第3話 赤龍将アドヴェール

「くっ……俺のターン!」

ユウリ 手札四枚 山札四十四枚


――今しがた引いたカードに視線を向ける。そのカードは現状を打破できうる程の切っ掛けを持って――いなかった。しかし、ユウリはその効果に視線を向ける。


(……プラントモンスターは現状、その展開力と低コスト高エーテルがウリのモンスター群……甘露のハニーナッツは、アイツのデッキに容赦なく三枚積みされているコスト要員。エーテルシフトにいるハニーナッツのエーテル残量は六.まだ半分も残っている……)


ちら、とアイのフィールドに視線を向ける。彼の足元で小さく主張しているモンスター群は、ユウリの扱うドラゴンモンスター群に比べて遥かに小さい。しかし、プラントモンスター群はサポートカードとのコンボが比較的容易な種族だ。アイがそれらの手段を手の内にしていないとは――考えにくい。


(なら、動けるうちに動くだけ――!!)

「俺は手札の【スペルカード】、エーテルの祝福を発動する!」


青い縁取りのカードが一枚、ユウリの手札から発動した。


エーテルの祝福

スペル コスト 一

エフェクトⅠ

【このスペルの発動に成功した後、エーテルシフトに存在するカードを全て墓地に送る。送られたカードに存在していたエーテルコスト二つにつき五〇〇のライフを得る】


「ボルドルのコストは残り五……よって俺は、ライフを一〇〇〇回復する」


ユウリ

ライフ八〇〇〇 → 九〇〇〇


「手札の騎竜エルビスをエーテルシフトにセット! エーテルコストが十一発生する! 更にエルビスの効果! エーテルシフトにセットされている限り、俺は『ドラゴン』モンスターのサモンに必要なコストをひとつ! 減らすことができる!」


騎竜エルビス

パワー 二〇〇〇 エーテル 十一 コスト:三 モンスター『ドラゴン』

エフェクトⅠ

【このカードがエーテルシフトにセットされている限り、自分は『ドラゴン』モンスターのサモンに必要なコストを一つ減らすことができる】


「俺は手札の城壁竜フォートレスをサモン! 正規コストは七だが、エルビスの効果によりコストは六に! 更に、フォートレスはパワー五〇〇〇以下のモンスターの攻撃ではシールドスフィアを失わない!」


城壁竜フォートレス

パワー 六〇〇〇 エーテル 三 コスト:七 モンスター『ドラゴン』

エフェクトⅠ

【このモンスターはパワー五〇〇〇以下のモンスターの攻撃によって、シールドスフィア破壊されない】


ユウリ 手札四→一


「バトル! フォートレスで賢者リリウムを攻撃!」

「ヴォォォォォォォ!!」


勢いよく飛び上がり、鬼百合は城壁の如き重厚な竜に押しつぶされる。小さなスフィアが一つ、鬼百合の傍から消えた。


賢者リリウム シールドスフィア 残り1


「ターンエンドだ……!」

「ふん、ドラゴン系統のモンスターデッキには明確な弱点がある。……お前は今まさに、それに直面している訳だな」

「ドラゴンの……弱点だと?」

「そうだ……俺のターン」


アイ 手札二→三


「ドラゴン系統のモンスターは一部の防御型モンスターで守りを固め、同時に攻撃型のモンスターで攻める、攻守を両立させるデッキになる。しかしその反面、コストの高さによって出せるカードが出せなくなる等の弊害がある。だからこそモンスターカードだけではなくスペルカードや他のカードによる補助やコンボも視野に入れる事が前提となっている――これがドラゴンデッキの基本だ」

「……それは、そうだが……」

「そして、それが成っていないドラゴンモンスターは只のサンドバッグに過ぎない。――事実、俺の低級なモンスターにすら遅れを取り、ライフダメージの先制を許している。普通ならこうはいかない」


ゆっくりと、それでもユウリに見せつける様にカードを一枚、手札から出す。


「それがお前の全霊を組み込んだデッキだと言うのであれば、最早容赦はしない! 赤寺院ユウリ! 俺はお前を超え、その遥か先へと征く! お前の届かない高みへとな!」


翻した一枚のカードは――純白のカード。


「【リベレイションカード】、残虐なる救済!!! コストはエーテルシフトに存在するハニーナッツ!! ――そして、効果発動!!」


残虐なる救済

リベレイション コスト 六

エフェクトⅠ

【このカードを発動するには、コストの支払い後、エーテルシフトにセットされているカードを墓地に送らなければならない。墓地に送ったモンスターの元々のエーテルコスト以下のコストを持つ、全フィールド上のモンスターカードを全て墓地に送る】

エフェクトⅡ

【このカードの効果は、相手のカード効果によって無効化されない】


「ハニーナッツのコストは十二! このエーテルコスト以下のエーテルで生み出されたモンスターカードは全て! 墓地へと送られる! 更にこの効果はエーテルシフトにまで及ぶ! つまり! フォートレスはおろか、エルビスまでもが射程範囲内だ!」

「ば、馬鹿な……!! 俺のモンスターがエーテルが……ぜん……めつ」

「まだだ! 俺は手札の甘露のハニーナッツをエーテルシフトにセット! 樹王のヤドリギをサモンする!」


殆ど枯れた大樹に、青々と生い茂る葉。それは決してその大樹の物ではなく――それに寄生する者であった。


樹王のヤドリギ

パワー 四〇〇〇 エーテル 五 コスト 五 モンスター『プラント』

エフェクトⅠ

【自分の墓地に存在する『プラント』モンスター一体につき、このモンスターのパワーに+五〇〇の数値を加える】


「俺の墓地にはハニーナッツ、リリウム、ナズナ、スズシロの四体のプラントモンスターが存在している! よって、ヤドリギのパワーは合計六〇〇〇! ――バトルだ! プレイヤーへ直接攻撃!!」

「ぐ、あああああああ!?」


ユウリ ライフ九〇〇〇 → 三〇〇〇


「俺はこれでターンエンドだ」

「ぐう……っ! 俺の……俺のターン!!」


ユウリ 手札一→二枚


「俺は――――」

「やはりお前は、俺以上にレークスとして相応しくは無い」

「……なんだと!?」


怒りを撒き散らすユウリ。それを平然と受け流し、鼻で嗤うアイ。


「何故だと? 分からないか? お前は俺よりも、モンスター達にとっては王に相応しくないんだよ。なぜ手札には切り札足りえるカードが来ないのか、なぜ状況はいい方向へと行かないのか……それは決して、運や技術、カードの扱いで決まる訳ではない」


アイは自らのデッキを撫でながら、眼を閉じる。


「俺が出来そこないのレークスと言われる所以は只のひとつ。このモンスター達はあくまでも、俺の配下ではないという事だ。俺は彼らにとっての王ではない。只の協力者に過ぎないのだから」

「協力者……だと」

「では赤寺院ユウリ。貴様が勝利に見捨てられる所以はなんだ? 我武者羅に成らないからか? デッキのモンスター達を道具か何かの様に思っているからか? それとももっと別の――」


「――――うるせぇッ!!」


ユウリは吼えた。アイから発せられたその言葉の一つ一つに、何も間違いは無かったからだ。自分はカードを道具と思っていたし、そこから出てくるモンスターも立体映像でしかないと思っていた。そうして、勝てない事に適当な理由を付けては――その事実から逃げていた。


「お前に言われなくても分かっているんだよ!! こいつらはただのカードなんかじゃない!! でも俺自身、心のどこかで――ただの物として扱ってる事くらいは!」

「だろうな。その考えの在り方は独裁者と何ら変わりはない。それでは誰も、お前に心を開いてくれるわけがないな」

「だが、俺はそんなやり方で、誰よりも強いレークスになってみせる! 誰もを圧倒し、誰も追いつけない! 最強のレークスにッ!!」


ユウリは希望を垣間見た、ドローしたカードを発動する。


「俺は手札の【スペルカード】、強欲なる意思を発動! このカードはコスト無しで発動した場合、デッキからカードを二枚ドローし、一〇〇〇ポイントのダメージを受ける!」


強欲なる意思

スペル コスト 一

エフェクトⅠ

【このカードのエフェクトⅠ・Ⅱの効果はどちらかしか使用できない。強欲なる意思は一ターンに一枚しか使用できない】

エフェクトⅡ

【カードを二枚ドローする】

エフェクトⅢ

【コストを支払わずに発動できる。デッキからカードを二枚ドローし、一〇〇〇ポイントのダメージを受ける】


ユウリ ライフ三〇〇〇→二〇〇〇

手札一→三枚


「……よし! 来たぜ!! 俺は手札の竜教の宣教師をエーテルシフトにセット! そして効果発動! このモンスターがエーテルシフトにセットされている時、一度だけ墓地に存在しているドラゴンモンスターを復活させる! 俺が選択するのは、城壁竜フォートレス!」


竜教の宣教師

パワー二〇〇〇 エーテル 十 コスト 二 モンスター『メイジ』

エフェクトⅠ

【このモンスターがエーテルシフトにセットされている時、墓地に存在する『ドラゴン』モンスターをリバイバルできる。 『竜教の宣教師』の効果はこの一度だけ発動できる】


城壁竜フォートレス

パワー六〇〇〇 シールドスフィア 〇個


「行くぞアイ! 俺の切り札を見せてやる!!」

(! 来るか……炎の属性持ち、蛮虐の赤い龍将軍……!)

「俺はバトルフィールドに存在するフォートレスを墓地に送り! 手札のこのモンスターをサモンする! 現れろ!!」


岩肌の巨竜が炎に呑まれ、やがてその形は変貌していった。

燃え盛る炎は大地を焼き、大気を焦がす。やがて暴虐な龍将軍は覚醒し、その咆哮を轟かせるのだ。


(……やはり、奴が選ばれていたのか……! ティスタ! お前の読みはどうやら合っていたようだな!!)

「千の龍軍勢を率いて今! この戦場に降臨せよ!! 『赤龍将アドヴェール』!!!」


その巨体に、アイは僅かにたじろいだ。


「……だが、そのモンスター一体で何が出来ると? それでもお前は諦めないとでも言うつもりか?」

「当然だ! 俺は――お前に勝つ!!! アドヴェールの効果発動!! 相手フィールドに存在する全てのシールドスフィアを破壊する! この効果で破壊したスフィア一つにつき、アドヴェールのパワーは一〇〇〇上昇する!!」

「なんだと!?」

「まだだ!! アドヴェールの更なる効果!! 墓地に存在する『ドラゴン』モンスター一体につき、パワーを五〇〇上昇させる! 俺の墓地には四体のドラゴンが存在している! よって二〇〇〇追加する!!」


赤龍将アドヴェール

属性:炎 パワー一〇〇〇〇 エーテル 一〇 コスト 一〇 モンスター『ドラゴン』

エフェクトⅠ

【このモンスターはコストを支払った後、自分のバトルフィールドに存在する『ドラゴン』モンスター一体を墓地に送る事でサモンできる】

エフェクトⅡ

【このモンスターのサモンに成功したとき、相手モンスターに存在しているシールドスフィアを全て取り除く。取り除いた数×一〇〇〇のパワーを追加する】

エフェクトⅢ

【自分の墓地に存在する『ドラゴン』モンスター一体につき五〇〇のパワーを追加する】

エフェクトⅣ

【相手モンスターを戦闘で破壊した時に発動する。破壊したモンスターの元々のパワーの数値分のダメージを相手に与える】


「パワー……一四〇〇〇だと!?」

「バトルだ! アドヴェールで樹王のヤドリギを攻撃!! 焼滅のプロミネンス・ディザスター!!!」

「――――ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


アイ ライフ一〇〇〇〇→〇




「や……やった……やったぞー! 俺は……勝った……ん……」


ドサァ!!

顔面から練習場の床にダイブしたユウリ。その正面にはアイが仰向けで倒れている。体中が煤だらけで無残な事になってはいるが、傷は一つも付いていない。


『ユウリ……おい、ユウリ!! ……駄目か。完全に寝てしまっている』


デッキに自動収納された一枚のカードから声が聞こえたが、やがてその反応は消え去った。彼もまた、持ち主同様に眠りについたのだろう――そんなタイミングで、この練習場に侵入者が現れた。


「あちゃー、やっぱりコイツが持ってたのかぁ。……それにしても、アドヴェールの奴、この世界に逃げ込んでいたとはねぇ」


紫色の髪を揺らし、夜空を切り取った衣を纏った魔女――ティスタであった。


「ま、奴の力は強大だけれど――絶対って訳じゃないからね。まだどうにでもなる……ほら、起きてよアイ」

「……それで、あの龍の力はどうだった? 直接対峙した俺が言うのもあれだが……凄まじいとしか言いようがないな」


身体についた土埃を払い、立ち上がるアイ。

その傍らでティスタはけらけらと笑う。


「そりゃそうでしょ。白と黒の王国に攻め入った、三つの将のひとつだからねー。残りの二つもこの世界に来てるんじゃない? ――まぁ、見つけて監視して、機が熟したら――その時に狩り殺してやる」


一転して獰猛な笑みを放つ魔女。その傍らの縁者――アイは、ただじっと、ユウリを見る。


「……今回は負けたが、所詮はあの龍の力に頼ったに過ぎない。――――見ていろ。いずれその力すら届かない、さらなる力を得てやる……! さて、帰るぞティスタ」

「んー。……あれ、あのユウリって奴はどうするの?」

「放っておく。奴が眠ったのは俺の責ではない」



練習場を後にした二人。

取り残された一人と一頭。

世界を巻き込む物語、その幕は既に――上がっている。

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ヒストリア・レークス @kazamion

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