月の魚

一.出会い

 つめたくて、とてもやわらかな場所でした。

 まるで金色の海ばらのようです。かすかな、風とも波ともしれない流れにゆられ、白く、ぼやけたかたちの浮遊物が、ただどこまでもどこまでも漂っていくのでした。

 

 

 

 *

 

 コンコーン、フォンフォンフォン、……

 

 町工場の夜。

 棟のてっぺんの部屋では、下で働く機械の音が小さく響いてきています。一日の仕事を終えた男の子はそれを聴いて、椅子の上にじっとしていました。

 

 ふと目を開け窓を見ると、月の下あたり、きら、きら、と不思議に光るものがあります。

 それは、ゆっくりと、町の方へ降りているようでした。

 顔を出して見れば、星たちが、なにか大変だとでもいうように、せわしなくまたたきするので、男の子は目がチカチカして顔を引っこめました。

 

 すると部屋のまんなかにある机の上に、

 

「あなたのたいせつなお友だちが、助けをひつようとしています。今すぐに、町はずれの公園の、すべり台のとこまで来てね。ぜったい、ね」

 

 と、まん丸い字で走り書きしたメモがありました。

 

 男の子は帽子をかぶると、しぶしぶ外へ出かけるのでした。

 

 公園へ向かう途中、ちらちらする光はだんだん地上に近づいてきて、人のかたちをしているのが見てとれました。

 町はずれの公園につくと、それはちょうどすべり台のてっぺんへと降り立つところでした。無事着地すると、まとっていた光がはなれ、小さな女の子のすがたへと変わったのです。

 

 すべり台の上と下で、女の子と、男の子はお互いを見ました。

 

「こんばんは。来てくれたんだ」

 

 女の子は、ふつうの、町の言葉で喋りました。

 

「やあ……こんばんは」

 

 女の子のま上には、まんまるな、大きな月がこんこんと照っているのでした。

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