◆Middle04◆大学都市オーカー
そこは歴史の表舞台より秘匿された街、すなわち大学都市オーカー。
およそ一万人が住まうというこの街の偉容を見た時、菫は驚愕した。
なぜなら、その街は―――。
GM:ここで場面が変わる。菫とクロウは、フジヤマたちに連れられてかの街を目指す。街道を行き交う乗り物の多くは馬車。道行く人の服装もあわせ、菫とクロウは驚くしかない。なぜなら、その光景は資料で見た中世の街並みか、あるいはゲームの世界のようだからだ。
クロウ:リアルMMO、面白ぇ(笑)。ゲームの中じゃプログラムに決められた行動しかできないけど……科学の知識や法則、論理とかを駆使すれば世界制覇も夢じゃなくねえ?
菫:世界制覇って。
クロウ:だって、馬車だぜ馬車。電気モーターとかエンジンとか持ち込むだけでも……。
フジヤマ:たしかにウォークと馬車では時間がかかりすぎマス。転送装置、使いましょう。
菫:転送装置?
フジヤマ:ええ。数十、数百キロ離れた都市から都市まで一瞬で転移するための装置デス。
菫:そんなの地球にもないよっ!?(一同爆笑)
クロウ:この世界の技術はどうなってんだっ!? MMOにはふつーにあったけど!(笑)
GM:(笑)。そして数日後……キミたちは大学都市オーカーの前に立った。そこは、山と山が連なる合間に、人目から逃れるようにして存在していた。外壁に守られたその街を見た時、菫とクロウは驚かざるを得なかった。そこにある建物群は、どう見ても現代地球……それも日本の大学のキャンパスにしか見えなかったからだ。
菫:これ、日本の大学……だよね、クロウくん。
クロウ:なにをどう見ても、そうだ―――と、驚いて声も出ない。
GM:敷地内に入る門には、「央海大学」ってプレートが埋め込まれているね。それを見た時、ふたりは同時に思い出した。数年前、日本で大学のキャンパスが丸ごと消失し、世間を大騒ぎさせた事件を。テロだの事故だのどこかの国の陰謀だの、様々な憶測を呼んだが……結局原因はわからず、消えたキャンパスも人も、見つかることはなかったという。
菫:あーっ! 新聞に出てた―――っ!(笑)
クロウ:つまり大学風味ではなく、大学そのものなのか。
GM:そのとおり。なお、イメージ的には東海大学なのだが(笑)。
菫:あ、行ったことある!(笑) すっごいおっきいんだよ。(素に戻って)友人が通ってて、一回講義に潜り込ませてもらったことがある(笑)。
クロウ:あ。央海大学だから、大学都市オーカーなのか(笑)。
GM:なお、敷地内にいるのは地球人だけじゃない。エリンの様々な種族も闊歩している。
フジヤマ:翼が生えてたり、獣の耳が生えてたりする奴が大学のキャンパスを歩く……想像すると面白い光景だ。
菫:すごい! 気合いの入ったコスプレイヤーがいっぱい歩いてる!(笑)
クロウ:俺は、その辺の木の陰に隠れる……。
一同:なんでっ!?
クロウ:人の多い場所は苦手で……。
菫:もー。いい、クロウくん。これは現実だけど、あなたにとっては新しいゲームなんでしょ? だったら、この街はゲームを始めた時の最初の街だよ。
クロウ:(ぶつくさと)……そ、そうだ、これはゲームだ、ゲーム……ゲームなんだ……!フフフ、気持ちが楽になった……っ!(笑) フジヤマ、まず情報がないと動けない。この街の長に会わせてもらいたい―――。
ルイン:切り替えはやっ!(笑)
菫:わたしも早く情報をもらって、みーちゃんを助けに行きたい!
フジヤマ:HAHAHA、急いては事をミステイクですネ。では、こちらへ―――。
GM:そしてキミたち四人は、学園の中枢機能がある建物へと案内される。
クロウ:とりあえず最初のクエストだ。この街を拠点に、そのみーちゃんとやらの目撃情報、装備、食料、地図……このあたりをもらえればそれでいい。あと、宿屋も教えてもらおう。
菫:……クロウくん。ゲームだと思うとてきぱきしてるね……。
GM:(笑)。では、キミたちは建物に入ってエレベーターに乗り込み、最上階へ向かった。
クロウ:エレベーターがちゃんと稼働してるのか。電力はどうやって供給してるんだ(笑)。
GM:学園の秘密です。で、やがてキミたちは建物の最上階にある、大きな扉の前へと立った。その扉の上に貼り付けられたプレートには「理事長室」と書かれている。
ルイン:コホン。では……ルイン・シュレディンガー、フジヤマ・グレイス、入ります。
GM:そして、扉が開かれた。そこは赤い絨毯の敷かれた豪奢な部屋で、奧には黒檀で作られた執務机。その奥で、車椅子に腰掛けた一〇歳ほどの少女が静かに微笑んでいる。白を基調としたドレスに、黒い髪―――。
菫:幼女!(←なぜかすごい笑顔)
クロウ:これが理事長? ロリババアだ!
GM:たしかに声も外見も幼い少女だね。しかし、その外見に似合わぬ大人びた雰囲気をまとっており……クロウに向けてこう言った。「ようこそ、大学都市オーカーへ。わたしが理事長の桜葉詩織です」
菫:え、日本人……?
GM:「フジヤマさん、ルインさん。ご苦労様でした」
フジヤマ:ふふふ、当然のことをしたまでデスよ、ミス・プレジデント。
GM:彼女は微笑みながら、肯定の意味で軽い会釈をした。そして菫たちに向きなおる。「ようこそ。突然のことで驚いたことと思いますが、ここはエリンという世界です。あなたたちの認識で言うならば異世界、というものでしょうか」
菫:もう、信じざるを得ません……異世界に来ちゃったと……(笑)。
GM:「驚くほどのことではありません。地球の様々な伝承にもそのような話はいろいろとあります。たとえば神隠しと呼ばれる現象も、実は異世界転移の例なのです」
クロウ:ああ、東京タワーに見学しに行ったら……みたいなのもあるな。
GM:「そうですね。『レイアース』は名作ですね」
菫:知ってるんだっ!?(一同大爆笑)
GM:「ラノベ界でも、異世界トリップの物語が跳梁しているようで」
菫:ラノベの話になった!?(笑)
GM:「……まあ、それはともかく。この街では、地球より転移してきた方々を保護し、エリンの常識や生きる技術、知識を与えています。それが、あなたたちの生命を守ります」
フジヤマ:つまりこの世界で生きろ、地球に帰ることは難しい、という話デス。
菫:そうなのっ!? あの、帰った人もいるんですよね!?
GM:理事長は、一拍の間をおいて笑顔で言った。「希望はあります」
菫:ああ~! これは帰れないやつだ~っ!(笑)
GM:「希望があるのはウソではありません。ですから、落胆することなく、まずはこの世界で生き残ることを考えてお過ごしください。必要な知識は、すべてこちらから提供いたします―――あ、これが教材です」
クロウ:教材?
GM:表紙には、こう書かれていた。「漫画でわかる初めての異世界」
一同:漫画でっ!?
GM:作・池上遼一。
一同:なんでだよっ!?(笑)
菫:ちょっといろいろ愕然としつつ……みーちゃんの話を聞き出したいです。
GM:「報告は受けています。捜索班が出ていますが、現状で足取りはつかめていません」
菫:あの子、わたしの一番の友達なんです!
GM:「……そう。それは心配ですね。それで?」
クロウ:食料や地図、この世界の金を借りたい。
菫:そしてみーちゃんを探しに行きます!
GM:「だめです」
菫:一秒で却下された―――っ!(笑) どうしてですかっ!?
GM:キミがその疑問の言葉を投げかけた時だ。「理事長のおっしゃることは当然だ。わきまえたまえ」どこか高飛車な調子の、少年の声がかけられた。
菫:誰っ!?
GM:振り向けば、ドアを開けて入ってきたのは……学園指定の制服を着込み、眼鏡をかけた少年だ。「キミたちはこの世界にきたばかりだ。エリンの常識も、生きる術もルールも知らない。今、この街を出れば、たちまち獣のエサさ。いや、エサにならずとも、この世界の常識に沿って行動したり、この世界の人々と交渉や会話はできまい? ひとつのミスが、無知が、キミたちの生命どころか、街全体を危機に陥れることだってあるんだ」
クロウ:セリフなげえな。誰だ、お前。
GM:その質問には、理事長が答えた。「紹介します。彼は生徒会長の五行清秋さんです。それと―――」部屋に入ってきたのは、生徒会長と呼ばれた少年だけではなかった。そのうしろから、どこか気品にあふれた紅髪ツインテールの女性と……。
ルイン:おお、ガートルード様!
GM:さらに年齢は二七~八歳か。ふわふわなブロンドを揺らしながら、白衣を纏った女性が入ってくる。「……遅くなりました~、理事長~」
菫:一気に人が増えた。
GM:「お待ちしていました、ガートルードさん、エレイン先生」
挿絵↓(お手数ですが下記URLをコピーして、ブラウザに入力してください。イラストを閲覧できます)
http://www.fear.co.jp/kakuyomu_gazou/04illust02.jpg
クロウ:先生?
GM:「ええ、新人にはまず、この世界の最低限の基礎を教える担当が付くのです。まずは半年、エレイン先生から学んでください」
菫:半年っ!? そんなに待てないっ!
クロウ:この世界の基礎? そんなものはとっくに習得している。このエリンディル西方について、俺が知らないことはない。
菫:そう! なんかクロウくんは、この世界のことにくわしいんです!
クロウ:そう、丸二日くれれば、効率のいいレベリングの方法を探す自信もある。
菫:な、なに言ってるかわからないけどくわしいんです!(一同爆笑)
GM:「二日―――た、たしかに意志の強さと自信は感じますね……本当にこの世界の基礎を知っているのであれば、許可を出しても……」
一同:お。
GM:だが理事長の言葉に、生徒会長が口を挟んだ。「……僕は反対です! 規定通り少なくとも半年! 基礎を学んだのちにテストダンジョンにチャレンジし、一定の成績をあげること。それで初めて外出許可が出せる―――このルールを守ってもらわねば困ります!」
クロウ:なら、援助も情報もいらないから出て行く、と言えば?
GM:「この街の存在と位置を知った以上、それも認められない。この街の存在を、外に広く知られるわけにはいかないのだ。規則で決まっている!」
クロウ:なら、二日で知識を詰め込み、そのテストダンジョンとやらをクリアできたら?
GM:「二日? 二日だと?」生徒会長はびしっと整った美少年なんだが、キミをじろりとにらんで言う。「二日でなにができる。ダンジョンを甘くみないことだ! 某進学校を優秀な成績で卒業し、この大学において圧倒的な支持で生徒会長を二期も務めるこの僕でさえ一ヶ月はかかったのだぞ!」
菫:え、なにそのアピール……(笑)。
クロウ:二日で十分だ。俺がこの一〇年でいったい何人の初心者をプロゲーマーに育て上げてきたと思っている。
GM:「ゲームと一緒にしないでもらおう! 僕はこの学園の秩序を守るために言っている! ルールを遵守できない人間はこれだから困る!」
クロウ:ゲーマーはルールを遵守するものだ。ただ間違ったルール、応用の利かないルールには従えない。
GM:「ほう……」
クロウ:いいか? ―――ゲームは、遊びじゃねぇんだよ。
フジヤマ:おお、名台詞デスよっ!? メモしておかなくちゃ!(一同爆笑)
ルイン:うむ、すばらしい言葉だ……! ガートルード様も感嘆しておられる。
菫:いや、クロウくん……それはちょっとだめな人だよ……(笑)。
ルイン:理事長、生徒会長。言葉だけでは誰もが言えること。冒険者としてやっていけるという証を立てられるのであれば、彼の意見は一理あるかと。
GM:「たしかにそうですねぇ」のんびりした口調でルインの後押しをしたのは、エレイン先生だ。「……二日で基礎を学び、テストダンジョンをクリアする。考えるのは、それからでも遅くはないものと存じます」
ルイン:お、先生はこっちの味方か。
GM:理事長は少し考えてのち、言った。「生徒会長、ガートルードさん。菫さんの、友達を思う心は理解できます。テスト、してみましょう」当然、生徒会長は不満顔だ。「僕は賛成しかねますね、理事長」彼はくいくいっと眼鏡を押し上げながらそう言った(一同爆笑)。
ルイン:私とキャラかぶりをするな―――っ!!(一同大爆笑)
菫:眼鏡くんが多い~!(笑)
GM:「ガートルードさんはどうでしょう~?」先生がガートルードに水を向ける。
ルイン:もちろん、ガートルード様は賛成であろう。先ほどの名言が、彼女の心を打ったはずだ!(←肯定させようと必死)
GM:ガートルードは反応がない。その心はここにあらず、といった感じでこの新人ふたりに視線を向けている。なぜか、その顔を赤らめて。
ルイン:っ!? 名台詞に心を持って行かれすぎです、ガートルード様!(笑)
菫:クロウくんを見ているっ!? ちょろいですよ、ガートルードさんっ!?
フジヤマ:いきなりなんなのか、この展開っ!? これが現代地球に横行すると言われるヒロインならぬチョロインというやつデスっ!?(笑)
クロウ:(声をきりっと引き締めて)ガートルードさんだったな。あんたの意見は?
GM:その声に、ガートルードも我に返って……顔を赤らめたままぷいっとそっぽを向いて咳払いをひとつ。「……あ、あたしも先生の意見に賛成です。ルールは大事ですが友を守れずして、なんのためのルールかと」
クロウ:―――いい言葉だな、あんた。決まりだな。
GM:その場の空気に、生徒会長が眼鏡をくいくいしながら、舌を打つ。「……わかった。ならば、このテストダンジョンで高得点を取れれば一考してやる。取れなければ、僕の指示に従ってもらおう。それでいいな、そこのゲーマー」
クロウ:ああ、それでいい。
GM:そのやりとりを見ていた理事長は、「では、決まりですね。テストは、二日後の一八時より開始します。それまでに基本的な知識を身につけるべく実習室に入ってもらいます」
クロウ:……わかった。今さら、学ぶこともないがな。
GM:話がついたところで、ガートルードがルインに声をかける。「……がんばってね、ルイン君。彼らはやはりこの世界の新人なの。ふたりの未来は、きっとキミにかかってる」
ルイン:おお、ガートルード様がこの私に期待を! お任せあれ!
GM:「こっちのギルドのことは気にしなくていいから」
ルイン:ちょ……っ(一同爆笑)。
菫:この人、優しい刃で刺してくる!(笑)
フジヤマ:微妙にハブにしてくるスタイル!(笑)
GM:では、最後に理事長の言葉だ。「―――話は以上です。これにて解散としま……」
クロウ:……待て。その前にやることがあるだろう? まず、正式にギルドを組んでおきたい。取得するギルドサポートによって戦い方も変わってくるからな。
フジヤマ:あ、ほんとにくわしいっスねクロウさん……(笑)。
クロウ:ギルドマスターは結城さんだ。ギルド名はなんにする?
菫:え、あー……。
幾ばくか思考を巡らせてのち、菫は自らの名に由来する花と、その色を思い浮かべた。
そしてここに、ギルド・ヴァイオレットは結成されたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます