三 夢

 男の子の夢のなかで、女の子の探しているものは貝がらだった。

 

 うす暗い、いや、うす明るい砂浜。

 どこまで見わたしても、海はなくて、かわりに水のような軽い青みがかった空気が、あたりを満たして、ゆれたり、流れたりしていた。

 この空気のせいか、ふわふわと、心地よく歩くことができるようだった。

 

 空には、暑い日差しを投げかける太陽の姿もなく、高いところにいくほど、青がこくなって見えるだけだった。

 夜というのでもなかった。

 細い、しろっぽい光が、ときどき、どこからともなく、さしこんでは、すぐに消えてしまう。

 雲ではないけど、きらきらとまばゆくただようものが高いところに浮かんでは、これも、すぐにどこかへ行ってしまう。

 

 女の子は、男の子のまわりを、はしゃいでいるみたいにかけまわっては、しゃがみこんで、貝がらや、ときどきなにかよくわからない玉、球体のものを拾いあげている。拾いあげては、捨ててしまう。

 

 きみはどうして……

 

 声は、この青っぽい空気にとけて、ちいさく、とてもゆっくり、まわりにひろがる。

 

 貝がらを……

 

「つばさだよ」

 

 女の子の声は、不思議と、まっすぐにひびいた。

 

 探しているの……?

 

 男の子の声が、遅れてとどいた。

 

「そうだよ。探しているんだ。だって、貝がらがつばさになって、あたしたち天へのぼれるじゃない。ほら、見なよ」

 

 女の子の指さす、上の高いところで、よく目をこらすと、透けて見える大きな大きなつばさがゆったり、いくつもいくつも、飛びかっていた。

 

「あたしも早く、ああなりたいな」

 

 女の子は楽しそうで、男の子もそれにつられて、楽しい気分になってきた。

 

 ぼくも、探そう。

 

「二枚くっついてるの探さないといけないよ。二つとも同じ大きさじゃないと、バランスがとれなくって、うまく飛べないから」

 

 たくさんの色の貝がらが、青っぽい砂地にうまっている。

 いろんなちがう形した貝がらたち。

 このなかのどこかに、ぼくだけの貝がらがあるんだな。

 ぼくだけのつばさ……

 

 女の子は笑いかけて、男の子もそれに答えた。

 楽しい、とても……

 

 ふと笑いがやんで、また静かになると、かすかに、耳の奥にひびく音楽のようなものがあった。

 そのまま目を閉じて、じっと耳をすましてみると、それは確かに、不思議な一定のリズムを刻んでいて、いくつかの楽器の音色も聴こえてきた。

 

 ずんずん、ぢゃんぢゃん、ずん、ぢゃか、ずん、ぢゃんか、……

 

 行ってみると、小さな、骨や骨のかけらたちが、たくさん踊ったり、見たこともない楽器を鳴らしていて、そのまん中で、ひときわ大きな、太い骨がくみあわさって動物の形になったものが、手足をくるくると回して、立派に、はなやかに、舞っているのだった。

 とても楽しそうで。

 見ていると、どんどん、肉がついていって、最後には、骨は見えなくなり大きな肉のかたまりになった。

 

 踊りは、いつまでもつづけられるみたいだった。

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