して何度も背伸びをする。
そんなメリーをダッコするシャーロットは苦笑をこちらに向けてくる。
今回、メリーには本当に良い刺激になるかもな、そう思う雄一は笑みを浮かべると船長に「すぐに出航の準備を頼む」と伝える。
逞しい船員達と一緒に船長が、オウッ! と返答すると駆け足で船に駆け込む。
「では、ユウイチ殿、良い船旅をお祈りしている」
「助かりました。ペペロンチーノ様」
本当に知らない所で色々、お世話になっていた事が今回、発覚した雄一はその気持ちを込めて頭を下げる。
「止めてくれ、救国の英雄に様付けされると震えが来るわ。なんなら、お爺ちゃんと言ってくれてもいいぐらいだぞ?」
「余計にハードルが上がった気がしますよ。ペペロンチーノ殿」
笑みを浮かべたペペロンチーノは、「次はせめて、さん付けで頼む」と言うと護衛の兵士を連れて去って行った。
ペペロンチーノの姿が見えなくなるまで、雄一は見送り、最後にもう一度頭を下げるとみんなを連れて船に乗り込んだ。
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