帰途

 つめたい夜の砂浜を歩きながら ぼくは

 この海辺に建設される予定だった

 臨海遊園地のまぼろしを見ている


 風の中に

 ちいさなフラッグの群れがはためいているのが聴こえるようで

 それは

 天使の死骸にぶらさがった羽が あまた

 擦れ合う音だ きっと……


 ぼくは知っている

 この砂浜に散乱する

 すべての貝がらの内側に

 遊園地は建設されたことを


 そこには

 この世界から消えたあらゆる子ども達が

 影として偏在した



(子ども達は昔 一人だった……)



 だれも口を利くことなく

 だれの顔も はっきり見えない

 だれも

 ひっそりと

 静かに

 最後の遊園地をあそぶ……


 あいかわらず

 砂浜を歩くぼくのポケットには太陽が入っているけど



 どこへ帰ろうか。


 拾いあげた貝がらはどれも皆 割れてばかりいて

 耳を押しあてても

 どんな音も聴こえなかった



 どこへ……


 ポケットの太陽を指でくるくると廻しながら どこへ。……

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