第63話 どうやら、家の長男は持ってるようです

 テツは、集合場所へとやってくると大会の説明をされる。


 テツは着替えながら、それを聞いていた話は、つまるところ要約するとこういう事らしい。


1、魔法、武器、制限なし。ただし、第三者の介入は認めず、あくまで独力で。


2、アイテムによる回復する、促す物を所持、使うのを禁止。魔法によるものであるなら良し。


3、勝敗は、ギブアップ、気絶を確認された後、決定される。


4、相手を死に至らせると無条件で敗北。


 ということらしい。


 テツは、説明を受けながら、やたらと魔法使える人が有利なルールだな、と思うが、異論を唱えても意味はないと理解する。


 何故なら、テツが眺める先でベルグノートが、テツが思った事と同じ内容で説明をしてくれていた女性に食ってかかっていたが相手にされていなかった為である。


「俺の父上にかかれば、お前の首などいつでも切れるのだぞ?」

「そうですか、それで本当に切れるなら、いつでもどうぞ? お待ちしておりますよ」


 子供の相手をしてられないとばかりに目も向けない妙齢の女性を見て、凄いな、とテツは感嘆する。


 それでも噛みつき続けるベルグノートを見てるのも無駄と思ったテツは、雄一に口を酸っぱく言われている柔軟を始める。


 柔軟をする事で体が温かくなってきた頃、テツの傍にやってくるポプリの存在に気付き、テツは顔を上げる。


「テツ君だったよね? 今日は、よろしくね。多分、私が勝っちゃうけど」


 力みもなく普通に言ってくるポプリに目を白黒させる。


「僕は、負けません」

「その心意気は買うけど、実は……あの女の子と一緒に訓練するところをちょっとだけ見たのよね。あれって私対策で合ってるよね?」


 テツは、ギクッという顔をしてしまう顔をポプリに見せてしまう。


 ポプリもそれを解答と取ったようで、ニヤリと笑って話しかけてくる。


「あの有様じゃ……私に勝つのは無理だよ。でも、一目見ただけで私の特徴を見抜いた……見抜いたのはユウイチさんだよね?」


 頷くテツを見て、ポプリは嬉しそうにする。


「さすがは、ユウイチさん。完璧すぎるわぁ」


 うっとりするポプリに引いてしまうテツを無視して夢見る少女モードが発動する。


「噂を聞いて話を追いかけてたら、尾ひれが付いてるどころか、事実のほうがもっと凄いのを知って、せめて姿を一目と思って捜して初めて見た時、私は震えたのよ!」


 どっかの歌劇団の人のようにオーバーリアクションするポプリを遠い人を見るような目で見つめるテツは、この場から逃げ出したかった。


「凛々しく、繊細さを感じさせるのに鋭い眼光は何をも見逃さない。浮かべる笑みは初夏の風を思わせる……」


 雄一を褒め倒すポプリの言葉を半分以上聞き流すが、色々、首を傾げるモノがあった。


 これでも、テツも雄一信者として家族に認識されているが、雄一が二枚目だとか、笑みが爽やかとかとは思ってはいない。


 顔の造りは普通で目はやさぐれているし、笑みは爽やかと正反対で力強い獰猛な笑みが印象的である。

 テツは、雄一の生き様と背中に憧れを感じる者ではあるが、ポプリのような感性は持ち合わせてない。


 雄一の賛美に忙しそうだったポプリが我に返り、残念そうにテツを見つめ、頬に手をあてる。


「それに引き換え……貴方は、パッとしませんね? ユウイチさんを見習うと良いですよ」


 テツは、「はぁ……」と気のない返事を返す。


 一般的に言えば、テツは、可愛い顔立ちをしている。


 そのうえ将来、男前になるだろうなと周りの者に思われる将来性を秘めた存在であるが、どうやらポプリから見るとそうでもないようだ。


 ここまでの事を踏まえてポプリの美的感覚は一般からズレた存在である事に普通は気付くところだが天然とズレた少女の2人は交わる事がなかった。


 そんな2人に介入するようにドラの音が響き渡る。


「試合が始まりますね。では、悔いが残らないようにお互い頑張りましょう」

「はいっ! あっ、その前に1ついいですか?」


 なに? と言いそうな顔をしたポプリが首を傾げてテツを見てくる。


「どうして場所取りしてた場に居た時と話し方が違うんですか?」


 テツの言葉を受けたポプリは顔を真っ赤にする。


 何か聞いたら駄目な事を聞いたのかとビビるテツ。


「ユウイチさんの前だと緊張するからっ! 悪い?」


 テツは、首をブンブンと横に振ると逃げるように試合場に早歩きをして向かった。



 試合場の中央で向かい合うテツとポプリを見た観客達が歓声を上げる。


 耳を傾けると圧倒的にポプリを呼ぶ声が多い。


 前評判と二つ名が付くほどの実力者のポプリと無名のテツと天秤にかけるなら勝利を疑わないのであろう。


 そのせいか、ちょっと緊張したらしいテツが、顔を赤くして辺りを見渡すと雄一と目が合い、笑みを浮かべているのに気付く。


 その心強い笑みに少しだけ肩から力が抜ける。


 すると、テツに向かって黄色い声援が届く。


 雄一と同じぐらいのお姉さん達がテツに向かって、「可愛い坊や、頑張ってね」と手を振られたり、投げキッスをされる。


 その様子を驚愕の顔で見つめていた雄一と再び、目が合うと鋭い眼光に居竦められる。


 テツは、雄一の視線に殺気を感じる。


 雄一の殺気を浴びたテツは、アレより怖いモノはないと開き直り、完全に緊張から脱する。


 目の前のポプリは、雄一に見つめられていると勘違いしたようでピョンピョンと跳ねて手を振っていた。


 そうこうしてると先程の試合説明していたお姉さんが現れ、話し始める。


「皆さん、お待たせ致しました。これより第一試合を開始します!」


 歓声にかき消される事なく辺りに声を届け、テツとポプリを見つめながら右手を上げる。


「それでは、第一試合、開始してください」


 右手を振り下ろしたのに合わせて試合開始を報せるドラが鳴り響いた。




 ドラが鳴ると同時にテツはポプリに向かって飛び出す。


「テツ君からしたら、そうするのは当然だよね~」


 当然のように予想してたとばかりに笑みを浮かべるポプリは両手を広げる。


 すると、ポプリの周りに100はあるのでは? と思えるほどの小さな火球が現れる。


 テツは、舌打ちするとポプリを中心に旋回するように走り始める。


 走るテツの後を追うようにポプリの周りある火球が飛び出すが、テツに当たらず、地面に当たっていく。


 ポプリは、「凄い、凄い」と呟くが余裕の笑みは崩さない。


「まだまだ、おかわりはあるよ!」


 疾走するテツの前には先程を同じぐらいの数の火球が現れ、挟み打ちにするように展開される。

 テツは前後に逃げれないなら横にとばかりに横の方向にいるポプリに目掛けて走り出す。


 ポプリに斬りかかる為に跳躍するテツを残念っ♪ と言いたげな顔をするポプリに微笑まれる。


「それは悪手だよっ、それっ!」


 場に適さない可愛らしい掛け声と共にポプリの前に先程までの小さな火球と比べるまでもない大きさ、テツを丸飲みできる火球が現れ、空中にいるテツに向かって打ちだされる。


 それに驚愕の表情を浮かべたテツは、自分に迫る火球に目掛けてツーハンデッドソードで全力で斬りかかる。


 一瞬の拮抗の後、テツは吹っ飛ばされて地面を転がるように滑っていく。


 そのやり取りに息を飲んでいた観客達が、理解が追い付いて、一斉にポプリの名前を連呼する。


 立ち上がったテツは、ポプリを見つめ、土で汚れた口許を拭いながら話しかける。


「魔法を唱える時間はなかったと思ったのに……」

「あったよ? テツ君が逃げ回ってる時に」


 テツは、唇を噛み締める。


 当初テツが考えていたポプリ対策では、ホーラと違い、魔法でやる以上、詠唱という時間ロスが勝敗を分けると思っていた。


 そこが狙い目だとヤマを張り、スピード決着を狙っていた。


 だが、ポプリとて、そういう事を考えて挑む者がいると考えていたようで対策を取っていた。


 あの余裕の笑みから察するにテツは、他にも対策を取ってると踏む。


 だったらと覚悟を決めたテツは、ぶっつけ本番ではあるが、先程気付いた事を実践を始める。


 テツは、目の前のポプリに動く反応を示さず威圧をかけ、右側から旋回するようにして飛び出すというイメージを叩きつける


 反射的にポプリは、小さい火球を1発を明後日の方向に打ち飛ばす。


 手ごたえを感じたテツは、ゆっくりとポプリへと歩いていく。


 改めて、今度は上空からというイメージを叩きつけると上空に向かって2つの火球を打ち放つ。


 ここにきてやっとポプリの余裕の笑みが消える。


 それをゆっくりと繰り返したテツは、ポプリにゆっくりと加速しながら駆けより、上空に跳び上がる。


 遅れてテツの居た場所へと火球を雨のように打たれるが、既にテツは空の人となっていた。


 上下が逆さまになってる視界でテツは、ポプリを見つめてニヤッと笑みを浮かべる。


「ここから、反撃開始です」


 テツは、万能感に包まれた。




 テツを観客席で見ていたみんなは、テツの動きが変わり、押し始めた事に活気づくが雄一は舌打ちする。


「あの馬鹿、自分に酔ってやがる……」


 確かに、今のテツの閃きは正しい方向へと向かうモノであるが、まだその方向へと顔を向けただけのものであることを理解する雄一は苦い顔をする。


 過去に親の財産を裁判で争った時、自分の立場の弱さを逆さにとって立ち回り、裁判長達に感情で訴えて自分の思うように立ち回る事で親族に勝訴した。


 あの時、雄一も思うようにいく事に酔ってしまっていた。


 危うく、調子に乗り過ぎて綱渡りをしてる事に気付かずに暴走して失敗する間際で気付けて助かった過去があった。


 そのおかげで守り抜いた親の財産の高校生活に必要な金額を除いて、全部使って両親が老後に住みたいと言ってた北海道の見晴らしの良い墓地と雄一が聞いていた範囲の2人が求めた家を作り、そこに仏壇を置いた。


 それを思い出した雄一は、墓の世話と家の管理を放置してしまった親に心で詫びる。


 気持ちを切り替えて、テツに目を向ける。


 つまり、今、テツが感じている万能感は大きな勘違いであると気付けないと落とし穴にハマってしまう。


 雄一の隣にいたティファーニアは、雄一を見つめて首を傾げてくる。


「酔っている? どういう事なんですか?」

「さっきまで、いや、さっきだけでなく、ホーラとやってる時も込みで打つ手がなかったのに相手の先手を取れる状態になって酔ってるんだ」


 まだピンとこないティファーニアに雄一は説明を続ける。


「今のテツは、一生懸命、管楽器を鳴らそうとして鳴らなかったのに音が出るようになって嬉しくて同じ音ばかり鳴らすガキそのものだ。そこから音階を奏でて、音楽に昇華していかないといけないところを最初の段階で踊り続けると相手に見抜かれる」


 ティファーニアにも理解の色が浮かぶ。


 やはり、元は貴族の教育を受けただけあって、楽器に携わる事があったようでイメージさせやすかったようである。


 このテツの理解の最後のキッカケになったドランの思わせぶりの行動で相手の行動を誘発させたモノからきていた。


 みんな、アレをされた、した事があると思う。


 最初は、戸惑わされるが繰り返されるとパターンが見えてきて読まれてしまう。


 中には、匠の技かと言いたくなるような翻弄してくるものがいるが、残念ながら今のテツはパターンを読まれるタイプである。


 そして、雄一は目を細める。


「やばい、ポプリにパターンを読まれたようだ。カウンターを狙われてる!」


 雄一の言葉に顔を強張らせたティファーニアは、観客席の最前列に駆け寄る。


「テツ君、しっかりしなさい!!!」


 眉尻を上げたティファーニアの怒声がテツへと向けて飛ばされた。



 テツは、万能感による熱に冷水を被せられるような思いになる。


 ポプリしか見えてなかった視界の隅にティファーニアの声を張り上げる姿が見えた為である。


 何を言ってるか分からないが表情を見る限り、怒っているようである。


 身をブルッと震わせると浮かれていた気分に気付く。


 ポプリに向かって直進的に駆け寄っていたテツは、改めて、ポプリを見つめると挙動が明らかにこちらのタイミングに合わせて魔法を唱えようとしてるのが目に入る。


 すると、最初に吹っ飛ばされた魔法と同等の大きさの火球が生まれる。


 生み出された火球に秘められた力は、最初とは比較にならない事をテツは感じて背中に冷たい汗が伝う。


 もう逃げるのは無理と腹を括ったテツは、ポプリの魔法が発動する前に打ち消すと更に加速を付ける。


 正直、間に合わない、それがテツの冷静な部分が訴える。


 自分の身体能力をテツなりに把握していた。


 テツは奥歯を?み砕くのかと思えるほど噛み締める。



 僕の足よ! 前に前にもっと早く!



 テツは心で吼えるように自分の予想を超えようとしない足を叱咤する。


 一昨日の自分より、昨日の自分より早く駆けろ、と念じながら相棒のツーハンドレットソードを肩に担ぐようにしてポプリが生み出す火球を睨みつける。


「間に合えぇ!!」


 テツは、一瞬前の自分を置き去りにする気迫を胸にポプリ目掛けて駆けた。




 テツを見つめていた雄一は、テツの思いきった行動に笑みを浮かべる。


「悪くはない。今のテツが打てる最善の手かもしれないが……間に合うか?」


 雄一の目から見ても、かなり微妙であったがテツは更に直前にきて、もう一段階加速するのを見て、この瞬間にも成長をするテツに笑みを深める。


 そしてポプリの火球が放たれる瞬間とテツの相棒、ツーハンデッドソードが激突するのが同時であった。




 2人の間で火球が大爆発を起こし、土煙が上がるなか、打ちだす側にいたテツは、最初より吹っ飛ばされるが、来ると分かっていた衝撃に押されながらも滑りながらも倒れずに立っていた。


 服が焦げて煙を上げるのを無視して、追撃とばかりに煙が薄くなってきているポプリがいる場所へと飛び込むが、剣が届く範囲で掲げた格好でテツは動きを止める。


 動きを止めたテツの視線の前には、状況が理解できてないような顔をしたポプリが呆けていた。


 爆風で羽織っていたローブは吹っ飛び、衣服はボロキレのようになっており、可愛らしい下着が、『こんにちは!』していた。


 そして、テツはある局部を激しく出血をしてツーハンドレットソードを杖にするようにして膝を付く。


 やっと状況に心が追い付いてきたポプリは顔を真っ赤に染める。


「いやぁ――――!!」


 甲高い声を上げるとポプリは、両手で必死に体を隠すようにして試合場の外へと全力疾走していく。


 それを見ていた雄一は呟く。


「やっぱりテツは持ってる男だな……」

「テツ君、最低ですね……」


 雄一の隣に帰ってきたティファーニアは半眼でテツを見つめる。


 試合場から完全に逃避したのを確認した審判役らしい女性がテツに手を向けて叫ぶ。


「第1試合、勝者、テツ!!」


 観客は、どんでん返しが起きた事に興奮に包まれ、テツを称える声が響き渡る。


 固まり続けるテツは、気を失ってるのではないかと疑われるまま、血を流す。



 第1試合、結果報告。


 損傷、ポプリの衣服。


    テツの鼻からの青春の汗。


 勝者、テツ

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