第192話 小さい誤差と大きな違いらしいです

「裏切り者なのですぅ!」


 雄一達が出発した次の日、冒険者達の選定が済み、本人の意思確認が済んだ者達50名ほどのメンバーが馬車に荷物を載せてる。


 そんな一角で駄女神ことシホーヌが苦笑いする子供達にマジ泣きしながら抗議をしていた。


「レイア達だけ、頼りにされてるのはおかしいのですぅ! どうして私は何も言われてないのですぅ!」

「しょうがないじゃん? させてくれって頼んだ訳じゃないしな?」


 シホーヌに詰め寄られて、仕方なしなんだ、と言うレイアの口許は緩んでいた。

 別にレイアに限らず、アリア達も少し楽しげであった。


 何せ、ゴブリン討伐依頼の1件以来、地味な訓練ばかりを繰り返させられていて、違う訓練を! と嘆願した。


 そして、嘆願した事を子供達は後悔した。


 以前行ったスネ湖に連れて行かれて、ホーラに石を抱えて泳げ、と言われ、岸から岸を10往復させられた。


 しかも、泳いでいる時にラミアに襲われたが、湖の上を跳ねるように飛んでやってきたホーラにより瞬殺されるのを見守った子供達は、逆らってはいけない人ランキングの殿堂入りさせたとかないとか。


 後悔した子供達はそれ以降、ホーラに逆らわずに淡々と訓練に勤しんだ。




 そんな日々だったが、テツが出発する時にロットを連れて子供達の所にやってきた。


「ねぇ、皆にお願いがあるんだけど、パラメキ国にいるロットの婚約者に手紙を持って行って、本人がダンガに来る気だったら護衛して連れて帰って来てくれないかな?」


 どうやら、ポプリが今回の事を済ませたら、可能な限り、城に戻る気がないと言われたようで、ロットはその事を伝えて、ダンガに来ないか? と手紙を書いたらしい。


 子供達はテツを利用した罠かと警戒してテツの後方にいるホーラに目を向けると、


「好きにしな。ユウも本人達に任せると言ってたさ」

「どうかな? 嫌なら他の冒険者に頼むけど?」


 テツが差し出す手紙を奪うように受け取るレイアが瞳をキラキラさせる。


 アリア達も異論などない。もう単調な反復訓練から解放されるなら何でもいいと思ってたら遠出のお許しが出たのだ。


「やるっ! アタシ達がやり遂げる」

「良かった。ロットの婚約者さんも一緒にいる相手が男だと不安だろうけど、レイア達なら安心だしね」


 手紙をゲットして皆の下へと走るレイアがお祭り騒ぎする背後から声をかけられる。


「分かってると思うけど、今回、やらかしたら将来は冒険者以外の仕事に就いて貰う事になる事を忘れないように」


 気付けば、背後にはホーラが微笑みながら立っており、一番やらかしそうなレイアとミュウの肩を抱き寄せるようにして笑みを浮かべる。


「了解さ?」


 壊れた玩具のようにガックンガックンを頷くレイアとミュウの顔は青を通り越えて、真っ白になっていた。


 残る3人も安易に受けたか、と若干後悔を滲ませていた。



 という事があり、レイア達は居残り組から脱した。


 その事情は、シホーヌも知っていたが納得できないらしい。おそらく、アクアは雄一に頼まれて出かけているのが拍車をかけていた。


「もう文句言うなよ。『のーひっと』でケーキ驕ってやっただろ?」

「そんなモノ、とっくに消化しちゃったのですぅ!」


 子供達と騒ぐシホーヌに近寄る可愛らしい顔をした少年、トランが声をかける。


「その件でユウイチさんからシホーヌさんに伝言があるのですけど、聞きます?」

「何なのですぅ?」


 子供達と騒ぐを止めたシホーヌがトランに向き合う。


 トランは、「状況的に少し言い辛くなった」と、ぼやきながら口を開く。


「えっと、ユウイチさんが出発前にシホーヌさんがごねてたら、真面目にする気があるなら子供達に着いていって良いと仰ってたんですが……」

「行くのですぅ! 真面目にやるのですぅ!」


 即答するシホーヌは、ユルそうな顔を、ちょっとユルそう顔にクラスアップさせて、レイアに手を差し出す。


「色々行き違いがあったのですぅ……でも私達の友情は永遠なのですぅ!」


 差し出された手をレイアは半眼で見つめながら弾く。


 その行動が信じられない、とシホーヌは驚愕の表情を見せる。


「ケーキ代の銅貨30枚返せっ!」

「もうお小遣いはないのですぅ!」

「……先週貰ったばかりなの……」


 ケーキ代を請求するレイアと文なしシホーヌがやり合うのをスゥが頭を抱えて呟いた。


 レイアに便乗するように、「返せっ!」と騒ぐミュウに「ミュウは銅貨1枚も出してないからね?」と諭すダンテ。


 そのどれにも参加しなかったアリアは、嘆息するとシホーヌの部屋を目指して歩き出す。

 シホーヌの旅支度をしないと、出発が遅れるからというのもあるが年長(・・)さんとして頑張ると意気込んでいた。


 年上扱いして貰えない金色頭とピンク頭は楽しそうに騒ぎ続けた。







 ペーシア王国の港から遥か東の海上に2人の女性が立っていた


 1人は水の精、アクア、もう1人が水の精霊獣のレンであった。


 2人が見上げる先には髭が豊かで逞しい肉体をした初老の男が腕を組んで見下ろしていた。


「何の用だ、小さき者よ。万物の根源、海を司るポセイドンの我を呼び出した!」


 強面の顔で睨んで怒鳴るものだから、アクアはビビってレンの後ろに隠れる。


 アクアとポセイドンを交互に見つめたレンは溜息を吐く。


「見上げる疲れるから、人型になりなさいな」

「母なる海を支配する我は王者、当然見下ろす者だ」


 はぁ、と溜息を吐きながら苛立たしげに髪を掻き上げるレンは跳躍する。


 一瞬でポセイドンの顔の前に飛び上がると腕を振り絞って平手打ちを放つ。


「うごぉっ!!」


 平手打ちされたポセイドンは水飛沫を上げて海中に沈んでいく。


 その衝撃で発生する水飛沫が霧状になり、視界を防がれるが気にした様子のないレンに近づく影がやってくる。


 霧が晴れて、現れた人間サイズになったポセイドンがレンにしばかれた頬を真っ赤に腫れ上がらせて、ペコペコしながら現れる。


「す、すんません。長い事、放置されてましたんで調子こいてました! 今後はちゃんと対応しますので、何卒御容赦を」


 へっへぇ~と変わり身の早い対応をしてくる。


 嘆息するレンは後ろを振り返り、アクアを睨みつける。


「アンタがちゃんと仕事しないからこうなるんだからね?」

「ううっ、でも、顔が怖いんです……」


 ヤレヤレと溜息が減らないレンであった。


 ポセイドンに向き直るレンは、『ホウライの予言』の説明をした後に津波を起こす予定を変えられないか? と問いかける。


 だが、問われたポセイドンが、へっ? という声を上げてこちらを見てくる。


「あの~津波が起こる予定もありやせんが、起こすつもりもありませんよ。少なくとも100年単位では」


 むしろ、今はそういうのはよろしくない時期で、起こったら止める、と説明されて、雄一も自分達も大きな勘違いをしていた事に気付く。


「アクア、海に沈む、というのは地盤沈下が起こるという可能性が強くなってきました。すぐに家に戻ってアイナを連れてペーシア王国に来なさい。寝てようが引きずって連れてきたら、私が力ずくで起こします」


 アクアはビシッと敬礼するとダンガの方向へと海上を滑るように走る。


 残ったレンはポセイドンに万が一、津波が起きそうとか、海の異変を感じたら連絡するように徹底し、阻止するように伝える。


「大地の事は門外漢ではありますが、もしかしたら、間に合わないかもしれない。他の手も考えておく必要がありますね」


 そう言うとレンは雄一がいるナイファの城を目指して空を駆けた。

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