第10話 色

「ねー。やっぱり。色が足りないよねー」

「は? 色?」


 二人で狩りをしている最中、ろとが変なことを言いだした。

 まあこいつがへんなことを言うのは、いつものことだが。


 かちこち。かちこち。

 しばらくマウスの音だけが響く。


 ろとのやつは、物理全振りのガチ仕様。

 ああ。ゲームの話な。


 対して、俺のハーフエルフ15歳美少女キャラは、大自然の加護を受けたドルイド系。森の乙女。金髪に緑の衣装のよく似合う、見栄えの素晴らしいピチピチ美少女で――。って、美少女はどうでもいいんだが。

 ようするに、治療魔法も攻撃魔法も、援護魔法も、そこそここなせる、便利屋というわけだ。

 ガチ物理のヒゲ面中年と、二人パーティを組むなら、これ以上は考えられないほどの組み合わせだ。いや。ヒゲ面も関係ないが。


「ほらー。ぼく。青でしょー」


 ろとが言う。

 だから戦闘中にくるくる回るな。エモーションするな。

 敵を殴れ。


「とれぼーは、緑でしょー」


 ロトがまた言う。

 だから人を指差すな。

 エモーションで指差しちゃいけませんって、おとうさんかおかあさんに、習わなかったか?


「ん? ああ……そういう意味か」

「あと、赤と黄色がいるといいよねー」

「ん……。ああ……。まあ。そうだな」


 ろとがなにを言っているのかわかっていた。

 色のことを言っているが、色のことを言っているわけではない。


 弱小ギルド《静謐の風羽根》ではあるが、昔は、そこそこメンバーのいたこともある。

 高レベルユーザーも、幾名かは在籍していた。


 最近はすっかりログインしてこないが……。

 すくなくとも、この半年ぐらい、俺とろとの二人以外の名前を見た憶えはない。


「わーどなー、どうしてるかなー」

「そうだなー」


 ワードナー、というのは、うちの女魔法使いだ。

 爆炎の魔女の異名を取る――ギルドのエロ要員だ。キャラの服装もエロ。中の人の性格もエロ。平然とエロいことを口にするオープンエロ。まあどうせ中身は30代のオッサンなのだろうが。

 色は赤。服装も魔法も戦闘も、すべて赤。


 ある日、俺が道を歩いていたとき、「あはははは! いた! トレボーいた!」とか、けたたましく笑って話しかけてきたのが、この女――じゃなくて、中身30代のオッサンかもしれないやつだった。

 「も。ワードナーとトレボーがいたら、組まなきゃならないっしょー!」とか、わけのわからないことを言って、肩を組んできて(エモーションで)、そのままギルドに居着いてしまった。


「ぞーまも、どうしてるかなー」


 ろとが言う。

 ゾーマというのは、治癒魔法の達人だ。

 ちょっとそれ、どうやったら転職条件揃うの? ――と、そこらの廃人でも泣きが入るような、神官職の幻の究極ジョブに就いている、廃レベルの聖職者だ。

 彼は黄色担当。治療と光系統の魔法は、黄色い暖かい輝きとなる。

 ああ――。紳士でナイスミドルなところから「彼」と呼んだが、中の人が本当にキャラ通りかなんて、わかったものではない。


 こちらも、ろとと俺が二人で歩いていたところ、「こんなところでお会いするとは奇遇ですね」と話しかけられたものだった。

 ちなみに、ワードナーのやつも、ゾーマのやつも、向こうは気安い感じで話しかけてきたのだが、知り合いだったとか、そういうわけでは……まったくない。

 ぜんぜんしらんやつだった。


 なんで、トレボーとワードナーが対になって、ろととゾーマが対になるのか、ぜんぜん、わからん。

 いっぺん聞いてみたけど「うふふふふ。じゃあお姉様♡って呼んだら教えてあげてもいいわよ?」と言われて、丁重にお断りした。

 ゾーマのほうも、ろとが聞いたら、「その質問にお答えするには〝せかいのはんぶん〟を頂きませんと」とか、わけのわからないことを言って、のらりくらり。

 なんなんだか。


 まあ、はじめは「ほぼほぼ他人」から始まった俺たちだが、弱小ギルドで色々な思い出を積み重ね、すっかり〝友人〟と呼べる間柄になっていった。

 え? 親友じゃないかって? えーと……、えーと……、えーと……。

 そういうのは、ちょっと、はずいから。

 じゃあ、せめて――〝戦友〟あたりでっ。


 ――色の話に戻ろう。


 ろとは、なんでか、青い鎧しか着ないので、青担当だな。

 そして俺。ハーフエルフ15歳美少女。トレボーは、緑色担当というわけだ。


 だから4人合わせると、WINDOWSの旗の色が、四色、すべて揃う感じだ。

 なんかWINDOWS10になってから、青白のツートンカラーになってしまったけど。


「どうしてるかなー。ぞーま」

「ああ。どうしてんのかな。ワードナー」


 俺たちは、マウスをかちこちクリックしながら、そんなことを言っていた。

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