1-3 自虐
アリサは現実に
こうなった以上観念するより他はないと、アリサは手にしていた鞄をリビングの床の上に乱雑に
こうして次第に平静を取り戻していった彼女は、リビング内に流れ込んで来るこの魚の香ばしい香りは、きっと具材のアナゴを焼く香りに違いないとの予測を胸に、今度はキッチンへと足を向けた。そしてキッチンの調理台の上に並べられていた、色とりどりの寿司の具材を横目に見つつ、彼女は調理に勤しむ母の背中に向け声を上げた。
「寿司ってこっちぃ? これ、ばら寿司じゃが」
これは実に非合理な言い掛かりであると言わねばなるまい。もっとも、そのことはアリサ自身も重々に承知していた。実際彼女は、決して憤怒や落胆を込めてこの言葉を放ったわけではなく、勝手に回転寿司を食べに行くものだと勘違いしていた自らの愚かな早とちりに対する、自虐を込めたジョークとして発したつもりだった。しかも彼女はちゃんとジョークだと受け取ってもらえるようにと、眉間に力いっぱいしわを寄せ、外国人のように大袈裟に肩をすくめるなどして、コミカルに見せるための演出すら加えてもいたのである。
ただ母親は、ばら寿司の具材である高野豆腐の調理に集中していた。そのため娘の言葉に対し示し得たのは、素早く
「はよ着替えてきね」
母は調理を続けながら淡々と応じた。アリサとしても、母親のこうした淡白な応対が悪意から来るものではなく、単に忙しいからそうしただけのことに過ぎないのは十分に分かっていた。しかし、アリサにはこの対応がもの足りなかった。それどころか、これではせっかくの自分の自虐が無駄になる、このままでは
「おかしい」
「はぁ? 何がおかしいんよ」
「これ、ばら寿司じゃろ」
「そうよ。見れば分かるじゃろ。今日おばあちゃんの誕生日」
「握りじゃねーが」
「握りなんてひと言もゆっとらんじゃろ?」
「詐欺じゃ。ウチ握りって思っとった」
「アリサが勝手に勘違いしただけ」
「学校の皆にも
「アホは事実じゃけ
母親は相変わらず調理に当たりながら対応を続けた。それでもアリサは自分の思惑に母親を誘導できそうだとの感触を得、ここを
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