告白

「兄さま、少しよろしいですか?」

「おう、如何どうした」

「いえ……今から、好きな人に想いを伝えてこようと思うのです」

「ほう、それは一大事だな。気張れよ」

「……はい。行ってきます」

 何だ出かけるのか、と、そんな都合のよい言葉をかけてもらえる訳がないことは解っていた。閉じたままの襖の柄を目頭に熱く滲み出すものがぼかし、努めて足を動かし玄関へと向かう。出かける心算つもりなどなかった。出かけても行くところなど、無い。

「駄目でもちゃんと帰ってこい。呉々も、世を儚んだりするな」

 襖を開けず、それでも言葉をかけてくれる兄がいつもより少し声を張ったように聞こえたのは、全くの思い過ごしだったろうか。幻のような希望に縋る自分が不甲斐なく、息を詰めたまま玄関を飛び出した。


 僕はまた、告白に失敗したのだ。

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