第119話 ピンチ、ピンチ、大ピンチらしいです

 パラメキ国の王の間でゴードン達にナイファ国の返答を伝え、出ていくのを見送った後、一部の者を残して人払いをした王が目の前に残ってる数名、特に前2人のブロッソ将軍とセシルに向かって話し始める。


「ナイファ国の返答だが、予想通りでいいのか?」

「あったり前だろ? 本当に馬鹿だな、そのレベルぐらい言い切れよ」


 傍若無人の返答をするのを、王とブロッソ将軍は、コイツはブレないな、という顔をして苦笑いするだけだが、他の面子がピーチク騒ぐ。


 それに苛立ったセシルが威圧込みで睨みつけると黙り込む。


 相手は武人ではなく文官であるからセシルの威圧など受けてまともにいれる訳がない。


 そのセシルに拳骨を入れるブロッソ将軍。


 拳骨を貰ったセシルは拗ねたような顔をブロッソ将軍に向ける。


「いい加減せんか、誰構わず、威嚇するのは狂犬と同じだぞ? 無駄に敵を作る行動は取るな」


 セシルの代わりに文官達に目礼するブロッソ将軍。


 さすがにブロッソ将軍にそこまでされて騒ぐ気が起きなかったようで、おとなしく引き下がる。


 それを苦笑して見守っていた王は、改めて聞き直す。


「それで、ナイファ国の対応は予想通りだったと思うんだが、ゴードン達との約束はあれで良かったのか?」


 拗ねているセシルの横っ腹をブロッソ将軍が突っつくと嫌そうな顔をして話し出す。


「まあな、ナイファ国からすれば、王が治める国なのに一家臣が国の所有権を騒ぐのを真に受けるのはおかしい、至極真っ当な話じゃねぇーか? あのデブとの約束? あんなの形だけに決まってるだろーが」

「そうなのか? 確かにお前にしては適当な、いつものガツガツした交渉じゃないな、とは思ってたが6割というのブラフか?」


 王は顎に手を添えながら、そうセシルに聞き返すとセシルはニヤリと笑い返事を返す。


「ちょっとは頭を働かすようになったんだな。当然、あんなブタに渡すモンなんかねぇーよ。とはいえ、ナイファだけならいいんだが、エルフも相手となるとこっちも被害0とはいかねぇ、こっちに余裕があれば、そのままゴードンの首を取ってしまえばいい」

「つまり、こちらに余裕がない間だけ、ゴードンに預けるのが4割という事なんだな?」


 セシルは、馬鹿にするように「良くできました」と拍手するが、少し嬉しそうにする王に毒気を抜かれる。


 だが、先程、セシルに噛みついた文官達が難癖をつけてくる。


「考えは分かるが、ゴードンとの約束を違えて、他国にどんな目で見られるかは考えておられるか?」

「お前、本当に文官か? ゴードンは謀反人で簒奪者になるんだぜ? アイツがこちらに嘘付いた、牙を剥いたと適当に言って、それを否定できる他国の人間がいるのかよ? そこを舌先三寸で言い包めるのがお前らの仕事だろうがぁ」


 セシルは本当に噛みつくぞ、と言わんばかりに犬歯を見せる。


 ブロッソ将軍は溜息を吐くとセシルの襟首を掴んで持ち上げる。


 離せと騒ぐセシルを王は見つめて困った顔をして溜息を吐くと文官達に退出するように伝える。


「やるべき事は分かってるな? 後はお前達に任せる」


 そう言う王の言葉を受けて、威嚇を続けるセシルから目を反らすと逃げるように退出する文官達。


 ブロッソ将軍はそんなセシルを見つめて嘆息すると忠告する。


「血気盛んなのは結構だが、お前のその血の気の昇り易さはコントロールできないといつか痛い目に遭うぞ?」


 フンッと鼻を鳴らして、襟首を掴んでるブロッソ将軍の手を払って地面に立つと背を向ける。


 ブロッソ将軍は、前に向き直り、王に向かって頭を下げてセシルの代わりに詫びる。


「申し訳ありません。育て方が悪かったようで、きかん坊に育ってしまいました」


 ブロッソ将軍にそう言われて驚愕の表情をするセシルの顔を見て、胸がすく思いをした王は、ブロッソ将軍に頭を上げるようにいう。


「そう自分を卑下するな。アレはお前が育てたからあの程度で済んでる」

「そのように言って頂けて嬉しく思います」


 と会話するのを歯軋りをするセシルが、鼻を鳴らして踵を返そうとしたところに兵が入ってくる。


「失礼します。ご報告させて頂きます。姫様がお戻られになられました」

「おおっ、そうか、待っていたぞ。すぐに通してくれ」


 喜色を浮かべる王は、兵に促すと兵と入れ替わりに1人の少女が入ってくる。


 普段は短い赤い髪をポニーテールにしてるのを下ろして少し大人びて見えて、真っ黒なローブを纏っているはずの姿は髪の色と同じ赤いドレスを纏っていた。


 伏せ目がちにレッドカーペットを歩く姿をセシルが見つめて、「アイツは……」と呟く。


 王の前へと歩く途中にいたブロッソ将軍は道を開けて頭を垂れる。


 辿りつくとスカートの裾を持ち上げて、挨拶をする。


「お久しぶりです、お兄様。招聘に応じて帰って参りました」

「待っていたぞ、少し大人びてきたか? 灼熱の魔女と言われるお前の力を貸して貰うぞ、ポプリよ」


 リオ王の前に現れたのは、雄一達の前から姿を消したポプリであった。





 場所は代わり、遠く離れたダンガでは。



 戦争が起こるという緊迫感がまだなく、北川家では子供達の騒ぐ声が聞こえた。


 雄一達が居ない為、本格的な授業がなく、寮生活するものだけが残り、本来なら雄一に言い付けられていたシホーヌとアクアが率先して語学と四則演算を教える手筈になっていた。


 子供達に混じって遊ぶシホーヌとアクア、そして、何故かルーニュがいてお玉を片手に雄一が巴で肩にする仕草の真似をするティファーニアが苦虫を噛み締めるような顔をして見つめる。


「いいんですか? 先生に遊ぶのもいいが勉強もしっかり教えろと言われてたはずですけど?」

「大丈夫です。勉強は後で纏めてやれば良いのです」

「その通りですぅ! ユウイチがいない今が好機なのですぅ。今、遊ばないでいつ遊ぶと言うのですぅ」

「……今、でしょっ!」


 ドヤ顔で最後を締めるルーニュを見て、ティファーニアは頭を抱える。


 明らかにこの3人は夏休みの宿題が終わらずに親達に監督されて徹夜をさせられるパターンである。


 そんな3人、特にルーニュを見て叫ぶ。


「シホーヌさんとアクアさんの管轄は先生ですけど、ルーニュさんは私の管轄です! 遊んでばっかりいずに調理のお仕事を手伝ってください」

「むむむ、風が語りかけて……もう私は卒業した。聞こえる訳がない声など聞こえない、んっ、私は大丈夫、強く生きていく」


 ティファーニアの言葉を聞き流したルーニュは子供達の中に再び混じる。


 激しい頭痛に襲われている人のような顔をしたティファーニアの肩をアンナが叩く。


「テファ、諦めようよ? あの3人に言う事聞かせれるのって師匠以外にいないから、大丈夫、この事はしっかり帰ってきた師匠に伝えれば地獄を見るのはあの3人だから」


 ティファーニアを慰めるつもりで言った言葉は、あの三馬鹿にも届いたようで動きを止めて、お互いの顔を見合わせるが振り切るように遊びに戻る。


 どうやら、今を生きると決めたようである。


 その葛藤を見ていたガレットはちょっと可哀そうかも、と呟くが誰にも届く事はなかった。



 ティファーニア達が諦めて調理の下ごしらえに戻って少し経った頃、急に立ち止まったアクアは上空を見つめる。


 その後ろを走っていたシホーヌが顔からぶつかり、鼻を押さえながらアクアに文句を言おうとするがアクアの様子を見て口を噤む。


 普段では見れない程の真剣な目をして見上げてた為である。


 遅れて、シホーヌも違和感に気付いた時、アクアは叫ぶ。


「みんなっ! 頭を守って地面に伏せてっ!!!」


 アクアの言葉と同時に激しい地震が襲いかかる。


 子供達は立ってられなくなり、悲鳴を上げながら身を縮こまらせる。


 アクアは上空に両手を翳し、力を行使し始める。


 アクアは横にいるシホーヌに助けを求める。


「シホーヌ、お願いっ! 結界の維持を同時にする余裕がないんです」

「分かったのですぅ!」


 アクアの要請を受けたシホーヌは、両手を組んで目を瞑り、精神集中を始める。


 必死に襲いかかる力に抗おうとアクアは奮闘するが苦しそうな表情をしたアクアが悔しげに呟く。


「この力は転移装置? これを使えて、やりそうな奴はアイツしかいない。これ以上は抗いきれないっ!」


 アクアが抗っていた力に弾かれて地面に転がったと同時に北川家が光に包まれる。


 そして、光が収まると北川家そのものが消え、何もない空き地がそこには広がっていた。

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