第8話 第二の試練

竜の試練……


三日三晩、地獄のような時間が過ぎるそれは、三段階に分けられ、竜の生き血を飲んだ者を試す。


一回目は、トーラが軽い睡魔にまどろんだ後に襲われた、全身を貫く痛み。

その者の体内に入り込んだ生き血は、まず全身を駆け巡り、内臓から大きな血管から毛細血管まで……

体内の全てを内側から支配する。

そして、そこから飲んだ者の体を内側より刺激する。

その刺激は凄まじく、体内から何かが弾けて出ていきそうな感覚に襲われる。

皮膚の汗腺や毛根、穴という穴、あらゆる所から滲み、飛びたす感覚は激痛となり、飲んだ者に襲いかかる。

そして、何度も意識を奪いに来るのだ。


目的は一つ。


生き血の持ち主である竜と同等の防御力、体力、強靭さを授ける為……


竜の力は凄まじい。並の竜でも人々は震え上がるが、神の領域まで達した竜ともなれば、もはや崇拝の対象だ。

もっとも、そんな竜の生き血など、存在しないと言われるが……

それだけに、竜の力は、普通の人間には到底扱うことの出来ない代物だ。

そんな力を手にするのだ。並の……いや、鍛え上げた一流の騎士であろうと、竜の力を手にする事は難しい。

血が拒否すれば、訪れるものは死だ。


決して会い入れぬ、混じり会えぬ血をあえて体内に入れるのだ。それは必然と言えよう。


それでも力を求めるのならば、血は馴染み、その者の肉体をどんな刃もどんな魔術も受け付けない強靭なモノに変え、次の段階へ進む。


第二の段階は、襲い掛かる悪夢。


全身を駆け巡り激痛を与え、脆弱な人間の身体を強靭な身体に変えた血は、頭部へ進む。


次の目的は知識。


竜の寿命は桁外れに長い。その長い一生の中で得る経験は、人間には到底及ばない。

その経験は、戦闘、魔術、戦略、歴史……溢れんばかりの竜の叡智。

人間が知るには罪な物もあるだろう。

ありとあらゆる情報を頭に叩き込まれる。

その衝撃は、痛みではなく、悪夢となって飲んだ者を襲うのだ。何故か……?


先に記したように、竜の知識は、人間が涎を垂らしたくなるような叡智ばかり。

それは、長い年月を生きた竜だからこそ、手に入れる事が出来た。

そして、竜の寿命の分だけ、情報量が増える。そんな莫大な情報量を一気に人間の頭に叩き込めば、どうなるか?


当然ながら、収め切れない程の情報だ。知識というものは、コツコツと繰り返し、反復する事で自分の身になるものだ。故に、一夜漬けの知識は残りにくい。


詰まる所、人間の脳と言うものは、急激に流れ込む情報に関しては、それを詰め込む引き出しが少ないと言える。

容量が無ければ、荷物をいくら詰め込んでも溢れてくる収納と同じ……


それを人間の脳に仮定すると、流れ込む情報を処理しきれず、脳は容量オーバー。

脳の各所がオーバーヒートを起こし、精神に異常を来たす状態……廃人、もしくは狂人となる。

それを乗り越える事が出来れば、竜と同等の身体と頭脳を手に入れる事が出来る。


そして、試練は第三段階に進む。


トーラの状況だが、第一の試練は乗り越えた。


さすが、戦争の生き残り。しかも、満身創痍での生還だから、痛みに関してはある程度は覚悟出来ていたのだろう。

トーラにとっては、身体の痛みよりも心に付いた傷の方が痛かった。

それに比べれば、自分に与えられる痛みは、歯を食いしばって耐えればいい。


それだけの事だった。


気がつけば身体の痛みは遠ざかり、痛みが引いた身体から力が沸き起こるのが分かる。


ドクドクと脈打つ身体は、血を飲む前より明らかに力強い。

明らかな変化を、トーラは当然のごとく受け止めていた。


……トーラの試練は第二段階へと進む。


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