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世界の果ての遊園地

1

 朝、宿の二階からのぞくと、気球の街が遠ざかっていく。

 そうだ。わたしはもうあれとは行けなかった……のか。

 

 千にもおよぶ気球が形成する空の街、それは牢獄だった。動きのおそい、ほとんどものを喋れない囚人達との旅。空の旅の多くは、霧に覆われるか、また雨の中を行く旅だった。そのため、だれの顔も見えなかったし、雨の日には囚人達は皆、縞模様の雨合羽に身を包んでいた。虹がかかったときだけはだれも外に出なかった。まばゆいものに、目を向けたくなどないのだろう。わたしも……だけどわたしは。

 気球の大小は様々で、囚人牢一軒をぶらさげているものから、売店街や蔵書館をかかえたものまである。住人達は気球の間に張り巡らされたロープやはしごをつたって行き来していた。

 あてどもなく、ただ雨と雲の中を……(その空の下では、色んな町があり、人々の色んな生活がいつもあったはずだ。)……どれだけにおよぶ旅だったろう。空に落ち、迷い込んだ日から。しかし結局、わたしは囚人ではなかったのだ。いっそ囚人であれたなら――わたしのポケットにいつもあった〝世界の果ての遊園地〟というチケットを見るたびそう思い、しかしわたしはチケットを空へなくしてしまう気にもまたなれなかった。

 

 遊園地へ……

 

     *

 

 砂漠のちいさな町を出る。ふり返ると、遠のいていく気球は、西の空のいっかくに細かな点々として浮かび、そこからはもう動かず空にはりついてしまったようだった。

 わたしの空には、これからもずっとあの囚人達の千の目があって、わたしを忘れないでいるのだろう。やがて砂漠に明けない夜が来て、囚人達の目はわたしだけが知っている星になる。それから、雨が来る。

 

     *

 

 砂漠の方々で、砂丘の高いところに立ち、黒いフロシキに包まれたもの達が、つめたい鈴を鳴らしている。

 わたしはいくつの、黒いつめたい町をすぎた。


(初出「ユリイカ」2009.1月号)

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