ガールズトーク 2

「今日はどうだったの?」


 帰ってきた加奈が、後ろから抱きついてきて耳元で言う。


「うん、楽しかったよ。それで、…………加奈と杏花さんに話を聞いてもらいたいんだけど今晩、ちょっといいかな? 一昨日みたいに夜、話をしたいんだけど」

「じゃあ今日は私の部屋に来る? 美味しいクッキーを頂いたの」

「わ。楽しみ」


 杏花さんの提案に加奈が飛びつく。

 夕食後、真由美はまた部屋でおしゃべりをするという私たちに『好きだな~』と苦笑し、自室に戻っていった。正人さんも明日提出のレポート作成のためすぐに部屋へ。一馬さんは……やっぱりあんまり喋らないのでよくわからないけど、昨日に引き続きさっさと部屋にいってしまった。




「それで何があったの? マミの方から聞いてほしいって言うなんて」


 夕食のときから聞きたくてうずうずしていた様子の加奈が、部屋に入ってくるなり聞いてきた。


「加奈ちゃんったら。まず座ってよ」

 

 杏花さんが紅茶をカップに注ぎながらくすくす笑う。フレーバーティーのいい香りが部屋に満ちていく。

 杏花さんの部屋は加奈の女の子らしい可愛い部屋よりもっとすっきりした感じ。大人の雰囲気の中に女性らしさがあって、インテリアも趣味がいい。


「もう、焦らさないで教えてよ」


 クッションの上にバフンッと座って拗ねた声で言う。

 とりあえずバスケットが楽しかった話をする。……加奈がじれじれしてるのがわかる。


「それで? 聞いてほしいってことは、何かあったんでしょ?」

「うん、帰りに『また会いたい』って言われたの」

「きゃ~。それでもちろんオーケーしたのよね?」

「いつまでここにいるかわからないって言ったら、来週の練習試合のときまだいるなら応援に来てほしいって」

「それで?」

「行くって答えたんだけど、よかったのかなぁって思って」

「どうして? もしかしてま~だ恋愛してもいいのか、なんて考えてるの?」

「うん。ちょっとね。でも告白されたわけじゃないんだし、応援に行くぐらいいいよね?」

「当り前じゃない~」


 当たり前なのかなぁ。


「誘ってる様子は可愛いなぁって思ったんだけどね」

「きゅんってした?」


 身をのりだして加奈がきいてくる。


「きゅんって」


 笑っちゃう。


「ああ、もう。そこで笑ってちゃ駄目でしょ」

「ごめん。でも、きゅん、かぁ。したようなしてないような…………。子犬や仔猫の仕草見ても可愛い~って思ってきゅんってなるじゃない? それと違いがあるのかどうか…………」

「あんなイケメンつかまえて子犬や仔猫と同じ扱いなんて! マミったらどうかしてるよ~」

「まぁ、じっくり育てていく愛っていうのもあるわよね~。これからの展開にこうご期待! ってとこかしら?」


 杏花さん……やっぱり半分は面白がってるよね。


 さてここからが本題。

 実は恋愛相談は口実で、一番聞きたかったのは真由美のことなのだ。さりげなく話題をもっていかなくちゃ。


「幸也くんに真由美よりうまいって言われたんだけど、真由美がバスケ部以外にも行ってるからだよね?」

「あ~、真由美ねぇ。あたしに遠慮してる部分もあるんだろうけど。…………でもこの前ふっきったみたいなこと言ってたし、明後日の文化祭を最後に他所に行くのはやめるかもね」


 加奈に遠慮って……やっぱり前に何かあったのかな。いや、でも今は真由美のこと聞かなきゃ。


「今までに、真由美が他の部に行くことで揉めたりとかはなかったの?」

「揉めることはなかったんじゃないかな。そっちの部でもやることはやってたし、人を押しのけてまでしてるわけじゃなかったからね」


 そうか。いざこざはなかったのか。


「どうしてそんなのが気になるの?」

「え? …………だってバスケに専念したらもっとうまくなるはずなのに。私より下手って言われるなんて釈然としなくて」

「確かにそれは言えるね」

「同じバスケ部員からは? 真由美、レギュラーだって言ってたけど、レギュラー入りできなかった人にしたら、よその部にも行ってる真由美って嫌われたりしないの?」

「ないない。バスケ部の中では一番練習してるからねぇ。よそに行った分朝練前にやったり、部活のあとに居残ってやってたり」


 ないのかぁ。


「…………練習、嫌いって言ってたのに」

「そんなこと言ってたの?」

「真由美ちゃんも素直じゃないからね~」


 間から杏花さん。


「正人にももっと甘えたらいいのに」

「え? 真由美って正人さんのこと好きなの?」

「ううん。恋愛感情はたぶんないと思うわ。そうじゃなくって、正人は”お兄ちゃん”になりたがってるのに」

「あ、それは私も言われた。頼っていいって」

「正人、頼られるの好きだよね~」


 ちょっと待って、恋愛か。そっち方面のトラブル?


「真由美ってこういう話興味がないっていうけど、好きな人とかいないのかな。逆に真由美を好きな人とか?」


 唐突すぎたかな? 加奈が変な顔をする。


「真由美に憧れてる子はたくさんいると思うけど。男女問わず、ね」

「なにそれ」

「だって真由美、かっこいいじゃない? 後輩たちからも慕われてるよ」


 う~ん、誰からも嫌われていないのかぁ。いいことなんだけど。

 それなら犯人は一体誰なの?


「それより、正人はマミちゃんに興味があると思うんだけど、加奈ちゃんどう思う?」

「あ、それあたしも感じた!」


 へ? 何? いきなりの話の転換。


「幸也くんと進展するより先に正人が何かするかもね」

「三角関係に発展?」

「幸也くんの話したらやきもちやくんじゃない?」


 二人して一体何を感じたっていうの? だって正人さんとあれからそんなに話してないよ? からかわれてはいるけど。


 意味深な二人の言葉に気をとられ、結局その後は真由美のことを聞き出すことはできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る