ありがとうの応酬
かじかんだガサガサの手に生まれて初めて幻滅しながら、彼は隣の少女に手を伸ばした。目前に広がる大人気のイルミネーションも、今はただ光の明滅が目を刺激するだけだ。耳にはずいぶん前から自分の煩さすぎる鼓動しか入ってこない。
ふと、冷たい指先がためらいがちに包み込んでくる柔らかさを感じ、小さな声が跳ね回る心臓を止めた。
「不思議だなあ。ちょっと前までわたし、ずっと一人だったのに。どこにも居場所なんかなかったのに」
そっちの方が不思議だよ、君みたいな素敵な子をどうしてみんな放っとくんだ……と言いかけて、あまりの陳腐さに口ごもる。それを見て、少女は微かに笑った。
「あなたがいる場所が、わたしの新しい居場所になって、あなたが違う場所に歩いていくと、わたしの居場所が増えていくの。ありがとう」
ああ、これが聖夜の奇跡か。
クリスマスとは、こんなに素敵な日だったのか。
世の中の人が浮かれ騒ぐ理由が少しわかった。
「いつか離ればなれになったとしても、あなたがくれた居場所を、わたしはずーっと大切にしていくんだろうなって」
「ありがとう」
やっと出てきた言葉は、凍てついた無色透明な空気を少し白く染めた。
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