幕間 世界を渡ろうとする者

 暗闇の中にある暗闇という矛盾したような存在がそこにはあった。


 水晶から照らされる暗い光が当たって初めて、そこに存在していた事が分かる。


 痩せ気味の体躯にゆったりとしたローブのようなモノを纏った所謂、魔法使いのような出で立ちモノが存在した。


 目元は纏ったローブの一部で隠れて見えない。


 こんな暗闇で誰もいない場所にいられるこの者は普通ではない。


 その者は水晶を覗き込みながら唸る。


「ぬぅ、口惜しい。本来なら今回打った手で向こうの世界に渡れたはずなのに、あの使えない女、3割も進められずに負けるとは……」


 どうやら、声からすると男のようだ。


 水晶に魔力を込める事で映る姿、剃髪の修行僧のような格好をした男前が映る。


 男は魔法陣を発見すると問答無用に破壊すると次の場所に移動を開始する姿が映っていた。


「この男のせいで、あった3割の魔法陣も次々と破壊されて、この調子でいけば計画は1割程度しか進ませる事ができないな……」


 舌打ちすると、何故か呻くような声を洩らす。


 男はローブをはだけて前を露出させる。


 締まった体は必要最低限の筋肉を纏い、痩せマッチョになり損ねたような体をしていた。


 その体の肩から脇腹に駆けて一直線に刀傷が走り、痛々しい傷を見せていた。


 かろうじてカサブタ程度にくっついていたが、今さっきの舌打ちがキッカケで傷が開いて血が滲んでいた。


「私の体は傷を負ってもすぐ治るはず、なのに、この傷は二月近く経つというのに、こうも治りが悪い」


 傷を付けられた時の事を思い出す。





「こっちの世界で何かやる気ならまずは北川家に菓子折り1つでも持って挨拶にきやがれぇ!!」


 そう叫ぶ男を見て、何を馬鹿な事をやろうとしてるのだろうかと私は思った。


 自分ですら世界の壁を超えられないから違う世界の住人を送り込む事で介入しようとしている。


 天に唾を吐く愚か者か、とあの時は思っていた。


 確かに油断もあった。


 だが、気付けば、ヤツのエネルギー波は世界の壁を超えて、私に襲いかかった。

 油断から防御が遅れたがギリギリ命を拾う事には成功した。


 あの女に与えた任務が現実より進んでいて、後、2割、いや、1割、世界の壁を薄くしていたら、油断してた私はあの一撃で終わっていたであろう。





 過去の映像を映し出した男は、こちらを睨む長い髪を結った偉丈夫の大男を怨念が籠った眼で睨みつける。


「半神半精の混ざりモノが、正しい加護を宿し者か……胸糞悪い」


 八つ裂きにしてやりたいと呟くが、まずは世界の壁を開けないといけない事に至り、歯軋りをする。


「次の一手を打ったら、傷を癒す事に専念するか。このままで向こうに渡ったところで、この傷のせいで不覚を取りかねん」


 水晶から背を向けた男がもう一度、水晶に映る男を睨む。


「キタガワ ユウイチか、私は混ざりモノなどには負けはしない。神となった私にはな」


 水晶から離れていく男は呟く。


「私は認めない。光を、正しいという事を、ただ、受け入れたくない現実だけを突き付ける禍々しい聖を……それは不要なものと証明してみせる」


 闇に消えゆく男が最後に残した言葉。


「この神となった私、『ホウライ』の名にかけて」

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