◆Middle02◆邂逅の時

 それは、運命の邂逅だった。

 ひとりは運命の女神に導かれた者。今ひとりは、運命のトラックに導かれた者―――。

 物語の歯車はここにかみ合い、回り始めた。


GM:では、場面変わって……菫とクロウが出会うシーンをやろう! 

菫:はいっ!

GM:(少し考えて)……まず、クロウの視点で始めようかな。

クロウ:そうだ、俺はどうなったんだ(笑)。

GM:クロウは突然受けた衝撃に意識を失っていたんだが……頬に当たる夜風の感触に目を覚ました。気がつけば、草の上に仰向けになって倒れ……ヘッドマウントディスプレイ越しに、最初に視界に飛び込んできたのは夜空で煌々と輝く満月だ。

クロウ:あ……? 上半身だけ起こして周囲を見回す。どこだよ、ここは。奴らの城は砂漠にあったはずだけどな……と、そこではっとします。

フジヤマ:ここで自分の身になにが起こったか気づくと。

クロウ:もう夜!? 今、何時だよっ!? 夕方にAmazonから宅配便が届くんだよっ!?

菫:そっちっ!?

クロウ:とりあえずログアウトのコマンドを呼び出……。

GM:キーボードもマウスもない。タッチディスプレイも触ってるつもりで反応しない。

クロウ:壊れてるじゃねえかっ!? ……って、よく考えれば、夜なのはゲーム内時間か。あせって損した。ヘッドマウントディスプレイを外す。

GM:そこは、見たこともない森の中。空には満月が煌々と……(一同爆笑)。

クロウ:画面が変わってないよ? ていうか、ここはどこだっ!?

GM:キミはこの景色に、見覚えがある。クロウはこのエリンディル西方のマップで知らない場所はないからな。おそらく、ディアスロンドに近い山中だ。

クロウ:あれ? ゲーム? 現実? バーチャルシステム、ここまで進化した?(笑)

GM:空気の流れに気温、木々や土の香りまでするからな。近くに生えている草に目をとめても、それが地球上にはない……正確にはエリンのものだと認識できる。

クロウ:この草はたしか……。

GM:アブ菜。

クロウ:そう、アブ菜。

GM:おひたしにするとおいしい。

クロウ:なんだその無駄な知識。

GM:と、キミが混乱から抜け出せないでいると……さらに状況は動く。そこはちょっとした崖になってるんだが、眼下に広がる森の木々が途切れた場所に人影が見えた。いや、それは正しくはない。じりっと後退している女性の人影と、それに迫る人ならざる者の群れだ。

菫:助けてっ!

クロウ:……ゴブリン、か。

菫:あ、まずそっちが気になるんだ……(笑)。

クロウ:面白い。現実でも、ゲームでもいい。ちょっと試してみるか、と崖から華麗に飛び降りま……。

GM:しかしキミは気づいた。自分が1レベルになってることに。

クロウ:崖から転げ落ちていきます。

GM:ここで視点を菫に移そう。キミは迫り来るゴブリンの群れを前に……。

菫:こ、来ないでっ! あっち行ってと剣をぶんぶん振り回しますっ!

GM:だが、ゴブリンたちはやらしい笑みを浮かべるだけでひるむ様子はない。じり、と次第に距離を詰めてきて―――と、そんな時。

クロウ:あああああああああああああ―――っ!

GM:と、断末魔のような悲鳴をあげつつ、背後の崖からひとりの少年が転がり落ちてきた。そして……“びたんっ!” 菫のすぐ真横で停止した。

菫:え、あの……? ええと、パーカーの下の学生服……あの、それはうちの高校の制服?

GM:では、通っていたのは瑞鳳学園という名前にしておこう。

菫:あの、大丈夫……?

クロウ:痛くねーしっ!? と、立ち上がる。くっそ、このゲームの落下ダメージのバランス、前からおかしいんだよっ! 運営、出てこい!

菫:あなた、瑞鳳学園の生徒だよね?

クロウ:そ、そうだけど……お前も、瑞高の生徒?

菫:うん。気がついたらこんな状況で……って、それよりも、ほんとに大丈夫?

クロウ:そこで、四つん這いになって超スピードで思いっきり後退する。

菫:なにその不思議な動きっ!?

クロウ:(目をそらしておどおどと)べ、別に痛くねーし? ほんとはノーダメージだし?

俺のメイン装備があれば、ほんとは物理ダメージなんて痛くないし? 空だって飛べるからホントは落ちないし? 女と話すのが苦手ってわけでもないし?

菫:人と話す時は、まず相手の目を見る! あなたの名前は?

クロウ:名前……(急にトーンが下がって)結城さん、だよな。俺の名前、忘れた? PC間コネ、俺に対して持ってるよね? だから知ってるよね……?

菫:名前、教えて。

クロウ:まあ、俺はろくに学校に顔出してないしな! うん、傷ついてないさ!(笑) お、俺の名前は……そう、クロウだ。“ブラックフェザー”でもいい。

菫:ブ、ブラ……。

クロウ:……。

菫:日本人、だよね?

クロウ:お、俺は、エリンディルに生きてるんだ。

GM:えーと……(笑)。そんなやりとりしてると、ゴブリンたちが迫ってきますが。

菫:そうだった! クロウくん、この状況をなんとかしてっ!

クロウ:あ? そこで我に返る。ふん、ざっとゴブリンが三グループ、三〇匹ってとこか。

GM:ゴブリンを見据えるクロウの表情が変わった。さっきまでのおどおどした態度はすでに消え、その眼光は鋭く……不敵に、笑んでいる。

クロウ:なんとかしろ? お前が手にしている剣はなんのためにある。

菫:これ、みーちゃんからもらったおもちゃだよっ!?

クロウ:戦える。が、「アリアンロッド」は初めてか? わかった、俺の言うとおりに動け。お前をゲームに勝たせてやる。

菫:ゲーム?

クロウ:見たところ、ウォーリア/シーフってとこか。《バッシュ》と《ワイドアタック》を切り替えて戦う型だな?

菫:きっとなにを言ってるかわからないよっ!?(笑)

GM:いや、そう言いかけて気づく。キミはその胸の奥に、今までになかった“力”を感じている。そう……。


「―――あなたに“力”を与えましょう」


GM:……あの女神の言葉が、実感できる。

菫:あ、あれか!

クロウ:よし、ともかく戦端を開いたらあのゴブリンの群れに突っ込め。

菫:いきなりそんなことを言われても困るっ!(笑)

クロウ:そうしてくれないと、俺の方がもっと困る!(笑) 俺はメイジだからな。今の俺じゃ、戦士の盾役が必要なんだよっ!? 戦ならそれができるんだ!

菫:…………し、信じるよ?

クロウ:信じろ。みーちゃんとやらも、お前ならばできると信じ、その装備を託したのだ!

菫:それは……そうかもしれない! そう言ってた気がする!(笑)

クロウ:人は、人生という名の芝居を打つ、ひとりの役者! お前は、お前の芝居をしろ!

菫:わかった! やってみる! ああっ、わたし単純だっ!?(笑)

フジヤマ:では、ここに登場してもよいデスか? ……OH、実に仲間を鼓舞するのがうまいアーシアンだ! 目的の人物とはちがうようだけど、加勢シマァス! ふふふ、ボーイ&ガール? ゴブリンを侮ってはいけないデスよ?

ルイン:そうだ。奴らは、数がいる時は―――。

クロウ:《ゴブリン集団》でパワーアップする。

フジヤマ:え、あ……はい。

菫:(←ぶっ、と笑いそうになった)

クロウ:だが加勢はありがたい。ここじゃ、ギルドも組めそうもないが……見たところ、エルダナーンのアコライトと、ヴァーナのシーフだな。

ルイン:あ、はい。

フジヤマ:ず、ずいぶんとくわしい地球人……。

クロウ:このゲームで、俺の知らないことはない。

ルイン:なんだか負けた気分に……!(笑)

フジヤマ:ところで、そろそろゴブリンが襲いかかってきまセンか。

GM:ゴブリンは空気読んでちゃんと待ってた(笑)。では、バトルスタートだ!

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