異世界召喚部出撃!
「…小屋って、十五年間放置してたらこんなんなるんだな…」
目の前の朽ち果てた木材の山を見て大きな溜息が漏れる。
柱や梁はまだ辛うじて形を保ってはいるが、どう見ても隠れ家には向かないだろう。
だが、それが好都合だ。
ここの地下にはそれなりに広い地下室がある筈だ。
乾と鍋島が存分に暴れられる広さがあるのだから、俺達が身を隠すのには充分だと言える。
ただし、完全に朽木に埋もれてしまっている地下への入り口を掘り返す必要があるが…
「って事で頼んだぞ。乾」
「はぁ!?ちょっと待てよっ!なんで俺一人で掘り返すみたいになってんの!?」
「女子に力仕事させる訳にはいかねぇだろ?」
「神威さん!?貴方は男子ですよねぇ!!」
「俺はお前みたく脳筋じゃねぇからな。足手まといになる訳にはいかない」
と言うか、何故かクーネが俺にべったりとくっ付いて離れようとしないのだ。おかげで行動がかなり制限されてしまっていて本気で足手まといになりかねない。
なので、俺はクーネから色々と情報を聞き出す事に専念しようと思っている。
「そうそう。それくらいのゴミ、九郎なら余裕でしょ?」
「馬鹿力だけが取り柄だし」
「…私達は神威君にお話があるの…」
あーあ。乾の奴完全にK.O.されてるよ。
ってか、俺に話ってなんだ?
三人から尋常じゃないプレッシャーを感じるのだが…
「…で?神威。そのナイスバデーなお姉さんはどちらさんなのかな…?」
「お?…おぉ、こいつが向こうで話してたクーネらしい」
「クーネちゃんは小さい女の子って聞いてたんですけど…?」
「カムイお兄さん。この女達は何?カムイお兄さんの部下?」
「い、いや、俺だってまさかクーネがこんなに成長しているだなんて思ってなかったし!…って、クーネはちょっと黙ってような?本物の悪魔が降臨しちゃうからっ!」
現に、クーネの台詞で三人のプレッシャーが跳ね上がっている。
おかしいな…プレッシャーを感じ取る『能力』なんて奪った覚えは無いんだけど…
「…ぶ、部下…」
「つまり神威は幼女にお兄さんとか呼ばせてイチャイチャする変態さん…おまわりさーん」
「やめて!?おまわりさん呼ばないでっ!?…てか、くくるは心読んで理解してるんだろっ!?」
「大丈夫。状況証拠だけで有罪」
「仕組まれた冤罪だっ!!」
くくるの奴…確実に楽しんでやがる。
ってか、こころはよっぽど部下扱いがショックだったのか、暗黒のオーラを纏い始めているんだが…
やっぱり三姉妹の中でまともなのはくるりだけか。
「…神威君はやっぱり胸が大きい方が好きなんだね…」
「はいぃっ!?」
前言撤回。
くるりもまともじゃなかった。
確かに今のクーネのプロポーションは召喚部随一であるメンタムさんと比べても何ら遜色はないだろう。
むしろ、実体がある分メンタムさんよりも…
「実体がある分メンタムさんよりも良いって」
「神威さん酷いですっ!!」
「くくるさんっ!?こんな時だけ正確にバラすのはやめてっ!!メンタムさんもこいつらの悪ふざけに乗っからなくていいからっ!」
まずい、完全に
下手な事を考えるとくくるに読まれるし、ここは賢者モードで乗り切るしかないっ!
落ち着け…落ち着け俺…
むにゅん
「カムイお兄さん…気分でも悪いの…?」
クーネが密着したまま上目遣いで俺の顔を覗き込んで来る。
っだあぁぁぁっ!!
今、この時に限っては《それ》は凶器ですからっ!
「クーネさんのおっぱいは凶器だって」
ほらあぁぁぁぁっ!!
クーネを除いた女子達の視線が一気に氷点下まで下がる。
「俺は無実だぁぁぁっ!!」
日の暮れかけた森の中に俺の慟哭が
「ちっくしょぉぉぉ!誰か手伝ってくれぇぇぇ!!」
あ、乾の慟哭も谺した。
◇◆◇◆◇
乾の働きで思ったよりも早く地下室の入り口を発見する事が出来た俺達は早速地下に下りた。
今居る人数は十人。
俺と乾と鍋島、
俺達は思い思いの場所に腰を下ろし、クーネから現在の状況を確認する事にした。と言っても、椅子なんて無いから各自地面に座ったり壁にもたれ掛かったりと言った状況だが。
…乾はへばったフリをしてぶっ倒れてるが、あれはフリなので見ない事にする。
「それで?何がどうなって火炙りされかける様な事になってたんだ…?」
クーネは聖女として大事にされてる筈じゃなかったのか…?
さっきの様子、あれはどう見ても公開処刑だった。まさか、クーネがそこまでの罪を犯したってのか…?
「少し長い話になりますが…」
そう前置きをして、クーネは俺達と別れてからの事を話し始めた。
別れてから数年は全てにおいて上手く行っていたらしい。教会でも大切に扱われたし、改心したおっさんリーダーの助けもあって不自由無く暮らしていたみたいだ。
そのおかげで、貧しい人や困っている人を無償で助けると言う約束に没頭出来ていたと。
それに伴って人望や名声は否が応でも上がっていく。本人が望む望まざるを得ずに、クーネの名前は国中に広がって行ったみたいだ。
本物の『聖女』として。
そうなると、面白くないのは先代の『聖女』であるナディアだ。
クーネが本物の聖女と呼ばれるという事は、ナディアが偽物だと言っているのと同義なのだ。
ナディアが教会から出て行ったのは当然だろう。
そして数年後、いなくなった筈のナディアは王女の座に就くと同時にクーネへの復讐を開始したという訳だ。
魔女の汚名を着せるというやり方で。
「何それ!逆恨みもいいとこじゃないっ!」
「えぇ…でも、ナディア様の気持ちもわからないでもないの…」
「クーネ…」
話を聞いて憤慨する鍋島の声に、クーネは表情を曇らせる。
クーネからしてみたら、故意ではないとは言えナディアの人生を狂わせてしまったのは自分自身だと言う思いがあるのだろう。
とは言え、やり過ぎな気もしなくはないが…
「王女にまでなれたならそれで満足すれば良いのに」
「…逆なんだと思うよ…きっと、その恨みがあったから王女にまで上り詰める事が出来たんだと思う…」
華の呟きにくるりが答える。
確かにそうかもしれない。それが女の執念ってヤツなのかもな…
「…それで、クーネはどうしたいんだ?」
「…わからない…けど…これ以上街の人達に被害が出るような事は避けたい」
「例えそれでナディアや
「…うん」
クーネは一拍おいた後、強い決意を秘めた目で頷いた。大切な物を守る為に他者を傷付ける覚悟…それは、心根の優しいクーネには相当の苦しみを伴う物だろう。
「私はこの話乗るよっ!」
「こころ…」
「大事な物を傷付けられて許せない気持ちはよくわかるものっ!」
「だね。私も乗った」
「…良かった…こころちゃんが先に言い出してくれて…」
どうやら
今回、メリーから事前に言われていた事がある。
『今回は凄く大きなミッションになると思う。クーネを助けるかどうかは各自で判断して、もしも力になれないと感じたらこの話から降りるように』
との事だ。
勿論、途中で降りたとしても誰も責めやしないという事も言い含められている。
その上で三姉妹は乗ったのだ。
「…私に出来る事はあるの?」
「華…?」
「なんですか、穂高先輩。その意外そうな顔は」
「いや、ここにいるメンツで一番降りそうだと思ってたから…」
「失礼な。僕にだって大事な物くらいありますからクーネさんの決断が生半可な気持ちじゃない事くらいわかります」
「お、おう…」
そう言えばそうだった。
華はあまり感情を表に出さないでクールに見えるが、これで結構情にもろいのだ。
『異召部の乱』の時も、真っ先に相手の所に乗り込んで行ったのは華だった。
「私にも出来る事があるのならお手伝いしますよ」
「勿論、俺の力は必要だろ?」
メンタムさんとジュウさんも力を貸してくれるみたいだ。
この二人の能力はかなり心強い。
メンタムさんの能力は
実体を持たない
ジュウさんに至っては最高の暗殺者だしな。
「俺達は確認する必要ないよなっ?」
「もっちろん!クーネちゃん!私達に任せといてっ!」
「クロウお兄ちゃん…タマキお姉さん…」
まぁ、
元はと言えば、この件は俺達三人の不始末でもあるのだ。
クーネに過剰な
「って事だ。みんな協力してくれるそうだぞ?」
「カムイお兄さんっ!」
「ちょっ!!」
感極まったのか、クーネが俺に飛びついてくる。
なんとか受け止める事には成功したものの、再び女子の視線が凍てつき始める。
「ちょっとクーネ!!それは無しだっ!」
「えー?なんでっ?」
「いいからっ!」
なんとかクーネを引き剥がす。
よし、今回はすぐに引き剥がす事に成功したから何もやましい事は考えずに済んだぞ。
どうだくくる!
「ちっ!」
あからさまに舌打ちするくくる。
…俺を玩具に出来なくて残念なのはわかるが、少しは隠そうや…
「さて、それじゃ…」
バンバンッ!バンバンッ!
これからどうする?と言おうとした俺の言葉は途中で遮られた。
地下室の入り口である小屋の床を叩く大きな音によって。
俺達の間に緊張が走る。
まさか、もう居場所がバレたのか…?
「…ちょっと見てくるわ」
「俺も行こう」
乾とジュウさんが入り口へと向かう。
この中で一番戦闘力が高い乾と、《
もしも追っ手だとしても、ここへの入り口を守る事ができる筈だ。
張り詰める空気の中、乾とジュウさんは入り口から地上へと向かい、すぐに戻ってきた。
一人のおっさんを連れて。
「…クーネ様…やはりここに居られましたか!」
「エヴァンスさんっ!!」
「…良かった…あの時の黒衣の使徒の皆様も居られる様ですな…。先程、処刑場で一瞬だけ姿が見えたのでクーネ様と共に居られると思っておりました…」
エヴァンスと呼ばれたおっさんは俺達を見て安堵の息を漏らしている。
こいつ、俺達を知ってるって事は…あの時クーネを生贄に捧げてたおっさんズの一人か。
ぶっちゃけ、おっさんリーダー以外は乾と鍋島が蹂躙していたから顔なんて覚えちゃいない。
だが、エヴァンスの方は俺達を覚えていたみたいで、俺の前まで歩み寄ってくると、地面に両手を付いて頭を下げた。
「お願いします!街を…皆をお救いくださいっ!!」
「エヴァンスさん!どう言う事ですかっ!」
「クーネ様が姿を隠された後、気を失っていたラムスが目を覚まして激昂したのです…」
「ラムスが…?」
「はい、ラムスはリーヴェルンや教会のホール司祭など、クーネ様に縁のある物達を捕らえて広場に吊るし上げ、街の物達に言ったのです…明日までにクーネ様を探し出して来なければ、捕らえた者達を処刑すると…」
「…なんてことを…」
「それだけではなく、もしも全ての人質を処刑してもクーネ様が現れなかった場合には、街に火をかけると…」
「馬鹿なっ!!仮にもあの街はラムスの領地、民はラムスの領民でしょう!!それを…」
どうやら、話に聞いていた以上にラムスってヤツは腐りきってるみたいだな…
まぁ、それはそれで丁度良いんだけどな…。
「おっさん、この地下室に気付いたのは良い判断だったぜ。安心しろ、街の人達は誰一人として殺させはしない」
「おお…」
「あんたは街の人達を救った英雄だ。少しここで休んでろ」
「い、いえ…そんなことは…」
「エヴァンスさん、ありがとうございます。カムイおに…様の言う通り、どうかここで疲れをお取りください」
「クーネ様…ありがとうございます…」
クーネに諭されて、エヴァンスはやっと安心したのか、気を失った様にその場に崩れ落ちる。
この様子だと、エヴァンスもクーネとは親しかったのだろう。ラムスの手下に捕らえられない様に立ち回り、その上情報を掴んでここまで逃げて来たのだ。
肉体的にも精神的にもかなりの負担がかかっていたと見える。
たいしたおっさんだ。
「さて、まだ来てないメンツもいるが…お先にひと暴れしてくっとしようか!!」
「「「おうっ!」」」
そうと決まれば、異世界召喚部出撃だっ!
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