二 海の家
波の音はいくぶん遠のいている。
海上を、ゆったり泳ぐ魚の群れみたいに、今はたくさんの雲が流れてきていた。
砂浜に人の影はない。
ふたりは、うす暗いちいさな家にいた。
それは使われなくなって久しい海の家だった。
うす暗いので、まだ暑い陽が照らす砂浜の景色が、よけいあざやかに見えた。
「そっか。きみはこの町の子なんだね。さっき見たとき、あんまり陽にやけてないから、海辺に住んでる子には見えなかったので……」
男の子は景色をながめながら、店の後ろの方のテーブルにこしかけている女の子に語りかけていた。
「……うん。だけど今は、もうここに住んでなくて、夏のあいだだけ帰ってくるの。あなた、は?」
「ぼくも、一時的にここへ来ているんだ。いっしょに住んでたじいちゃんが死んでさ。それで、じいちゃんのいるあいだはできなかったけど、おかあさんは今すぐにも引っこしたいと言って、おとうさんは反対してる。必要ないって。まえからときどき仲よくなかったんだ。ご近所とも仲よくないし。おかあさんはぼくを連れて、知り合いのいるこの町に、夏のあいだ来てるの。夏がおわったらどうするかしれない。きみは、どうしてこの砂浜に?」
「あたしは……」
女の子は、店の奥のほうにいて、陽がまったくあたっていない。
うす暗がりのなかで、砂浜に似合わないしろい、すはだが、浮かび上がって見えた。
「なくなったあたしの、ビーチサンダル探しているんだ」
「そうなんだ。いつ、なくしたの」
「ずぅっと、まえに、なくしたの」
「いつも、きみはそれを探しているの? 明日も……」
女の子はふし目がちで、しずかで、しゃべっていないと、眠っているみたいに見える。
でもやがて長いまつげがあがって、まるくてとてもおおきな目が男の子を見つめた。
口が開いて、言葉が出るまでに少しだけ間がある。
「……うん」
男の子は、麦わら帽の下の髪が、むれてくたくたになっているのを、ちょっと気にした。
「明日は、この砂浜じゃないあたりを探すの?」
海の家の外では、雲が空をおおって、そろそろ陽がかたむきかけている。
「わかんない」
男の子は、麦わら帽をかぶって立ち上がった。
ぼくは明日も……いや明日は、ぼくも……
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