第105話 スゥの兄貴らしいです

 目を輝かすスゥに目線を合わせて、雄一は微笑む。


「で、スゥは何をお願いしたいんだ?」

「んとね、んとね、スゥとお兄ちゃまとジイの3人でダンガ? って言う街に行く為に旅をしてたの」


 スゥが必死に説明する言葉に雄一は、「ここがダンガだぞ」と教えてやる。


「そうなの? だったら、ママが言ってた、お兄ちゃまとスゥを守ってくれるという人を捜して欲しいの!」

「なんて人なんだ?」


 スゥは、なんて名前だったか必死に思い出そうとするが失敗したようで悲しそうにするが違う事を思い出したようで嬉しそうに言ってくる。


「街の人にノーヒットDTって言えば、みんな知ってるって!」


 硬直する雄一と廻りのダンガの人々。


 まだ立ち直れない雄一と違い、街の人は、ブゥッ! と噴き出す。


 それを見たスゥは首を傾げて廻りを見渡すように雄一も辺りを見ていくと一斉に街の人は目を反らすが、堪え切れない肩の震えが後ろからでも、はっきりと分かった。


「それは間違った情報だ。そんな人はいないが、おじちゃんが助けてやる。何があったんだ?」

「お出かけしてるの? あっ、そんな事より、お兄ちゃまとジイが危ないの。沢山の怖い人襲われてスゥ達は逃げたの」


 雄一は、スゥの髪に付いてる土埃を払いながら、うんうん、と頷きながら聞いてると後ろにテツもやってくる。


「必死にスゥ達、逃げたの。大きな穴があったから隠れる為に入ったら入ってきたところが土で出れなくなったの……でも、奥にスゥなら通れる穴があったから出てきてスゥを助けてくれる人を捜しに来たの」

「そうか、それはどこか分かるかな?」


 スゥに雄一が尋ねるがスゥの表情は暗くなる。


「必死に走ってきたから、近くに池があったことしか分からないの」


 そう言われた雄一は後ろのテツに目を向けて首を振られ、必死に頭の地図で適合しそうな場所を探していると近くの人が雄一に声をかけてくる。


「ディ……ユウイチさん、多分、それ西の街道の外れにある池じゃないかな? その近くに炭鉱を捜す目的で掘られた場所があったはずだし、パパラッチの残党がその辺りで山賊になったって話もあるから」


 雄一は街の人の言葉を吟味して、考えるが符号は噛み合うと判断をすると頷く。

 そして、位置の擦り合わせを済ませる。


「行く価値はありそうだな。情報感謝する。合ってたら、最初に何を言おうとしたかは言及しないと約束しよう」

「それはすっぱり忘れてくださいよっ!」


 街の人の必死の訴えもサラッと無視するとテツに目を向けて口を開く。


「スゥの兄とジイさんを助けに行ってくる。お前は帰って他の奴らの手伝いをしてろ。後、テファには3人前追加と言っておいてくれ」

「ティファーニアさんが悲鳴を上げそうですけど、了解しました」


 苦笑いするテツに頷くとスゥに両手を広げる。


「さあ、スゥのお兄ちゃんとジイさんを助けに行くぞ!」

「うんっ!」


 そう言うと雄一の胸に飛び込む。


 それを雄一はしっかりと抱き締めるとスゥに微笑みかける。


「超特急で行くから舌を噛まないように口を閉じてろよ?」


 雄一がそう言うと素直に目を瞑って歯を噛み締めるように身を縮める。


 スゥの素直な反応に笑みを浮かべて、「いくぞっ!」と言うと足裏に生活魔法の風を圧縮させたモノを爆発させると急上昇する。


 雄一が空の人になるのを下で見ていたテツは呟く。


「さすがユウイチさん、僕がアレをやるとどこに飛ぶか分からないから危険で広い場所じゃないと練習もできないんだよね」


 呆けるように見ていたが雄一の指示を思い出し、急いで大八車を引いて家路へと向かった。





 雲が近くなるほど飛び上がった雄一は、落下する前に足場に水でできた滑り台に飛び乗る。


 未だに目を瞑って身を縮めるスゥに雄一は声をかける。


「もう目を開けても大丈夫だぞっ!」


 そう言われたスゥはおそるおそる目を開ける。


「うわっ、うあぁ、スゥ、お空にいるっ!」


 スゥは嬉しそうに辺りを見渡して、小さい両手を握り締めて雄一を見つめて笑みを爆発させる。


 そんなスゥに笑みを浮かべる雄一は遠くに見える池を発見すると指を差して聞く。


「あの池か?」


 スゥは言われるがままに指差す方向を見つめるが眉を寄せて顔を顰める。


「うーんと、ん……、多分……」


 どうやら上空から見る景色とスゥの目線で見る景色の誤差からイマイチ自信がないようである。


 だが、すぐに違う方向に指を差して雄一の服を引っ張る。


「あっ、あれ、スゥが乗ってた馬車! 怖い人もいるっ!」


 スゥの顔を見ていた雄一に反対側を指差して伝える。


 雄一はスゥのコロコロと変わる表情に目を奪われていたので、スゥの顔がある反対側を見ていなかった為、見逃していた。


 見つめる先には荷物を漁るクズが見える。


 雄一は、馬車に進路を切り替える。


 滑降する速度を上げて、馬車のほうへと向かうと途中で飛び上がり、馬車の前に躍り出る。


 突然現れた雄一を見て、一瞬、目の前に見えるものを拒否するように後ずさり逃げ出す。


「チョンドラだぁ!!」


 とりあえず、そう叫んだ男の後頭部にウォータボールを飛ばして昏倒させる。


 他の逃げる相手に食らわせようとした時、雄一の腕から飛び降り、スゥが逃げるクズ共と反対側に急に走り出す。


「お兄ちゃまとジイはこっちなのっ!」


 そう言って必死な顔をするスゥを見つめて、クズ共など後廻しでいいと思い、発動しようとしてた魔法をキャンセルする。


 必死に走るスゥに着いていきながら、雄一は名案だとばかりに口の端を上げる。


「あのクズ共の始末はアイツ等の訓練に使わせて貰おう」


 そう言うとスゥに連れられて、雄一は森の中へと入って行った。



 途中で雄一に再び抱えられて、走る方向をスゥに指差されるがまま走る。


 スゥに連れられてやってきた場所は、情報通り炭坑跡といった感じの横穴があり、途中で土で道を防がれていた。


 土壁を探るとどうやら完全に埋まってる訳でなない様で、隙間が存在するのに気付くと声で崩れないように気を付けながら中へと声をかける。


「おい、誰かいるか? 助けにきたぞ」


 そう雄一が言うが反応らしい反応がなく、どうするかと思案しているとスゥが、


「お兄ちゃま、スゥだよ。返事してぇ!」

「スゥか! 無事で良かったっ!」


 幼い男の子の返事が返ってくる。お互いの無事を確かめ合う兄妹は、お互いまだ無事と喜びあう。


 雄一は、閉じ込められて追い詰められているだろうに雄一が誰か分からないから警戒して様子を見る子がどんな子か興味を覚える。


「俺は、スゥに頼まれて助けに来た者だ。いつまで、この洞窟が持つか分からない。2つ質問するから答えてくれ」

「はい、後、先程は返事をしなくて申し訳ありません」


 雄一は失笑すると「気にするな」と言うと質問をする。


「まず、1つだが、ジイさんがいると聞いたが声がしないがどうした?」

「ジイは、僕達を守る為に手傷を負って血を流し過ぎて気を失っています。呼吸が荒くなってきているので……」


 いつまで持つか分からないと言いたくないのを汲んだ雄一が、「分かった、次の質問だ」と話を切り替える。


「そのジイさんを引きずってでもいいから通路の真ん中に連れてこれるか?」

「それはどういう事……いえ、やってみせます」


 疑問はあるが、助けに来た者が言う言葉を疑うのは失礼と考えたようで聞き返そうとしたのを止めて返事をした。


 雄一は、「できたら声をかけてくれ」と伝えると後ろで不安そうにしてるスゥに笑いかける。


「大丈夫だ、おじちゃんが、お兄ちゃんもジイさんも助けて見せる!」

「おじちゃん、お願いなの!」


 スゥは涙を瞳に盛り上げて雄一を見つめて言ってくる。


 雄一は、「おうっ、任せろ」と言うと前を見据えて精神集中を始める。


 集中を始めて間もなく、スゥの兄から返事がある。


「できましたっ!」

「よし、通路の真ん中で身を縮めてろ」


 そういう雄一の言葉に返事する声を聞いた瞬間、洞窟に添わせるように水で出来た円柱の中が空洞な造りのモノを生み出すと前方にゆっくりと打ち出す。

 雄一は打ち出した水でできた筒が10mほど進ませたのを感覚で感じると目の前の土壁を拳で打ち抜いて崩す。


 それなりの衝撃が生まれるが雄一が生み出した筒が洞窟を維持し続ける。


 土埃が起こった後、それが落ち着くとスゥと同じような赤い髪をしたテツより少し幼さを残す美少年がそこにいた。


 テツは小動物のような可愛さと野生を感じさせる少年だが、目の前の少年は頭が良さそうな利発さを感じさせる少年であった。


「お兄ちゃまぁ~~!」


 スゥは兄の姿を確認すると走り寄ると抱きつく。


 雄一もその後ろを追うように近づくとスゥを抱き締めて優しい顔をしていた少年に顔を向けられると後ろを指差し、頭を下げられる。


「助けて貰って、お礼もまだですがジイを見てくれませんか? 僕には手に負えません」

「分かった、すぐに見よう」


 そう言うと少年が指差す方向で倒れる老人の前に行くとしゃがんで様子を見る。


 すると背中を斬られているようであるが、雄一の魔法で応急処置すれば命は拾えると判断する。


 そして、斬られ傷に布をあてたようで真っ赤に染まった生地があった。


 振り返り、スゥを抱き締めながら雄一の様子を見る少年を見て、こんな状況で更に他人を思いやれる子を小さいながら凄い子だと見つめる。


 おそらく、この処置がされてなければ、雄一でも間に合わなかった恐れがあっただろう。


「ジイは大丈夫でしょうか?」

「ああ、お前さんの処置が良かったから俺の応急処置で間に合いそうだ」


 そう言うと雄一は水で老人を包むようにすると傷が逆再生するようにして塞がっていく。


 それを見ていたスゥは素直に「凄い、凄い」と騒ぐが、少年は目を剥いて驚く。


「貴方は何者なのですか?」

「俺か? 俺は可愛い子供達に囲まれたお父さんさ。とりあえず、ここにいてもしょうがないから、一旦、俺の家にこい。ジイさんの治療も本職に見て貰ったほうがいいしな」


 雄一がそういうと少年は顔を曇らせる。


「その申し出は嬉しいのですが、私達はダンガに行って会わないといけない人がいるのです」

「俺の家はダンガにあるぞ?」


 悪戯をするような笑みを浮かべて少年を見つめる。


 その言葉と表情を見つめる。


「もしかして、貴方は……」

「少年、質問の前に名を名乗るのが礼儀だろ?」


 雄一は意地悪をする時の笑みを浮かべながら言うと少年は慌てて、背筋を伸ばして頭を下げてくる。


「失礼しました。私の名前はゼクラバースと申します。ゼクスとお呼びください。この度は助けて頂いて有難うございました、ユウイチ様」

「いい。どうせ、俺に会いに来る予定だったんだろ? 出会い方が変わっただけだ」


 ゼクラバース、ゼクスにそう笑いかけると雄一は老人を抱える。


 スゥが雄一のズボンを握り締めて、ニパーと笑いかけてくるのを同じように笑みを返す。


「さぁ、俺の家に招待しよう。騒がしいがそこは我慢してくれ」


 ゼクスに来いと顎で示すと付いてくるゼクスから視線を外すと前を見つめて、スゥ達が乗っていた馬車の方向へと歩き出した。

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