第138話 長女という仮面の下は? という話らしいです

 土砂降りの雨を受け止めるように見上げるレイアに女王は問いかける。


「本当に大丈夫なのですね?」

「はい、彼は間違いなく間に合います。これ以上、私達にすべき事はありません。ただ、彼が成す事を見守るのみ」


 大人びた笑みを浮かべるレイアを見つめて、半信半疑から抜けだせずに苦しんでいた。


 レイアは、大丈夫、ともう一度呟き、笑みを浮かべると隣にいるアリアに手を握られる。


 そんな様子を見ていた女王であったが、兵に呼ばれ、レイアから視線を切ると兵に報告を受ける為に近寄って行った。


 レイアは、ジッと見つめてくるアリアに苦笑するとアリアから話しかけられる。


「レイア、どういう事が説明して」

「ごめんなさい、姉さん。説明したい。でも時間もないけど、できない理由もある。そんな状況なのに、お願いしたい事があるの。聞いてくれる?」


 痛いのを我慢するような表情をするレイアのお願いをアリアは、迷う事なく頷いてみせた。


 そんなアリアに、「ありがとう」と告げると自分の胸に手を当てながら話し始める。


「今までになく、そして、今回にある彼を信じて欲しい。姉さんは言わなくても、信じているのは分かる。でも、それを他人に押し売りするほどまでは考えてないはず。誰、構わずとは言わない。この馬鹿な私、レイアにそれを理解させてあげて。今までにない理想的な今を、今後、訪れる事のないであろう未来の為に……」


 幼児とは思えない理解力を有するアリアであるが、レイアが何を言いたいか分からずに戸惑う。


 伝わらない想いを悲しげに見つめるレイアは告げる。


「ゆっくりするほど時間はもうない、でも、打てる手がないほど時間がない訳じゃない。アリアとレイアの為に忘れないで……」


 そう言うと目を閉じると全身から力が抜けたようにアリアに向かって倒れてくる。


 慌てて、レイアを受け止めたアリアではあるが、支えきれる訳がなく、抱えたまま尻モチを着いてしまう。


 困ったアリアは、スゥがゼクスに「どうして、どうして?」と先程の光文字について質問攻めにしているのを見つめる。


 その2人の周りをグルグル廻り、「スゥ、頑張れ、ゼクスも負けるな」とヘンテコな踊りをするミュウを見て嘆息する。


 レイアをこのままにする訳にはいかないから助けを求めようとした時、アリアは弾けるように空を見つめる。


 よく見るとその場にいる子供達、寝ているレイア以外が同じ場所を見つめる。


 先程まで、ゼクスに食い付いていたスゥも踊っていたミュウも質問攻めを食らって揺すられていたゼクスまでが同じ方向を見つめる。


「がぅぅぅぅ――――♪」


 楽しげにミュウが遠吠えをするとゼクスとスゥの顔に笑みが広がる。


 アリアが見つめる先、見えるギリギリの距離にある分厚い雨雲が切り裂かれていくを見て、アリアも笑みを浮かべる。


「来た、間違いない。ユウさんだ」


 アリアがそう言い、抱えているレイアをギュッと抱き締めるとレイアの口元にも笑みが広がった。







 テツとセシルが戦っていた頃、ホーラとポプリも白熱した戦いを繰り広げていた。


 戦闘タイプもどちらも遠隔が主の戦いをする2人。


 使う得物が、魔法と武器の差があるといえど、実力が拮抗していた2人は膠着状態に陥っているようにも見えたが、ポプリはホーラに笑ってみせる。


「やっぱりホーラが相手だと勝負を急ぎたくてもできないわね」


 そう言ってる間にもホーラは、弓を流れるような動きで横走りをしながら撃ち放つ。


 それにポプリも慌てず、生み出して空中に待機させていた火球で迎撃する。


「でも膠着状態に陥ったら、勝つのは私です。ダテに灼熱の魔女と言われてる訳じゃないわ。貴方の得物が尽きる前に私の魔力が尽きるとは思わないでね」


 ポプリは、ホーラの出で立ち、白いシャツに黒いミリタリーベスト、黒のミニスカート姿を見つめて眉を寄せる。


「前から思ってたのだけど、どこにそんなに武器を仕舞いこんでるの?」

「収納が上手いのは女子力が高いって言うさ。だから、アンタには理解できないさ」


 そう言うホーラの言葉にムッとした表情を見せるポプリ目掛けて、ホーラが投げナイフを放つ。


 だが、眉を動かせる事もできずに火球に迎撃される。


 それを見つめていたホーラは嘆息する。


「やっぱり、アンタに正攻法や小手先では通用しないか」

「当然でしょ? 馬鹿にしないで」


 そう憤るポプリに、再び、嘆息するホーラはジッと見つめる。


 そして、何かの覚悟を決めたように目を伏せると絞り出すように言葉にする。


「さすがに、無傷の勝利を狙ったのはムシが良過ぎたさ……でも、勝つのはアタイさ」


 手加減、いや、自分に制限をかけて戦いに挑み、そのうえ、ポプリから勝ちをもぎ取ろう取ろうとしていた事を理解したポプリの頭に血が上るのを自覚する。


 ポプリは感情に任せて、右手を振り払う。


 その動作に反応するように待機されていた火球が一斉にホーラに襲いかかる。


「ふざけないで! いくらホーラでも、その言葉は聞き流せないっ!」


 ポプリとて、雄一は勿論、ホーラやテツと争いたいという気持ちなどありはしない。


 だが、ホーラに関しては、年も同じという事もあるが、色々な事を競う相手だった為、舐められたという事実がポプリの闘争本能に火を点けた。


 ホーラは、その火球を時折、危なげな事もあったが全てかわす。


「ふざけてないさ、普段のアンタならそんな事考えないさ。今の迷いに迷ってるアンタの攻撃ならなくはない話さ」


 ホーラは、笑いながら、「でも、今のはちょっといつものに迫るいい感じだったさ」と告げる。


 歯軋りしながら火球を生み出し直すポプリを横目にホーラはパチンコを構え、唱える。


「付加するは、爆裂。強化するは、爆風」


 その呟きを聞いたポプリは、目を大きく見開く。


 ポプリの驚きように気にした風にもせずにホーラは迷いもなく撃ち放つ。


 それに条件反射のように火球で迎撃したポプリは叫ぶ。


「しまったっ!!」


 その言葉と同時にパチンコの鉄球と火球がぶつかり合い、爆発が起きる。


 その爆発から起こる爆風に小さな体は吹っ飛ばされて地面を転がる。


 そして、木にぶつかって止まるが、堰き込む体を無視して慌てて立ち上がる。


 前に出たポプリの視線の先のホーラは、魔法銃を片手に空いてる左手で何かを撒くように上空に放り投げる。


 注意を反らすのは危険と知りながらも思わず見てしまったモノに絶句する。


 何故なら、ホーラが手にしていた数十発はあるパチンコの鉄球だったからである。


 絶句するポプリに笑ってみせるホーラは、魔法銃を両手で構えてみせて問う。


「さあ、どうする、ポプリ?」

「間に合ってっ!」


 そう叫ぶと空中に待機させていた火球と後1工程で発動できる状態で待機させていた火球も全て出すとホーラとポプリの間の地面に全弾撃ち放ち、鉄球を吹き飛ばそうとする。


 だが、その数十発の火球から生み出される爆炎、爆風により視界がゼロになる。


 続いて起きるはずの爆発に備えて、ポプリは身を縮めるが後発の爆発がない事に気付いて、慌てて辺りを見渡す。


 ホーラにハメられた事に気付いた為である。


 煙のせいで視界が悪く、焦りを隠せないポプリの目に白いモノが映る。


 それが見えた先に何やら影らしきものを見つけて、笑みを浮かべるポプリ。


「ホーラっ! それじゃ、テツ君を笑えないよ。ここぞ、という時に正面突破するあたりはねっ!」


 ポプリは、先程までの火球より倍は大きなモノを生み出すと、その影に目掛けて放つと直撃させる。


「私の勝ちよっ!」


 勝利宣言するポプリの目の端にちぎれたシャツの切れ端が飛ぶのに気付く。


 今の攻撃で煙が晴れたホーラがいると思われる所に目を向ける。


 向けた先には白いシャツと黒いミニスカートが木に引っかけられていたようで、木と共に燃えていた。


「ホーラはどこに……?」


 そう呟くポプリの背後から声をかけられる。


「アタイはこれからもテツを笑うさ。だって、アタイはそんなイノシシじゃないさ」


 声をする背後に慌てて向けるとポプリの視線の先には、ロングブーツとパンツ一枚のホーラが魔法銃を構えた状態で睨みつけていた。


「もう、待機させてる火球はないさ? チェックメイトさ」

「ホーラ……でも、まだよ。その魔法銃には大きな欠点があるわ」


 ポプリが言う欠点、打った後、誰かに支えて貰わないと制止できないという欠点があり、ホーラの後ろは崖になっていた為である。


 急ぎ、火球を生み出そうとするポプリを横目にホーラは笑みを浮かべる。


「アタイは言ったさ。無傷は諦めたと」


 そう言うと躊躇せずに引き金を引くホーラ。


 魔法銃から飛び出した、水の塊は、ホーラが生活魔法の水を込めたモノである。

いくら増幅するからといって、生活魔法だと、屈強な男であれば、一瞬の行動を防ぐぐらいしか効果ないであろうがポプリのように小柄な少女であれば……


 放たれた水球はポプリに直撃し、木に叩きつけられると気絶させられる。


 それと同時に放った反動でホーラも飛ばされる。


 飛ばされるのを止める事はできないが、飛ぶ方向を調整する事ぐらいはできるので大きな木の幹に方向を調整しようとする。


 だが、爆煙が起こってる中で打ったせいか、粉じんがホーラの目に入り、視界を奪われる。


「しまったっ!」


 視界を奪われた事で焦ったホーラが木の根に踵をぶつけてしまい、木の幹に狙いを付けていた場所と違う方向に流れたのを理解する。


 視界を取り戻そうと目を擦り、微かに視界を取り戻すと足元に地面がない事に気付き、崖から落ちている事を悟る。


 もうどうしようもないと諦めたホーラは溜息を吐く。


「あ~あっ、偉そうな事言っても、最後の最後でミスするさ……」


 走馬灯が駆け巡るなか、初めて雄一と行ったゴブリン討伐の時の事を思い出し、苦笑が浮かぶ。


「そう、あの時もアタイは最後の最後でミスしたさ……」


 ホーラは、雄一の事を思い出してしまい、今まで気を張っていたモノが切れる。幼い只の少女に戻る。


 良く見えない視界が更に溢れる涙で余計に見えなくなる。


 嗚咽が酷くなり、それでもホーラは願いを口にする。


「会いたいよぉ、ユウ……」


 良く見えない視界でも地面が近づくのが分かる距離に来た時、ホーラは力強い腕に抱き留められる。


 ホーラは、驚き過ぎて、夢かと疑う。


 だが、ホーラは決して間違わない。


 この逞しい腕、手を添えるだけで分かる分厚い胸板、そして、家の台所の優しい匂いをさせる存在はホーラは1人しか知らない。


「良く頑張ったな」

「遅いよぉ、もうぅ……」


 ホーラは、甘えるようにその逞しい胸板に顔を埋めて安堵の表情を浮かべて泣いた。

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