詩編

遊園地が沈殿する

 乱立する

 カラフルビーカーの底に

 幾つもの遊園地が沈殿する

 それを

 何度も 何度も並びかえては

 わたしの景色になじませようとするけれど

 生から覚めて また次の生の中でそれは

 いつだってバラバラになってしまっている


 乱立する

 カラフルビーカーと戯れる わたしの生……


    とぐろ巻くゆめの容……

            /ゆめの終焉……


     *


 遠くきらめく、大小数多のネオンを眺めている。

 ゆっくりと、かすかにゆれているから、わたしは海の上にいるのだろう。あたりはまっ暗で何も見えない。

 そうだ、ここは船の上で、きっとわたしは遠い外国へ連れて行かれようとしているんだ。

 思って、見れば、やはりネオンは遠ざかっている。すこしずつ、すこしずつ……

 きれいだな。

 わたしがちいさな頃、港の近くにおおきな遊園地があって、そこには、見たことない架空の動物達がめぐるメリーゴーランドや、七色のゴンドラの観覧車があるの。ピエロや、サーカスみたいな行列が、音楽を奏でながら歩き回ってたっけ。遊園地はいつでも夜で、たくさんのひかりがちらばっていたよ。きれい……

 だけど、

 ……だけど。人の顔は思い出せない。白い影法師の行き交う、臨海遊園地……

 

 

     *


    沈んでゆく…… 沈んでゆく……

 

 

     *

 

 

 臨海遊園地の計画は、白紙に戻されたはずだった。

 けれど、遊園地はだれが建てるでもなく、そこへ現出した。

 壊されても、壊されても、遊園地はいつもあの場所に屹立していたのだ。

 いつだって、人でいっぱいだった遊園地……

 それはわるくなかった。

 夜だったし、だれの顔も見えなかったから。

 あの賑わいが、わたしほんとうは好きだったんだ……

 

 観覧車のてっぺんから見ると、まっ黒な海がこわかった。

 夜空に一つだけ、浮かびあがる星みたいに、遊園地だけが暗闇で輝いていた。輝いていた。あまりにもそれは、輝いて……

 

 

     *

 

 

    どこ? わたし、どこにいるの!

 

 

     *

  

 臨海遊園地は、だれの望みだったのか知れない……ただ、あの頃世界はそれを欲し、世界はそれになりたくて、なろうとし、世界は実際のところ、それだったのだ、臨海遊園地、今すべてに忘れ去られ眠っているおまえ……

(好きだ。わたしは忘れない、臨海遊園地……

 

 行こう。一緒に――

 

 

     *

 

 

    ……      ……

 

 

     *

 

 

 ……わたしはまだ観覧車の中にいるんだ。ゆられて……漂って……

 わたし達は世界に捨てられた。

 わたし達が、世界を、捨てたんだ……

 あのきらめく岸辺は嘘。

 おまえのいない街なんて、わたしはほしくない。

 

 

     *

 

 

    とぐろ巻くゆめの容……

            /ゆめの終焉……

 

 

 朝日にてらされて。様々の船が港を出入りする。

 そこには何の影もない。

 そこには何の影もないのだ。

 あの聳え立つ、臨海遊園地の影も……

 

 

      * 


 乱立する

 カラフルビーカー置きかえる わたしの生、わたしの死

 ……

 今も

 また次の生も

 わたしの目の前にあるカラフルビーカーに触れて

 眺めている

 

 遊園地が沈殿する。




*2007年12月・poenique「ぽえ。」入選掲載作品(川口晴美・選)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る