第4話 いまは手が離せないっ!!

「〈目標ターゲット〉周辺を拡大」


「了解。

 〈目標ターゲット〉を中心として、2倍、4倍、8倍……」


「ストップ。

 やはり、問題なのは監視所だけだな」


この国の土地柄というのか、民族性というのか……。


純軍事施設ではないのも手伝ってか、警備はいわゆるすきまだらけザルの状態だ。


この国の兵士が勤勉ではない……。


というのは、出撃前のこの国に詳しいとかいうエージェントオブザーバーの情報通りということだ。


まあ、〈俺〉も過去の作戦オペレーションの経験上、それは事実だろうと思う。


そういったものは、ちょっとやそっとの訓練ではなかなか変えることができないものだ。


「よし。

 予定通り、夜を待たずに侵入する。

 さっさと終わらせてかえろう」


目標ターゲット〉施設に500メートルまで接近する。


監視所に人影は見えない。


「動体センサに反応なし。

 赤外線センサは日中かつ、監視所のコンクリート壁越しのため使用不能」


「〈機械仕掛けおまえ〉のカメラアイ。

 最大望遠で何か見えないか?」


〈機械仕掛け〉のカメラアイのタレットが回転する。


そして、いちばん長いレンズに切り替わりレンズが伸びる。


「この角度からでは、監視所内には何も認められず。

 フェンス周囲に監視カメラを発見。

 固定式の旧型です」


「死角がありそうだな」


「死角あり。

 予想死角を算出。

 表示します」


〈俺〉は液晶モニタを確認しながら、


「監視所内の様子を知りたい。

 ドローンを飛ばせ。

 監視カメラに気をつけろよ」


と命令する。


「了解」


〈機械仕掛け〉から、1機のドローンが飛び立つ。


複数のプロペラの回転が、かすかに周囲の空間を振るわせる。


窓を狙った、ドローンからの映像では……。


中には兵士らしき人影が2つ。


2人は監視モニタの前に座りながら動かず。


いや手に持った携帯端末を見せ合ったりしながら、話し込んでいるようだが……。


「いったい連中は何をしているんだ?」


「ゲームでは?」


「なにっ!?」


「我が国の子供や若者たち。

 最近では、大人にまで流行しています。

 この国も例外ではないのでは」


「……」


「あの様子では……。

 モニタを監視できているとは思えません」


〈俺〉は〈機械仕掛け〉のクセに“思えません”などと……。


ヤケに人間臭いことをいうなと思う。


そういえば、娘に以前会ったとき。


携帯端末のゲームのことを話していたのを思い出す。


やりすぎて、母親にいつも怒られているの、と……。


しかし、重要施設の警備任務中の兵士がゲームだと?


大丈夫なのか?


この国は?


人ごとながら心配になってくる。


「だが、いつ連中がゲームをヤメるのかわからないのだろ?」


「ヤメられなくすればよいのです」


「できるのか?

 そんなことが」


「彼らの通信を傍受インターセプトします。

 出現率の低い敵キャラクタ。

 たおせば、レアアイテムが出現する可能性が高いのですが……。

 その攻撃力を落とし、防御力を最大値マックスにした状態で出現させます」


数分後。


ドローン映像の2人を見ると、リアクションが大きくなっていた。


セリフを付けるなら、


「おい!

 これを見ろ!!」


「なにっ!

 いまは手が離せないっ!!」


とか、そんなところだろう。


お互い自分の携帯端末を指さしながら、相手の肩を叩いたりしている。


見るからに興奮エキサイトしている様子だ。


「よし行くぞ。

 防護服をよこせ」


防護服を苦労して着込んだ〈俺〉と〈機械仕掛け〉が進む。


いちおう、監視カメラの死角を選びながら〈目標ターゲット〉施設へと接近していく。


宇宙服スペーススーツめいた完全密封内部循環式防護服姿の〈俺〉と〈機械仕掛け〉の組み合わせ……。


それは、さながら子供ガキの頃、このんで読みあさった宇宙冒険活劇スペースオペラコミックのようだ。


でも、ここには気配さえ感じれば命中させることができる左腕の精神感応銃はない。


いっけん三枚目だが不死身の宇宙海賊ヒーローもいない。


もちろん、魅惑的グラマラスな美女型サイボーグもいない!


〈俺〉は一抹いちまつの寂しさを感じながら、


「よし。

 ココがいい」


と、美女型サイボーグとまちがえようがない〈機械仕掛け〉に合図した。


「了解」


〈機械仕掛け〉のアームのひとつが伸びて、防護服の背中のフックをつかんだ。


そして、〈俺〉をそのまま吊り上げ、金網のフェンスの中へと運んだ。


なかなか便利なヤツだ。


これならフェンスに振動センサがあっても関係ない。


電気が流れていても関係ない。


手っ取り早いし、なにより侵入の痕跡こんせきが残らないのがいい。


「お一人で大丈夫ですか?

 〈隊長チーフ〉?」


防護服に仕込まれた通信システムから声が響く。


心配そうだ。


“心配そう?”


「〈俺〉の心配はいい。

 〈機械仕掛けおまえ〉こそ、監視カメラに映るなよ。

 下がってろ」


〈俺〉は〈目標ターゲット〉に近づいていく。


どれも似たり寄ったりの建物ばかりだ。


しかし、左腕のGPSグローバルポジショニングシステムが、〈目標ターゲット〉の位置をしめしている。


〈俺〉は、右腕に固定されたガイガーカウンタ。


そのスイッチをONオンにする。


「どうだ。

 モニタリングできているか?」


「リンクOK。

 データ受信中。

 問題ありません」


一歩一歩踏み出すたび。


ガイガーカウンタの数値が上がっていく。


「〈隊長チーフ〉。

 計測値が、防護服を着ていても人体に危険な値になっています。

 5分以内に戻って!」


「解った。

 30セカンドごとに教えろ!」


「了解」


〈俺〉は、〈目標ターゲット〉の扉の前に到達する。


「270セカンド」


金属製の扉は施錠せじょうされている。


押しても引いてもビクともしない。


〈俺〉は、小型トーチを腰から取った。


施錠された部分とは逆。


蝶番ヒンジ部分を焼き切りはじめる。


「トーチで扉を焼き切る。

 連中の動きがあったら教えろ」


「ドローンを使いますか?」


「ドローンはもういい。

 発見される危険リスクがある。

 もし、監視所のドアが開くようなことがあれば教えろ」


「了解」


防護服内の手の平が、汗で滑りはじめてイヤな感じだ。


「240セカンド」


トーチで防護服を焼かないように、細心の注意をはらう。


「210セカンド」


落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。


「180セカンド」


鼻のあたりがムズがゆいがヘルメットバイザがある。


だから、どうしようもない。


「150セカンド」


鼻から息を吸い、バイザが曇りにくいように口の端から息をく。


もういちど、鼻から深く息を吸い、ゆっくりとく。


バイザが少し、結露けつろした。


でも、深呼吸のおかげで気持ちが落ち着いた。


「90セカンド」


「よし。

 焼き切れた。

 1セカンドごとに秒読みカウントダウンしろ!」


「了解。

 83、82、81……」


〈俺〉は〈機械仕掛け〉の秒読みカウントダウンき立てられながら、扉をゆっくりと地面に倒した。


そして、倒したトビラを踏まないように内部へ。


内部は薄暗かった。


ヘッドライトを点灯する。


金属製の円筒シリンダのようなものが浮かび上がる。


「45、44、43……」


「映像は録画しているな?」


「測定データ、映像データともに記録中。

隊長チーフ〉!

 早く戻って!!」


「いま戻る」


〈俺〉はゆっくり数歩後退した後、振り返った。


そして、もと来たルートを引き返す。


入口まで戻ると、倒した扉をまたいで外へ出る。


「ふー」


っと、ため息に似たものがでる。


防護服を着ているとはいえ、無意識に呼吸が浅くなっていたようだ。


「1、0、-マイナス1、-マイナス2……

隊長チーフ〉!?

 返事をしてっ!!」


〈機械仕掛け〉の悲痛にも似た通信が、ヘルメット内に響く。


「大丈夫だ。

 もう建物の外にいる。

 いま戻るよ。

 さっきの場所でピックアップしてくれ」


「よかった。

 すぐ行きます。

 さっさとかえりましょう!」

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