四 再び、砂浜で

 次の日、男の子はまた、砂浜へ来た。

 

 砂浜へと、防波堤の階段を下りる足取りは、少しだけどはずむようでもあった。

 それは男の子の宝物の、顕微鏡の中でぴこぴこと動いていた、ミジンコのように。

 

 砂浜には、だれの姿もなかった。

 ビーチボールで遊ぶ子らも、犬を連れて海辺を散歩するおじいさんも。

 男の子の好きな、静けさが、そこにはいくらでもあった。

 雲がぽかりと、三つ四つ浮かぶ空はきれいすぎる水色で、おだやかに波をよこす海の青は、深い。

 

 そのあと、風景のように、砂浜にしゃがみこむ男の子の姿もなかった。

 

 男の子は歩いた。

 もう人がまばらな、海水浴場のある方の砂浜……釣り人たちのいる堤防、テトラポッド……暗い岬の影……もう一度、最初の砂浜……海の家。

 

 どこにも、サンダルを探す女の子の姿はなかった。

 

 岬の下では、ぴんくがかった貝がらを見つけて、なんとなくポケットに入れた。

 それくらいで、他に男の子の目にうつるものは皆うすぼけて、色あせて見え、また、だれの目にも、男の子はうつらないのだった。

 

 夏のおわりの砂浜はまだ暑く、ところどころ、かげろうがゆれて見えた。

 

 男の子はこの日、砂浜の骨を見ることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る