第20話 もうすぐお正月
「~~♪」
クリスマスも終わってしばらくした、いつもの昼下がり。
突然、ろとのやつが、歌いはじめた。
誰でも知ってるような童謡だ。お正月がもうすぐで、楽しみで、正月にはなにをして遊ぼうか、そんな歌詞の歌だ。
その綺麗な歌声に、俺が耳を傾けていると――。
歌声が、ぴたりとやんだ。
聴いていたのがいかんかったのかな、と、一瞬思ったのだが――。
「……ねー、とれぼー。このあとって、なーにー?」
「しらんのか」
俺は言った。知らんのに、歌っていたのか。
「……お正月、じゃなかったっけ?」
「そっかー。とれぼーすごいねー。なんでも知ってるねー」
ろとはそう言って笑顔を見せ、つづきを歌いはじめる。
「~~♪♪ ~~♪♪」
ろとは調子よく歌っていた。――だがすぐに、また止まってしまう。
だから知らない歌、歌うなってーの。
「つぎはー?」
俺はその頃には、ネットで検索して、歌詞の続きを出してやっていた。
ノートパソコンをくるりとひっくり返して、ろとに見せてやる。
ろとがまた歌いはじめた。
俺は指先でリズムを打って、その歌を聞いていた。こいつカラオケとかやらせたら、けっこう、うまいんじゃないのか? まあやらんのだろうけど。
「……ねー、とれぼー」
「なんだー?」
こんどはなんなんだ。
歌詞はぜんぶあるから、もう迷うこともないはずだが。
「……ねー、タコってなーにー?」
「ん?」
「うたのなかにあるよー。タコあげるんだってー」
「それがどうかしたか?」
「どうやって、タコさん、あげるのー?」
「あー……」
俺はろとのやつが、なにをどう誤解しているのか、すべてわかってしまった。
ろと歴数年は伊達ではない。伊達ではないのだよ。
「おまえ……、タコしらんのか?」
「しってるよー。おいしいよー」
うむ。ろとであれば、そうだろう。
だがそれは不正解だ。
「いや。そのタコじゃなくて、タコなんだ」
「だからタコだよね?」
うーむ……。
どうやって説明しよう。
俺は、ろとのほうに向けていたノートパソコンをくるっと回すと、たかたかたかーっとキーを打って、Google先生にたずねた結果を画面にだした。
画像のほうが、わかりやすくて、いいだろう。
「これが。タコだ」
「これタコなの? ……アレはタコじゃないの?」
「あれもタコだが。これもタコだ」
「なんでタコっていうの?」
「えーっと……、それはぁ……」
またGoogle先生にたずねる。
「へー。関西地方じゃ〝イカ〟って言われることもあんのかー。昔は〝イカ〟って呼ばれてたのかー。ほーへーはー。んで? なになに? あがったときの姿が、イカに見えることから、そう呼ばれているという説がある? ふむふむ。そうだったのかー」
「とれぼー。それ。〝通説〟ってあるよー。ほんとじゃないかもしれないよー」
「おー。そうだな。そう書いてあるなー。よく見つけたなー。じゃあ話半分で聞いとこうなー」
ろとの頭を、なでくり、なでくり。
ろとはニコニコしながら、また口を開いた。
「ねー。とれぼー。……コマってのは、なーにー?」
「コマはだなー」
それも歌詞のなかにあったものだ。俺は答えるかわりに、こたつから立ちあがった。
「ん? おでかけ? おでかけ? おでかけ、するのー?」
「いつものショッピング・モールだが。――行くか?」
「とれぼーと一緒なら、いくー!」
いつものショッピング・モールに、たしか、駄菓子屋があった。
そこにタコもコマも実物があるはずだ。
あと年末の買いだめもしておかなくちゃならないし。
しかし……。
タコはともかく、コマはなー。
いまでも回せっかなー?
子供の頃、ジッちゃんとバアちゃんのとこで、やった覚えがあるような、ないような……。
でもきっと、コマを「ぎゅいいん」と回せたら、ろとのやつが、すんごい尊敬する目で、俺のことを見てくるに違いない。「すごいすごい」を連発するに違いない。
よし!! 「さすがだよとれぼー」。略して「さすトレ」のために、ひとつ、頑張ることにすっかー。
◇
本日の出費。
タコ。1180円。
タコ糸。380円。
コマ。500円。
コマの糸。180円。
ベイブレード。1980円。(回せなかったので、買った)
その他。年末年始の買い出し。13527円。
現在の俺たちの、財産残り――。
3億9970万4582円――。
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