第191話 困難に立ち向かう為には、らしいです

 白いワンピースタイプの水着を着た金髪の少女が空を舞う。


 噴水に飛び込む水飛沫が辺りに撒き散らし、太陽の光に照らされてキラキラと光る。


「僕もその情報をエイビス様から受けました。はっきり言って頭が痛い内容です。ペーシア王国だけなら、やり様次第では、外交だけで片がついたかもしれませんが……」


 噴水から出てくる金髪の少女が瞳を輝かしながらゼクスに手を振るのを見て、ゼクスは笑顔を浮かべながら手を振ってみせる。


 ステテコに頼んで新しい情報を集めて貰ってるらしいが、さすがに1~2日で集まるような情報に欲しいモノは含まれてないそうで分かってはいても苛立ちを隠せずにいるらしい。


「確かにな、その方法も俺も聞いた時には考えた。シキル共和国が介入してきたとなると片方だけ止めても止まらない。まして、中途半端に外交でなんとかしようとして時間をかけるとペーシア王国が暴発する。もうケツに火が点いてるからな」


 雄一にそう言われて、唇を噛み締めて俯くゼクスは悔しそうに拳を固める。


「どうして、こんなタイミングで『ホウライの予言』なんてモノが見つかったんだ」

「まあ、慰めにもならんが、予言があったから起こる事なのか、既に確定した未来を読むのが予言なのか分からんが、明日、明後日に起こると知るより良かったと思おう」


 アクアとレンが調べにペーシア王国に行ってくれてる、とゼクスの頭を撫でながら伝える。


 擽ったそうで尚且つ、照れ臭そうにするゼクスは、はにかんだ笑みを見せる。


 噴水からトコトコと歩いてきたハミュが楽しそうな顔をして雄一を見上げる。


「ユウイチ様ぁ、もう1度、もう1度お願いします」


 ペコリと頭を下げて頼み込むハミュに雄一は苦笑する。


 先程から前回来た時にゼクスを噴水に叩き込んだ時と同じ事をして欲しい頼まれた雄一が放り投げていた。


 えらく気に入ったらしく、放り投げられる度に黄色い声を上げて楽しそうにしていた。既に8回目である。


「ハミュ、いくら夏だからと言っても、そろそろ冷えるからこれを最後にしようね?」

「はいぃ! 分かりました、ゼクス様ぁ」


 そういうハミュは抱っこをせがむ子のように両手を伸ばすのを見て、苦笑する雄一は抱えると今日一番の高さに放り投げる。


 悲鳴を上げるハミュだが、どう聞いても喜んでるのが丸分かりの楽しげな声を響かせる。


「僕はあの笑顔を曇らせるつもりはありません。例え、後でばれて怒られる事になろうともこれは貫き通します」

「それが針に糸を通すような可能性でもか?」


 自分の強い意思を示す男の顔をするゼクスがいた。


 そんなゼクスの横顔を見つめる雄一が問いかけると、ゼクスは雄一を見上げて笑みを浮かべる。


「僕は1人じゃありません。そうですよね? ユウイチ父さん」

「良い答えだ。満点をやろう」


 そう言うと雄一は嬉しげにゼクスの頭をグリグリと強く頭を撫でてやる。


 ゼクスは痛そうにしてるが嬉しそうに笑う。


 突然、撫でてた手を止めた雄一をゼクスが見上げると雄一が微妙な顔をして固まっていた。


「どうしたんですか? ユウイチ父さん」

「いやな? 今日は逃げれないんだな、と思ってな」


 雄一の物言いに一瞬考える素振りを見せたゼクスだったが、すぐに何の話か理解すると少し意地悪な顔をする。


「4年間、肩透かしを食らってますから、覚悟して対応してあげてください」


 ゼクスの愛のないセリフに溜息を吐くと廊下を走るような音が近づいてきて、入口の前に来ると勢い良く扉が開かれる。


「ユウイチ様ぁ!!」

「お母様、気持ちは分かりますがノックぐらいしてください。今回はユウイチ父さんは逃げられないのですから」


 眉間を揉む雄一は、激しく味方の存在を求めていたが、どうやらここには自分の味方は存在しないようである。


 ふらつき気味に雄一に近寄るミレーヌは、ゼクスの言葉が聞こえてないように無視する。

 近寄った雄一に触れられるぐらいの距離に来ると壊れ物に触れるように頬に触れ、徐々に下に下がり、胸に両手を添えて寄り添う。


「さあ、いつものように力強く抱きしめてっ!」

「いつもってなんだっ! まだ最初がないぞ!」


 悦に入った顔をしたミレーヌがそう叫ぶのをノータイムで突っ込む雄一に驚いた顔を見せる。


「まあ、私としたことが、『抱きユウイチ』のいつもの設定を……」

「はぁ? 『抱きユウイチ』?」

「ああ、それはあれですよ」


 頬を染めて、照れて悶えるミレーヌを放置する2人は顔を見合わせる。


 頷いたゼクスが雄一の疑問に答えてくれた。


 雄一の等身大の枕にエルフ国の無駄に高い画力があると有名なエルフに依頼して書かれた50%増しの男前の雄一の抱き枕が開発されたらしい。


 噂では、エルフ国の高い地位の者と大商人が組んだ夢のコラボレーション商品第三弾という話であった。


 その人物については、ステテコですらまったく尻尾を掴まさないようで謎とされていると力説してくるゼクス。


「謎ってミエミエだろ? 謎なのにどうやって注文してるんだ?」

「唯一、分かってるのはエイビス商会に注文すると買える事だけなんです」


 ちなみに、ダンガからの発注も時折入るらしい。


 雄一は、うがぁぁ!! と叫ぶ。


「もう全部、分かってるよな? というかステテコ爺さんは調べてもいないよな? まったく……ちょっと待て、さっき第三弾(・・・)って言ったよな? 1,2もあるのか……4もないよな?」


 雄一に詰め寄られたゼクスはソッと視線を逸らす。


 これは教育の必要を感じた雄一が胸倉を掴もうとするとその間に割り込む者が現れる。


 ミレーヌである。


「細かい事は良いのです。さあ、いつかは最初があります。今日、その最初を致しましょう!」


 そう言って雄一の首に手を廻して、背伸びして目を瞑るのを割と冷静に見つめる雄一は溜息を吐く。




 廊下に居た、メイドは証言する。


 パチンという音がしたと思ったら、可愛らしい声で「キャンッ!」と短い悲鳴が聞こえたと同じメイド達に力説して語ったそうである。







「では、迫りくる脅威についての会議を始めます。まずは宰相、分かってる事を報告を」


 王の間でミレーヌが威厳に溢れる女王としての貫録を感じさせる。


 静々と玉座の前にやってきた宰相がミレーヌを見つめる。


「それでは、ご報告をさせて頂きます……ブフッ」


 急に噴き出す宰相にミレーヌは片眉を引き攣らせる。


 良く見ると団長を始め、その場にいる雄一とゼクスを除いて肩を震わせて俯いていた。


「何を笑っているのですかっ!」


 そう声を張り上げるミレーヌだが、肩を震わせる者達は立ってるのも辛いとばかりに膝を折りそうになっていた。


「まあ、仕方がないんじゃないんですか? オデコにそんな愉快なマークを付けていれば」


 ミレーヌの額にはピンポン玉ぐらいの大きさの赤い痣が出来たよう感じになっていた。


 抱き付いてきたミレーヌを引き剥がす為にデコピンをしようとするが、加減を間違えたら危ないと判断して小さい水球を挟んでデコピンをしたら、という結果であった。


 ちなみにゼクスは、ここに来る前に床を転がって笑うほど笑いきった後だったので平気な顔をしていた。


「だって、城の回復魔法使いは、精神集中できない、と頭を下げるし、ユウイチ様も治してくれないんだから、しょうがないでしょ? というか、いつまで笑うのを堪えてるの! 笑うか、仕事するかどちらかにしなさいっ!」


 そう一喝すると、一瞬の静寂を挟んだ後、爆笑が生まれる。


 愉快な顔をしたミレーヌに一喝された事で最後の堤防が破壊されたようである。


 それに若干涙目になるミレーヌを見て、さすがに可哀そうかと思った雄一が近寄り、額の痣を回復魔法で治療してやる。


 ミレーヌは、治してくれた雄一を救世主のように見つめる間に徐々に笑いが収まっていく。


「有難うございました、ユウイチ様。あのまま放置されてたら、笑い死、いえ、会議がいつまでも始められない所でした」


 宰相の言葉に肩を竦める雄一であったが、額に愉快なマークを作ったのは雄一であった。


「それでは改めてご報告をさせて頂きます」


 気を取り直した宰相は、予言については触れずに現状起きている状況の説明を中心に報告していく。


 勿論、ペーシア王国が攻め入るのならハミュは勿論、シャーロットについての話にもなる。

 ハミュについてはゼクスが責任を持つ、と公言し、シャーロットについては、雄一側で調べた結果で白と断定した事を伝える一様に納得してくれたようだ。


 それを踏まえたうえで、どうするかという話で、雄一が提案した方法が採用される。


 方向性が纏まり出した頃、ミレーヌは、自分に注目を向けさせる。


「すぐに取りかかってください。準備なども入念に……私達が得るべきものは妥協ではありません。最適解を目指しなさい」


 そう言うとミレーヌに宰相始め、軍部の団長も頭を垂れる。


 すぐに顔をあげると近くにいる自分の部下に指示を出しながら、王の間を出ていく。


「後は、アクア達の報せ次第か」


 そう呟いた雄一は2人がいると思われるペーシア王国がある方向をジッと見つめた。

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