転生から始まるもう一つの物語~師匠と弟子とおかしな仲間

ヒポポタマス

第1話 少し変わった望み

 アクシデントは唐突だった。

 重い身体を引きずって、二階への階段を登っていく。

 時刻は12:00

 どうにも体が重い。きっと働きすぎたから、疲れなんだなとおもって足を上げた時だった。

 ズル・・

 底の減った革靴が階段で滑った。男の体はのけぞる様にしてバランスを崩す。

「!」

 掴まろう。とにかく何でもいいから。そう――――思ってはいただろうけれど、むなしく男の手は空を切った。

 落ちる――――後ろへ、身体が回るのを感じながら、男は気を失った。


 ふっ――――と目が覚めた。

「んぁ・・・?」

 白くて、ふわふわした感覚に

(ああ、きっと夢だ)

 夢じゃよくあることさ。不思議にも思わず身体を動かそうとした時だった。

(・・・・動かない)

 金縛りのように意識があるのに、ピクリとも、動かない。いや、正確に言えば動かせない。

「それは、身体が死んでいるから」

 どこからだろう。声がした。

(・・・・なんだって?死んだ?)

 理解が追い付かない。

「意識は―――――精神はまだかろうじて認識できている。そんな状態よ」

 また声は言った。

「おつかれさまでした。いきなり死んでしまったのだけれど、後悔はないわよね?」

(・・・・そんな訳あるか)

 階段落ちで死ぬなんて、誰にも看取られず逝くなんて。納得できない、したくも無い。

(後悔はある。ラオウじゃねーんだぞ。いっぱいヤリタイこともしたいことも在ったんだ。むしろ後悔だらけだね)

 皮肉いっぱいに、心の中で告げた。実際には口は開かなかった。けれど、なぜだか自分でしゃべっている。そんな感じがしていた。

「フウン。フーン。ソウナンダ。後悔だらけで、やりたいこともいっぱい・・・か。じゃあさ。もう一回人生やり直せるって言ったら、どうかしら?」

 声はそんなことを言ってきた。

(・・・・やり直せる?生き返るって?)

 俺は思わず、聞き返していた。

「生き返る。じゃあなくて、だけどネ。」

(転生ってやつか)

 しばらく考えた。この声に従っていいのか? 死んでるって本当なのか? いろいろ思い浮かぶことはあったけれど・・・・。

(まぁもう一度人生やれるんなら、やらせてもらいたいね)

 そう思えていた。

「いい返事だ。それと、何か、ほしいものはあるかな?」

 声はそんなことを聴いてきた。

(?)

 ほしい物、ほしいモノ・・・・。考えた。

 死ぬ前はあんまりパッとしない生き方だった。理解ははやいほうだった。でも・・・

 あんまりいい人間関係は築けなかった。なんでだろう・・・。

 しばらく黙考して、あることに気が付いた。教えてくれる人がいなかったなぁ。と。

 勿論、小学校から中学、高校の先生たちはいた。親たちも無論いた。

 でも、彼らは決まったようにこう言うのだ。

 『いいからやりなさい』と。

 

 元来、素直じゃなかったのもあって、剝れながらではあるけれど、やり始めて、学んで・・・大学に行って、就職もした。

 大人になると、周りはもっと教えてくれなくなった。頭を下げて頼んでも、無理な人もいたし、教えてはくれたけれど、今一歩な人もいた。

 まぁ、聞き方が悪かったのもあるし、素直じゃないのもあると思うけど、あんまりいい先生達には会えなかった。

(そうだなぁ・・・・)

(師匠がほしい)

 突然ふっと頭に浮かんだのは、なんとも変な要望だった。

「師匠?」

 声はよくわかっていないようだった。そしてこう続けてきた。

「もうちょっと、わかりやすく言ってもらえると助かるのだけどね」

 どうやら、考えていることは伝わらなかった様だったので、声に出すようにして――――実際には声に出ているかは不明だったが――――もう一度わかり易く言ってみた。

(教えてくれる人がほしいんだ。人生を迷わないようにね。甘い考えだとわかってはいるけど)

「・・・なるほどね。」

 声はすこし笑ったようなニュアンスを含んでいた。なにかおかしいこと言っただろうか。

「面白い考えだわ。今まで「力がほしい」「金がほしい」「チート能力がほしい」なんていったのはいたけれど、「師匠がほしい」とは・・・くくくっ」

 チートか・・・しまったな。そういう望みもあったんだ。と思ったが、やめた。

 でも、まぁいいか。ヒーローや英雄、ましてや化け物なんかになりたくないし。

 次は失敗しないように生きたいだけなんだ。本当に。

「いいでしょう。「師匠」に会えるように、道に困らないようにしてあげる。あとは、なにかあるかな?」

(?)

「なんでもいい。面白い答えが聞けたからボーナスってところかな。もう一つなにか望むものはあるかい?」

(女運を良くしてほしい)

 場が静まり返った・・・。が、そのあとで

「なんとも、現金だね。だが、素直でいいと思うね。そういう人間臭さも大切なことだよ。ふふふ」

 声は面白そうな、なんとも愉快といった風でそう答えたのだ。

 やがて、声は聞こえなくなり―――――ふわふわした空間は終わりをつげた。

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