秋の空
「女心と秋の空……ってさぁ、お前にぴったりのコトワザだよな」
そう言った途端、秋奈のものすごく切ない溜め息が屋上のコンクリートに染み込んだ。
げっ、何かマズイこと言ったか?
俺は慌てて言葉を継ぐ。
「悪ぃ、深い意味はないんだよ! なんとなーく言っただけでさ」
「うん、わかってる。でも……私ってそういうイメージなのかなぁ、って思って」
秋奈は、俺から視線をふっと外して立ち上がる。シンプルに括られた長い黒髪が、姿勢のよい背中にゆっくりと落ちた。
ヤバイ。
秋奈の表情や仕草は、いちいち俺にクリーンヒットするんだ。しかも、長めの制服スカートが肌寒い風に煽られているのは、べた座りの俺の顔のほとんど真右ときた。
思わずそちらを向き、3秒ほどフトモモに見とれてからハッと我に返る。
いよいよヤバイ!
俺はじりじりと顔を上げる。
揺れるスカート、細い腰に少し緩めの白いブラウス、ボタンのラインをたどっていくと、胸元には綺麗に結ばれた深緑のリボン。華奢な顎、何かを言いかけて止めたような半開きの口……そして、大空を見つめる大きな瞳。
俺もつられて更に視線を上げた。
秋奈と俺の頭上には、澄んだ晴れ空。吸い込まれるほどに青く、青く、宇宙が透けて見えるってこんな感じか。
秋奈は、あの黒く濡れた瞳で何を見てるんだろう。
そして、何を感じてるんだろう。
頭に浮かんだことがすぐ口に出てしまうような俺じゃあ、さっぱりわからない。
こんなに近い存在なのに絶対手が届かない、その深さは無限大。
俺は、性懲りもなくまた思ったままを喋ってしまう。ちょっと照れくさいけど。
「ほら、俺にとっちゃさ……ちょうど今の空みたいなカンジなんだよ、お前って。秋ならではってカンジでさぁ、すっげぇ深い青……あ、これ、俺にしちゃ珍しく詩的な褒め言葉だっ――」
脳天直撃の平手打ちが、落ちてきた。
「なんでだよ!?」
「そういう無教養なところ、私、ダメなの!」
黒髪を揺らしてぷりぷりしながら去っていく秋奈を、俺は呆然と見送るしかなかった。
〈終〉
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