第41話 肉食系な女たちと準決勝
月狼国魔導学院との試合が終わると、お昼をの為に各都市の学生は会場を出て、王国内部に広がる街へと昼食を求めるために繰り出す。
一旦会場をでると、街はお祭り騒ぎで何処もおいしいにおいをさせた店が立ち並ぶ。
「どこ行くの?」
当然凍太達5人も昼食を取るために会場を出たところで出口のあたりで待っていたイリス、皐月、ミライザ、そして、月狼国魔導学院の鳳麗華を含めた4人に声を掛けられた。
「どこって――――ご飯だけど――――」
凍太はこれから1人でマーケットにでも行こうかと予定をしていたことを伝えると、
「拙者たちも一緒に行きたのでござるが・・・・!」
「あたしも行きたい!」
と5人が希望する。
「えー。5人は多いなぁ・・・」
自分を含めた5人の席が確保できる店はマーケットに用意された屋外の露店くらいしか凍太は思いつかない。が、今日は日差しも強く外で食べる気分ではなかった。
「アナトリー。どっかいいとこ知ってる?」
「うーん。魔女の帽子亭くらいしか思いつかないな」
アナトリーは少し考えたあとで、魔女の帽子亭を候補に挙げたが――――
「今日はあそこ夜からしかやってないわ」
ハンナが情報を寄こすのでまた、振り出しに戻ってしまった。
「マーケットでいいでござろう?」
「そうにゃ。あたしもマーケットでいいにゃ」
皐月とミライザの二人は日差しが強いにもかかわらずマーケットを上げる。
「イリスちゃんはアッツイの嫌だよね?」
凍太がイリスに問いかけるが
「ううん。あたしは凍太ちゃんと一緒ならどこでもいいよ」
と判断に困る返答を返してくれた。
「えーっと、鳳さん・・・は?」
「あたくしもあなたのセンスに任せるわ」
(えー。なにこれ)
麗華も涼しげな表情で試すような返答をしてくるので、凍太は苦笑いを返すしかなかった。
(なんでこうなったんだろう・・・・)
凍太はマーケットで野外にある円テーブルを囲みながら、空を見上げた。
(空はあんなに青いのになぁ・・・・)
そんなことを思いながら――――ボンヤリとする。と
「凍太ちゃん?ねぇ!凍太ちゃん」
「にゃぁぁぁ!アタシの肉にゃぁ!」
「凍太殿にあまりくっつくでない!――――あっコラ!それは某の魚でござる!」
周りの特に皐月とミライザが、イリスが凍太に抱き着くようにしてくっつくのを目くじらを立てて騒ぎ散らしていた。
麗華は凍太の正面で面白そうに
「大変だこと?――――モテモテね」
と言っているのみ。
「モテモテっていうのかなぁ・・・なんか違う気がする」
「イリスはそう思っていないみたいだけれどね?」
麗華は体を始終凍太にくっつく様にして食事をしていたりする。イリス本人は楽しくて仕方ない様子だったが――――
(さっきから肘が当たって地味に痛い・・・気づいてイリスちゃん)
凍太は心中で声を上げているが、イリスは気づきそうにない。
凍太の右手側には皐月とミライザが座り凍太の前に置かれた肉や魚の取り合いをイリスと繰り広げており、イリスが凍太に食べさせようとするのを皐月が阻止する構図が凍太の前で展開されていた。
「もうっ。邪魔よ!この駄犬!」
「ええい!拙者は駄犬ではござらん!そなたこそ凍太殿の食事を邪魔するでないわ!」
フォークをぶつけ合いながら文句を垂れ合う二人に凍太はほとほと困り果てて
ついに、席を変えてミライザの隣に座った。
「ほらぁ!あんたが余計なことするから凍太ちゃんが席変えちゃったじゃない!!」
「ふん!凍太殿の昼食時は某が守る!」
言い合いをする二人を見やりながら、ミライザの頭をなんとなく撫でてやりながら
「ミライザさんは毛が柔らかいねぇ。さすが猫族だ」
と呟く。と
「にゃぁ。師匠~。耳の後ろは弱いのにゃぁ・・・」
ミライザはこそばゆいような、とろけるような顔をしながら凍太に身体を預けて見せた。
「信じられないわ・・・!」
それを見ていた麗華ががちゃんと音を立てて指を凍太へ突きつけた。
「ん?なにか?」
「何か?じゃないわよ!真昼間から何やってんのよ・・・・!!」
麗華は顔を真っ赤にしながら講義をしてきた。
「え?撫でてるだけだよ?」
「場所が問題なのよ!!耳の後ろは・・・・!耳の後ろはぁ・・・・!」
なにか悪かったのか・・・と、凍太がミライザの頭から手を離す。
と、ミライザは半分くらいぼんやりとした表情のまま動かない状態になって
口の端からよだれが垂れていた。
「凍太殿。そこはその・・・・獣族の急所というか・・・・秘所ゆえ・・・」
「え?!そうなの?ごめんなさい!」
「まぁ、ミライザも気持ちよかった様でござるし、不問にいたしましょう」
ハハハと苦笑いを浮かべる皐月も耳を寝かせているのが見えた。
(しまった・・・・性感帯だったのかぁ)
秘所と言う言葉で凍太はばつが悪そうに下を向きながら後悔した。
知らないことだったとはいえいきなり性感帯を刺激するのはやり過ぎだったに違いない。横を見てみればミライザはまだ蕩けた顔色で居るのが見えた。
「お帰り。いっぱい楽しんだの?」
テントの中でハンナから茶化されながらそう言われたが、とりあえず凍太は無視を決め込んだ。実際、あまりいいランチタイムではなかったのもある。
「まぁいいじゃねぇか。それよりも次の試合が始まるぜ」
助け舟を出してくれたのはエンリケだった。
「雪花国魔術教導院」と「ヒュプテル魔術学校」の試合を見ておくのも彼らの大事な役目の一つなのだとハンナも分かってはいた。が――――
「女の子は恋の成り行きが気になるのよ」
とぼやきを漏らして見せた。
グラウンドに「雪花国魔術教導院」と「ヒュプテル魔術学校」のメンバーが勢ぞろいして今大会何回目かの実況の名乗り上げを受けている。
「雪花国魔術教導院」と「ヒュプテル魔術学校」の生徒たちは御互いに対照的な戦術を取って今までの戦いを進んできた。
「雪花国魔術教導院」は防戦から切り崩しによるカウンターアタックでポールフラッグを奪い、「ヒュプテル魔術学校」は全員一丸となって相手を寄せ付けない弾幕をはって一回戦を勝ち上がった。
「ヒュプテル魔術学校」を「雪花国魔術教導院」がどう対処するのかが一番の問題点で観客の興味もそこに集約されていると言っていい。加えて
「遠距離射撃の「ヒュプテル魔術学校」に対し、「雪花国魔術教導院」はどう対処するのでしょうか!!あの弾幕を掻い潜り、ポールフラッグを奪うことが出来るのでしょうか―――――!!」
尚、一層実況が煽り立てている。
「まぁ、確かに見ものだが、どっちも初参加だからな」
「あら?手の内を見せてもらいましょうよ」
「ああ、どっちが勝っても対策を立てる必要があるからな」
天幕の内側からベンチに座ってカレル、ハンナ、エンリケの順に呟いてにやりと笑って見せた。
(まぁ、確かに・・・・情報を前もって知っておくのは悪くない)
凍太も情報を得られることに肯定的にとった。同時に
(同じような戦いを当てはめることも出来る)
そう考えてもいた。現代で大学まで行った知識はいまだに健在で、歴史もそれなりには学んでもいた自負もある。有名な戦いは暗記も出来ていた。
(遠距離と近距離の戦いか・・・長篠の合戦・・・いや・・・クレシーの戦いのが近いか?)
凍太は記憶を掘り起こした。
どちらも遠距離に対する攻撃だったが、「ヒュプテル魔術学校」の使っているのは「長弓」であることから、凍太はクレシーの戦いを当てはめてみた。
イングランド軍とフランス軍の戦いでロングボウを山裾の両脇に配置したイングランド軍が騎馬での突撃力を誇るフランス軍を撃退した戦い。
フランス騎士は名誉にかけて突撃を敢行する。やがて障害物帯を突破。
しかし、結果として側面にいるロングボウ隊、更には後方に撤退したロングボウ隊による十字砲火を食らう事になり、余計に大損害を蒙る結果となった。
結局、フランス軍は十五回も突撃を発起したが全て失敗。流石にこれは無理だと判断したフランス王フィリップ六世は撤退を指示し、戦いは終わった。記録によって変わるが、フランスの損害は六千から二万に及んだという。
「ヒュプテル魔術学校」をイングランド軍、「雪花国魔術教導院」をフランス軍とするならば、圧倒的に「雪花国魔術教導院」が不利だが、そこに魔術の要素はない。
そして魔術はある程度の攻撃ならば受け流すことや、防ぐことが出来る物でもあるため一概に「雪花国魔術教導院」が不利とも限らない。
人数は5対5で同数。それでもまだ、距離は「ヒュプテル魔術学校」に有利に思えた。
「そろそろ始まるわ」
ハンナが楽しそうにつぶやく。
準決勝の火ぶたはここに降ろされたのである。
「「ヒュプテル魔術学校」今回も遠距離から「長弓」を使って攻めるつもりの様ですね」
実況の教師がつぶやいた。
みれば、「ヒュプテル魔術学校」の生徒はグラウンドの端に陣取り4人が一斉に「長弓」を弾き絞った。
残りの一人は、坂とげ上のバリケードを「長弓」の前へ出現させた。
「一方の「雪花国魔術教導院」は――――ああっと、こちらも5人が横一列で魔術を打つ構えの様です!!」
「へぇ・・・」
「ほぅ・・・」
「そう来るんだぁ・・・・へぇ」
「意外だなぁ」
「雪花国魔術教導院」の取った行動を見て、カレル、エンリケ、ハンナ、こんどはアナトリーが呟いていた。
(こっちの考えとは違うってことか・・・紗枝さんや雪乃おばあさまの考えでも入っているんだろうけど・・・)
凍太は自分の考えが外れて、ぷくりと顔を膨らませた。
「あらぁ?凍太ちゃんはなにふくれてるの?」
ハンナにふにっと頬をつつかれた。
「自分の考えたことと違ってて、面白くないだけだよ」
「へぇ?面白そうじゃないか?言ってごらんよ」
カレルが試合を見たまま、促してきたので――――凍太もそれに乗ることにして、考えていた戦術を語りはじめた。
「相手が長距離で来るなら、それ以上の距離と火力の差で押し切ればいいのですよ」
観客席にすわったままの雪乃は腕組みをしたまま、悠然と答えて見せた。
「でもそれじゃ、消耗が激しいわよ?町長」
凍子が隣から疑問を投げかけた。
「今日はもう、試合はこれきりです。ぶっ倒れたってかまいやしませんよ。それに、そんな心配はいりませんよ。ですね?紗枝?」
「はい。あのような出力の矢なら妹のアリアナが得意とする防御魔術で無効化できます。イリスと姉のリリアナの二人の魔力であれば押し切れるはずです」
「でもそれじゃ・・・・」
「そう。長くはもたないでしょうね。だからこそヘイルダム、ミサのコンビが生きてきます。乱戦、接近戦になればあの二人にかなう者などそうそういませんよ」
「雪花国魔術教導院」の狙いは最初から乱戦。
そのための第一段階としてリリアナ、アリアナ姉妹の妹。アリアナに防御魔術の展開を命じていた。あとはアリアナとイリスによる高出力魔術弾をつづけさまに打ち込む予定だった。高出力魔術弾は魔力の生成にしばらくの時間を要することでその分威力を高めることが出来た。
本来は大規模戦闘や、対亜人種用の攻撃手段ではある。が――――雪乃や紗枝にとっては手段など選ぶ気は最初からなかった。
高出力魔力弾で相手が戦闘不能になれば良し。ならなければ、後は乱戦にもちこんで
決着をつける。そういう算段で、無論の事、ミサ、ヘイルダムの二人にはそのことを伝えておいた。あの二人ならば状況に応じた動きが出来るに違いなかった。
「どでかい魔力弾が飛来しておりまーーーす!「ヒュプテル魔術学校」これはピンチです!!」
上空から大きな高出力魔術弾がいくつも飛来し、彼らの前にクレーターを作り、同時に土砂を振らせた。
狙いはまだ定まってはいないが――――いづれ直撃弾が振るだろうと――――
「ヒュプテル魔術学校」の生徒たちは予感した。
「やばいですよ。やつら競技だってことを分かってないんですよ!こんなどでかい魔力弾が振ってくるなんて!」
「そうかもしれないわね!!」
「ヒュプテル魔術学校」の代表生の一人でリーダー格でもあるアンネローゼは半ばやけ気味に叫び返した。
ずどん、ずどん と音を立てて魔術弾が飛来するのに負けずアンネローゼ達4人は土煙が上がる中、懸命に魔術の矢を曳き絞り、撃ち返す。
残り一人は懸命に自陣で防御魔術を切らさぬように歯を食いしばり続けた。
魔術弾が防御魔術に衝突するたびに、防御をうけもつ生徒の顔がゆがむ。このままでは大砲の弾を受けるようにいずれは打ち破られてしまうだろう。
アンネローゼはそんなひどい状況の中で隊を二つに分け、グラウンドの左右に配置。
そのまま防御魔術の範囲内ギリギリまで歩を進めて見せた。
魔術弾の着弾点はグラウンドのほぼ中央あたり。わざわざそこに居てやる必要などないのだ。
「はぁ・・・・はぁ・・・」
一方高出力魔術弾を打ち続けるイリスとリリアナもさすがに息が上がり始めていた。
特にイリスの疲労は大きく、発射回数が半分ほどに落ち始めている有様だった。
「イリスちゃん。少し休みなさい」
ミサが指示を出すと、イリスもおとなしくそれに従う。
「奴ら隊を分けやがった。どうするミサ。突っ込むか?」
「今突っ込んだら、弓の殺し間に入るだけよ。かといって、消耗も激しいし・・・・」
「いっそのこと奴らに突っ込ませるってのはどうだ?」
ヘイルダムはミサに提案をした。
「今攻撃を止めれば、ほぼ確実に奴らは突っ込んでくると思うがね」
「そんなにうまく行くかしら」
「全員で守れば奴らの攻撃はそんなに恐ろしいもんじゃない。やってみる価値はあると思うぜ?」
確かにこのまま射撃を続ければ、イリス、アリアナがつぶれるのは目に見えている。
それならば、一旦射撃を止めるのも手かもしれない。
「リリアナ、一旦攻撃を止めなさい。相手が動いてくるのを待つわよ」
ミサはリリアナに指示を出し、己はアリアナに倣って魔術障壁を内部にもう一枚追加した。
「イリスちゃんとリリアナは一時待機をしてて。ヘイルダム、あんたはいつでも切り込める用意をしておいて」
ミサはそれだけを言って前を向いた。
「お?やっと止まったか」
エンリケがスコープをのぞき込みながら呟く。
グラウンドの土煙はまだ晴れないが、魔術弾の応酬は一旦終焉を迎えていた。
「そりゃそうさ。あんな高出力の魔術弾をバカバカ撃ってれば疲弊もするだろう」
「それだけじゃないわよ。ヒュプテルの方もそれは分かってるはずだわ」
ハンナの言う通り「ヒュプテル魔術学校」の左右に展開した人員4人が動きを見せた。二人一組で左右から前進を同じ速さで進みはじめたのだ。
そして――――グラウンドの半ばまで進んだ両隊は魔術で土塁を作り上げた。
人二人が余裕で入れる土塁、それも弓を打つための狭間まで配された作りになったものであり土塁の前には魔術の障壁が展開されていた。
(この距離なら、一気に詰められることもないし、こっちからは術者をより正確に狙える)
アンネローゼの考えは中距離からの術者の排除だった。
高出力魔力弾は魔力装填に時間がかかる。その装填時間の最中に相手を仕留めることで魔力弾の脅威は消えると考えていた。
武器も長弓からボウガンへ持ち替え山なりの攻撃から、射貫く直接的攻撃へと変更を取る。タイミングを合わせ、4人が連続で矢を放つ。魔術障壁が邪魔をして、相手に届く前に勢いが殺されてかき消えたが―――――一発一発ごとに魔力障壁の効力は薄れていった。
(このまま射撃で魔力障壁を打ち破るか、相手が攻勢に出る瞬間を見計らって攻撃そのものを潰せばいい)
もちろんヒュプテル魔術学校の他の生徒も魔力の矢を打ち続けるのはいつかは切れるはずだが、今はそれを心配する時ではないとアンネローゼは結論した――――だから――――
「精いっぱい打ち続けて!切れ間を与えないように攻めなさい!」
そう叫んで指示を出すのだった。
「ミサさん!もう障壁がもたないよぅ!」
ついに魔術で防御を行っていたアリアナが悲鳴を上げだした。試合開始からいままで飛来する矢を障壁で止めていたのだが、ついに障壁の効力が薄れ始めて来ていた。
「仕方ないわね。イリスとリリアナはもう一回魔術弾を土塁に向かって振らせなさい。その隙に私とヘイルダムで距離を詰めるわ。行けるわね?」
「誰に言ってんだよ。任せろや」
ヘイルダムは笑う。ヘイルダムの隣にいたイリスとリリアナも頷いた。
「いまから氷壁を展開するわ!その陰に隠れて魔術弾に魔力を集めなさい!いいわね!」
ミサが叫ぶ。数舜あとから氷壁が仲間の前に出現した。
後ろではイリスとリリアナが魔術弾の再充填を始めた。氷壁が持つのは恐らく矢が2,3発当たれば砕けてしまうだろうがそれでも構わなかった。
魔術弾で土塁ごと選手を吹き飛ばせれば、近づく隙が出来る。どのみち次の攻撃が失敗すればここで負けることは確実だった。
やがて氷壁が崩れはじめる音がし始め―――――ばこんっ――――と音が鳴った。と同時に、イリスとリリアナは魔術弾を各自一発づつを左右の土塁に山なりに飛ばす。
「来やがった!」
土塁の後ろ側では「ヒュプテル魔術学校」の生徒たちが振ってくる魔術弾を察知して咄嗟に魔術障壁で防御を固める。アンネローゼも地面に這うようにして防御魔術を展開した。
やがて、大きな魔術弾が土塁の真上から降り注ぎ、あたりを光と爆音で支配した。
土塁は木っ端みじんに吹き飛び後ろにいた生徒たちは自らの身を守ることに必死になった。少しでも気を抜けば爆風と衝撃でダメージを食らう。そうならないためにも
衝撃と爆風が止むまでは必死に守るしかないのだ――――が、次の瞬間には白く光る周りの景色の中から突撃してくる人影が見えた。
まずはものすごい速さで迫ってくる男。続いて後ろからは小柄なダークエルフがオオカミ型のゴーレムに跨って迫っている。
―――――ぎゃあああ――――
左側の土塁では悲鳴が上がって、仲間の一人が女の放った雪槍で身体を貫かれて血を流しながら叫び声をあげていた。
「ヒュプテル魔術学校」は近づかれてからは、反撃をすることが出来なかった。
ヘイルダムは爆風の中を突撃しまだ防御のさなかにあったアンネローゼともう一人を格闘で苦も無く気絶させ、左側に居た生徒2名もミサの氷槍とリリアナの魔術によって無効化された。それを見ていた最後の一人は戦意を失いやすやすとイリスのゴーレムに間を縮められて――――地面に押し倒されて、ようやくギブアップを宣言した。
「まぁ――――無理もねぇよなぁ」
市場に併設されたテーブル席に陣取って男二人が飲みあいながら、昼間の顛末を話していた。
「いやぁ――――あんなでっけぇ魔術弾初めて見たぜ」
「なんつったかぁ――――あのダークエルフの嬢ちゃん」
「エリ――――いや、イリスだっけ?」
「そうそう!イリスちゃん!あの子は相当なもんだぜ?」
「だよなぁ!明日の決勝が楽しみだ!!」
口口に感想を並べ立てては、酒を煽る。そしてまた、感想を言い合う二人の男はとても嬉しそうに語りあう。
周りには同じような客が同じようなことを言う光景があふれていた。
どの客も笑顔で、嬉しそう。まだまだ話は繰り返されるに違いない。
こうして――――「蛇の王国」で開催された「都市間交流戦」の二日目は幕を閉じたのであった。
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