夢の終わり
「それじゃ、まずは各務ちゃんから行ってみようっ!あ、各務ちゃん、予定通りよろしくねっ!」
さっきまでの少し厳しい雰囲気を吹き飛ばすかのように、ハイテンションになるこころさん。
多分こっちが素なのだろう…
と言うか、各務さんは鏡の中にしかいないんじゃなかったの…?
「ったく…こっちだと薄いから疲れるってのに…まぁ、仕方ないか…」
各務さんの声だ。
この教室に鏡なんであったっけ…?
そう思いながら声のした方を見る。
あー、いつの間にか外はすっかり日が暮れて夜になっちゃってる…
と。窓ガラスに反射している教室の風景の中にパンクな女の子の姿を見つけた。各務さんだ。
外が暗くなったおかげで、教室の照明を反射して鏡の代わりを果たしているのか!
「そういやさっきはちゃんと自己紹介してなかったっけか…?七不思議の一つ『鏡の中の女の子』担当の各務だ」
「各務さん、保健室ではありがとうございました」
「一瞬でトイレまで瞬間移動しちゃって凄かったよねっ!」
「うんっ!」
「ま、まぁな…。っと、そん時に実際体験しただろうけど、ウチの『能力』は《
私達の褒め言葉に少し照れたような素振りを見せる各務さん。
窓ガラスで薄っすらとした姿しか見えないからわからないが、きっと顔を赤くしているに違いない。
私達がそんな各務さんの姿を想像していると、更に各務さんが言葉を続ける。
「それと、今回は使わなかったけど、もう一つ『能力』があってな…?それが、この《
その言葉と同時に、教室内が一気に変貌する。
壁も床も黒板や机も教室内の全てがまるで鏡の様になったのだ。
上下左右全てに私達が映って、無限の広がりを見せる。
それはまるで、自分達が万華鏡の中に入り込んでしまったかの様な不思議な光景だった。
どこを向いても無限のに続くその世界は、ともすれば前後不覚になって不安や恐怖を感じるかもしれないけれど、不思議とそんな気持ちは起こらなかった。
…そう、これは…
「次は私ですね?私は先程軽く自己紹介をさせていただきましたけど、改めて…。私は七不思議の一つ『保健室のナイチンゲール』と呼ばれています。どうぞメンタムさんとお呼びください」
メンタムさんが名乗りをあげる。
鏡の世界の中でその透ける体がぼんやりと緑色の光を放っている。
それはとても綺麗で幻想的な光景だ。
「私の『能力』は傷を癒す《
そうだ、この状況を綺麗だと楽しめているのは、メンタムさんが私達の
「各務ちゃん、そろそろ私達も目が回ってきたっ!《
「OK。ウチもちょっと疲れた」
こころさんがそう指示すると、一瞬で鏡の世界がもとの教室に戻る。
「それじゃ、次は私かな?三人とも、さっきはごめんねぇ〜?」
お団子頭の女の子が前に出てきて、いきなり私達に謝り始める。
え?誰この子…?
「あそこまで怖がらせる気は無かったんだけど、待ち時間が長かったからついついメイクに気合入っちゃって」
「メイ…ク…?」
「そうそう。私の名前は
そう言って両手を前に突き出して私達に向かってWピースを決める響さん。
って…音楽室!?
「そそ!私ね、こころちゃんの世界とはまた別のファンタジーな世界からスカウトされた、《
「あ…」
そうだ…私、音楽室に入っていきなりピアノに文句をつけちゃったんだ…
相手の事を知りもせずにいきなりあんな事言うなんて…
「…私の方こそごめんなさい…」
「ううん?大丈夫!気にしてないよっ!私、物に触る事は出来ないけど、私の『能力』の《
響さんが両手を広げると、音楽室から持ち出してきてあったと思われる楽器が出てきて宙に浮かぶ。
カスタネット、トライアングル、シンバル、スネアドラム…打楽器ばかりだ。
「管楽器とかを鳴らすのは無理だけど、打楽器とかピアノなら鳴らす事が出来るから、練習中なの!」
宙に浮かべた打楽器達を鳴らし始める響さん。
その顔に浮かぶのは屈託のない笑顔。
それはまさに音を鳴らす事自体が楽しいと言った表情だ。
「『音』を『楽』しむか…」
「ん〜?」
「ううん!ありがと、響さんっ!」
「ん。うぇ〜い!」
私に向かって親指を立てる響さん。
その親指にはカタカナの『チ』の文字が…
「チッチキチー」
…それはダメだよ。色んな意味で…
響さんのギャグ?が決まったのを見計らって、今度は花子さんが一歩前に出てくる。
「次は僕だ。名前は
花子さんはそれだけ言うとまたもとの位置に下がってしまう。
花子さんって本名じゃなかったんだ…
ちゃんと苗字まであるってのを聞くと、花子さんも人間なんだって実感する。
確かにその能力じゃこの教室で披露する訳にも行かなそうだ。
「…自称子供嫌いでクーデレの花子さんですよね?」
「…クーデレ言うなし」
「自称子供嫌いってのは訂正しないんですね?」
「…くっ」
悔しそうな花子さん。
そんな花子さんを見て、楽しそうにカタカタッと骨を鳴らすのはホネ夫くんだ。
「あぁ。こいつはスケルトンのスケさん。響と一緒のファンタジー世界から付いてきた。『動く骨格標本』担当だけど『能力』は無い。強いて言うならその不死身っぷりくらい?」
カタカタッ
花子さんの言葉にを受け、こちらを向き直り恭しくお辞儀をするホネ夫くん。
その動きも大袈裟で、やっぱり外国のアニメのキャラクターっぽい。
「ホネ夫くんっ!」
そんなホネ夫くんにパチパチと拍手を送るみのりちゃん。
思えば、みのりちゃんが一番ホネ夫くんを気に入っていた。
ほとんど最初からずっと付いてきてくれたホネ夫くんには、何度も助けられた気がする。主にお笑い担当として。
「ホネ夫くん、ありがとっ!」
「…私からも。ありがとうございました」
私も茜ちゃんもみのりちゃんに続いて拍手を送る。
そうか…これで終わりってことはホネ夫くんともここでお別れになっちゃうのかな…?
「スケさん、失敗したくせに大人気だなぁ?」
「本当に。腹切って詫びるレベル」
「…くくるちゃん、それは言い過ぎ…」
こころさんが近付いて来て私達から拍手を浴びているホネ夫くんの肩に手を回す。
三つ子の二人も一緒にやって来て私達の前に立つ。
「もう一人七不思議がいるんだけど、その前に私達の紹介を済ませておこうか。私は花房こころ。一応、今回の件のリーダーだ」
「花房くくる。お疲れさん」
「…花房くるりです。よろしくね?」
この三人、同じ顔してるのに性格は全然違うみたい。
こころさんはあっけらかんとした性格でよく喋る。ちょっとだけ茜ちゃんと似てるかも。
それとは対照的にくくるさんはあんまり喋らないみたいだ。さっきから表情もほとんど変わらない。
くるりさんは少し控えめなのかな…?立ち位置もいつも二人の少し後ろにいる気がする。…なんとなく共感出来るかな…
「んで、だ。茜ちゃんに謝らなきゃいけない事がある!」
「…はい?」
「さっきここで『エンジェル様』に聞いてた翔太君…?の好きな人。あれ、茜ちゃんって答えちゃったけど嘘なんだっ!!ごめんっ!!」
「えええっ!?き、聞いてたんですかっ!?」
「…うん。本当にごめんっ!」
「…そんなぁ…」
「お詫びと言っちゃなんだけど…ちょっと待ってて?」
こころさんが茜ちゃんの顔を覗き込む。
あれ?今、一瞬だけこころさんの目が赤く光ったような…?
「うんうん。そうだなぁ…『教室』『ノート』『夕日』。この三つのキーワードを覚えておくといいよ?」
「キーワード…ですか?」
「そそっ!チャンスは逃しちゃだめだからね?」
「…はぁ」
「さて…と。こっちの心残りも済ませた事だし、最後の一人を紹介しちゃうかな?ジュウさん!」
こころさんが呼ぶと、ここまでずっと教室の隅っこに居た男の人がやって来る。
先生と同じくらいの大人の人。先生と違うのはちょっとカッコいいところかな…?
「彼の名前はジュウさん。七不思議の一つ『十三階段の怪』を担当してる。
まぁ、今回はあんたらの数え間違えで完全にスルーされちゃったけれどね?」
「ぷっ!!」
各務さんが吹き出した。
他の人達も何人か笑いを堪えてるみたいだ。
「それは言うなよ…」
「ごめんごめん!…くくっ!それで、ジュウさんの『能力』ってのが《
私達はジュウさんの能力のおかげで、ずっとあんたらの近くに居たけど気付かれなかったって訳」
各務さんが階段の段数を数えろって言ってたのはそれだったのか…
なんだか悪い事しちゃったのかな…?
「それと、ジュウさんにはもう一つ『能力』があるんだ」
ジュウさんが私達の目をじっと見つめてくる。
…あれ?なんだか目を離す事が出来ない…?
…どうなっちゃってるの…?
ジュウさんって人から目を離せなくなっている私達に構わずに、こころさんの言葉が続けられる。
「それが、《
「そんなっ!私まだホネ夫くんにちゃんとお別れ言ってないっ!!」
みのりちゃんの声だ。
そうだ…ホネ夫くんだけじゃなくて、こころさん達みんな私達を助けてくれたのに、ちゃんとお礼出来てないよっ!
「…その気持ちだけで十分。さよなら…」
私の思ってる事を読んだかの様な返事が返ってくる。
今のはこころさんだろうか?それともくくるさん?くるりさん?
誰でもいい、もう少しだけ…
「ばいばい…」
最後に聞こえたのはみのりちゃんの声だ。そっか。みのりちゃんはちゃんと伝えられたんだね…
◇◆◇◆◇
「みのりー?ご飯よー?」
あれ?私いつの間に寝ちゃってたんだろう?
確か、茜ちゃんと凉子ちゃんと一緒に学校から帰ってきて…そのまま寝ちゃってたのかな?
それにしても、なんだか楽しい夢を見てた気がする。
思い出せないのが残念になるくらい楽しかった夢。
う〜ん…どんな夢だったっけなぁ…?
「みのりー?」
「あ!はーい!今行くーっ!」
あんまり遅くなるとお母さんに怒られる!
私は急いで起き上がると、部屋のドアを開け…ようとした所で動きが止まる。
振り返って部屋の中を見回すが、いつもの見慣れた部屋。
それなのに、この違和感は何…?
まるで、誰かにずっと見られているみたいな落ち着かない感じ…
そうだ。視線だ。何かの視線を感じるんだ…
でも、誰の…?
部屋の中には当然誰も居ない…
「みのりっ!!」
お母さんが怒っている。
…うん、気のせいだ。
そう思って振り返ろうとした途中で目が合った。…合ってしまった。
ドアの横に置いてある本棚と壁のほんの僅かな隙間からじーっとこっちを見つめている女の人の目と…
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