第20話 キルナの独白

 ──この人は何を言っているのだろう。


 ──あの男と戦うつもりだろうか。でもきっと無理だ。


 ──あの男は、本当に真面目だ。


 ──人として狂ったところもあるけれど、それだけは言える。


 ──そうじゃなかったら、ああ何度も血を吐くほど魔法を勉強したりしない。


 ──初めてここに来た時には全くといっていいほど扱えなかった魔法も、今ではあんなに多彩に、自由に使える。


 ──あれ……。そういえば私はどうやってここに来たのだっけ? 思い出せない。


 ──誰かと一緒にいた?


 ──はじめから一人だった?


 ──そんなことを考えてたら屋敷の中が火でいっぱいになってしまった。


 ──体に力が入らないし、自力じゃ逃げられないかな。


 ──そういえばこの人、さっきは私を抱えてどうするつもりだったんだろう? 誘拐?


 ──ああ、私は『道具』だから、泥棒が正しいよね。


 ──でも、この人とあの男、なにか違う。


 ──あの男に持ってない何かをこの人は持ってる。


 ──これはきっと親近感ってやつだとなのかな。今まで感じたことのない感情だ。


 ──でもこの人、どこかで会ったっけ?


 ──懐かしいような、うれしいような……。


 ──あの夜、この人と目が合ったのを覚えてる。


 ──なんだろう、この感覚は。


 ──包まれるようで暖かい。


 ──もし選べるなら、私はそちら側に行ってみたい。


 ──この人に付いて行ってみたい。


 ──私にそれが出来るのならば。

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