第12話 戦闘

~眷属side~


「大丈夫ですかルナ?」


「大丈夫れすわ」



どうやらまだお酒の分解が出来てはいないようだ。



「スライムが酔うとか知りませんでしたよ」


「わらくしも、こんなに体に浸透するとは思ってらかったれすよ。分解するまれ少し横になっれますわ」


「わかりました。では着いて来ている輩は私が排除いたしますわね」


「ええ」


「まだちゃんと着いて来ておるようじゃな」


「馬車に足で着いてくるとは中々やりますね」



呂律の回らないルナを横にして、改めて後ろを確認する。

街を出てからずっと着いて来ている黒ずくめの人達。

何故着いて来ているのかはわからないが、十中八九良い事ではないだろう。

島にはヴリトラに連れてもらって帰るので、早々に始末しなければならないわけだが、どうやって始末しようかと思案する。



「ヴリトラ、街からある程度離れた場所で馬車を止めてくれますか?」


「了解じゃ。そこで迎え撃つわけじゃな」


「はい。馬車の荷物を傷つける訳には行きませんので、立ち回りには十分注意しないといけないのが少々めんどくさいですが」


「わらわがドラゴンになれば逃げるのではないか?」



ヴリトラは災厄と呼ばれる龍である。なので姿を見せると確実に逃げるだろう。

しかし……



「それも考えましたが、ヴリトラが人になれると言うことが知れ渡るのは色んな意味で不味いと思いますので、人のままでお願いします」


「それなら仕方ないの」


「私に考えがあります、ですのでその指示に従ってくださると有り難いのですが」


「うむ。任せるとよい」



ある程度街から離れて馬車を止めた。

黒ずくめも警戒してるのか草むらに隠れている。


そして馬車から降りてくるエレアとヴリトラ。黒ずくめの人の位置は完璧に把握しているので問題ない。二人は馬車を守る位置に立ち、ルナは荷物を守れるように荷台から顔を少し出している。



「ずっと私たちの後をつけていたのはわかってます。さっさと出てきなさい」



エレアは草むらに向かって声をかけた。

しばらくすると、観念したのか草むらから出てくる黒ずくめ。

出てきた人数は2人。隠れたまま出てきてない奴が2人の計4人だ。



「どうしてついて来ているとわかった?」


「それに答える意味はありません。それよりも、そこの草むらに隠れている2人も出てきたら如何ですか?」



草むらから更に出てくる2人。



「ちっ。勘の良い奴」


「最初っからわかっていてここに誘き寄せたって訳か」


「単刀直入に聞きます。貴方達の目的はなんですか?」


「簡単に答えると思うか?」


「思いません、けど私たちを狙う意味がわからないので聞いておこうかと思いまして」


「本当に覚えがないのか?」


「御座いません」


「そうか。なら理由を知る事無く死ね」


「たかだか4人にやられるほど弱くは無いですよ?」


「はっ!ただのメイドが4人相手に勝てると思ってんのか?」



数でいうなら3対4だが、ルナは荷物番なので2対4だ。普通は不利だと思うのだが、3人のメイドは人外だ。



「そうですね、普通の人なら勝てないでしょうが私達には関係ないですので」


「わらわ達はのぅ、虫けらと同レベルのおんしらがいくら群れても勝てる相手ではないと言う事じゃ。わかったらさっさと去ってくれんか?」


「はぁ?メイド風情が何ほざいてんだよ。俺らが何者か知って言ってんのか?あぁ?」


「おいやめろ。無駄口たたくならてめぇから殺すぞ」


「ちっ。ならさっさとやろうぜ」


「ああ」



そういって各々武器を構える4人。どうやら短剣を使うのが2人と杖を使う魔術師が2人のバランスの良い構成の様だ。

短剣持ちと言う事は暗殺者かと疑うが、今は敵を排除すると決めたエレアとヴリトラも身構える。が武器は特にない。

ちなみにヴリトラへの指示は至ってシンプルで、敵を一人残らず無力化する事である。一人だけでも残って居れば殺しても構わないと言う事も忘れない。



先に仕掛けてきたのは敵だった。一人に対して二人ずつで挑むと言う構えのようだ。

そして戦闘が始まった。


エレアに向かっていった二人は一人が短剣で攻撃して、もう一人は魔法を使って支援するようだ。素早く接近してきた敵が短剣を突き刺してくるがそれを危なげなく躱す。短剣ごと体に取り込んでしまえば早いのだが、後ろに控えている魔術師の魔法を食らうのは避けたい。


なのでエレアは短剣使いを後回しにして先に魔法使いを処理することに決めた。

魔術師はその行動を読んでいたのか、先に魔法を発動していた。土魔法ストーンニードルを使い、地面から棘を出現させていく。

魔法を使う敵との戦闘は初めてのエレアは一瞬戸惑うが、斜め前に飛んで棘を躱し更に距離を詰める。スライムなので棘に刺されても体は何ともないのだが、穴だらけになるのはやはり嫌なので避けてしまう。

わざわざ串刺しになりたいやつなど居ないから当たり前と言えば当たり前だ。


魔術師との距離を縮めるが、そうはさせじと短剣を突き刺そうとしてきた奴が追撃を仕掛けてきた。棘を避ける為空中に居たエレアは避ける事が出来ず、短剣がエレアの体を捉える。

しかしスライムであるエレアは、人では有り得ないほど体を捩じってそれを躱し、

反撃として蹴りを繰り出す。が足で軽くいなされた。思った以上の手練れの様だ。

まだまだ余裕があるエレアは怯む事無く魔術師の方に再度距離を詰める。

エレアのスピードは素早く、あまり距離も離れていなかったので直ぐに距離を詰める事が出来た。



「ちっ」



距離を詰められた魔術師はストーンニードルを壁のように出現させるが、エレアはそれを足場に使い、空に舞い上がる。スライムなので刺さらないのを利用したのだ。

魔術師は一旦距離を取るようにバックステップで下がるが、空から降って来るエレアには反応できていない。

そして空高くから舞い降りて、魔術師の脳天に踵落としを食らわせた。

重力任せのエレアの一撃は、魔術師の頭蓋を砕き脳漿をぶちまけ地面に真っ赤な花を咲かせる。



「あ」


「くそっ!」



まさかの一撃で絶命した仲間を労わる事無くそのまま攻撃を仕掛けてくる。

しかし敵の短剣には動揺が表れていて剣先が気付かない程度に震えている。

魔術師を倒したエレアは、今度は殺してしまわないようにと威力調整をしつつ短剣を相手の腕ごと体に取り込む。

魔法を警戒する必要がなくなったので気兼ねなく取り込めるというものだ。



「な!なんだよこれ!」


「申し訳ありません。私には生半可な武器ではダメージすら通りませんので」


「クソ!離せよ!」


「離すわけありません。取りあえず五月蠅いので全て取り込ませて頂きますね」


「ぐわああ!やめ、やめろ!」



一気に体に取り込んだ。敵はエレアの体の中から出ようとゴボゴボともがいているが、暫くすると大人しくなった。

情報を吐き出させるために溶かしたりはしないのがせめてもの救いと言うべきか。



「取り敢えず一人は確保ですね」



戦闘が終わりヴリトラの方を見ると……そこには凄惨な光景が広がっていた。


ヴリトラと相対した二人は、四肢を捥がれて達磨状態になって地面に転がされていた。しかし周りを見渡しても四肢は見当たらない。ヴリトラが使った黒魔法で、二人は気を失うことも許されず、自分で死ぬことも出来ぬままに苦悶の表情と悲鳴を上げていた。その状況を見たエレアは、己の中で気絶した一人をペイッと吐き出すとヴリトラの元へ向かった。



「ヴリトラ、この状況はなんです?」


「うむ。敵を一人残らず無力化と言う事だったので黒魔法で自分で死なないようにして、四肢を捥いだのだが不味かったかのう」



四肢は美味しかったがとボソッと呟いたのをエレアは聞き逃さなかった。



「ヴリトラ?マスターは人を喰べるなと仰ってましたよね?それなのに……」


「待つのだエレアよ!確かに人を喰うなとは言っておったが、あれは殺すなと言う意味じゃろ?なら腕の一本や十本位…」


「…………」



無言の圧力をかける。その圧力を受けて怯むヴリトラ。かのBODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンもエレアには敵わないようだ。



「マスターには内緒にしてくれんかのう」


「駄目です」


「頼むのじゃエレア!」


「駄目です」


「そこをなん「駄目です」」


「何故じゃ!殺しておらんのじゃぞ?」


「これなら殺してあげた方がましです」


「くぅ」



マスターに怒られると落ち込むヴリトラを放って置き、

エレアは自分では死ぬことが出来なくなった二人の追跡者に対し、一かけらの慈悲をかける事もなく一瞬で全てを溶かしつくした。



「仕方ないですが、私が捕らえた一人だけで十分としましょう」


「すまんのぅ」


「ヴリトラに期待した私の間違いだったようです」


「それはちと酷くないか!?」


「なら期待して良かったと思わせてください」


「正論過ぎて言い返せぬのが悔しい」


「この場を片付けてさっさとマスターの所に帰りますよ。残った一人は私が馬車の中で問い詰めておきますので」


「わかったのじゃ」



ヴリトラはそう言うとドラゴン形態になり、馬車の元へと向かう。

馬車に繋がれている馬は、初めて見るドラゴンに怯えているが、ヴリトラが人になって説得をすると大人しくなった。

エレアは気絶した一人を馬車に運び込む。そして馬は一緒に馬車に乗りこませ、ヴリトラに運んで貰う準備が整う。寝具等はエレアの中に仕舞っているので馬が乗り込めている訳だ。


馬車を掴んで運ぶヴリトラ。2人が争った場所はヴリトラの火炎の息吹で汚いところ全てを灰にしておくのを忘れない。しばらく飛行して、海上へと出た所で寝かせていた追跡者を起こして尋問を始める。



「起きなさい」



スライム形態のルナに取り込まれて頭だけ出した状態の追跡者に声をかけるが起きる気配がない。



「ルナ」



そう声を掛けられたルナは、追跡者へと超音波を直接脳に叩き付ける。



「がっ!?」



超音波を食らった追跡者は目を覚ます。



「やっと起きましたか、今の状況はわかりますね?」


「はぁ?わかるわけねぇだろ!なんでスライムが居るんだよ!しかも金色のスライムなんて見たことねぇしなんなんだよてめぇらは!」


「ルナ」


「ぐああああ!」



ルナがまた超音波を響かせる。



「次五月蠅くしたらちょっとずつ溶かしていきますからそのつもりで」


「はぁ、はぁ、はぁ」


「わかりましたね?では質問です。何故私たちを襲ったのですか?」


「素直に答えるわけねぇだろ」


「まあそうですよね。ならこちらにも考えがあります」


「あん?」


「ルナ、頼みます」



ルナはまず足の先を徐々に溶かしていった。



「あああああああああああ!」


「悲鳴が五月蠅いですね、ルナ」



ルナはすぐさま口を覆う。声と言うのは空気の振動なので、口を塞いで空気を振動させないようにすれば周りに悲鳴など漏れない。

息は出来なくなるが。



「足がなくなるのは嫌でしょう?死にたくないなら喋ってくれませんか?」



コクコクと頷く追跡者。その合図を受けて、口周りの拘束を緩めてもらう。


「はぁ、はぁ、はぁ。わかった喋る、喋るから……」


「ならさっさと喋りなさい」



そして息を荒くしながら男は喋りだした。

話の要点をまとめるとこうだ。


エレア達が宝飾店で大金を得ているのを目撃した仲間の一人が、そのお金を狙って襲いに来たと言う事だった。



「それで私たちを狙ったと」


「メイド位なら軽く捻れると思ったのが間違いだった」


「生憎と私たちはただのメイドではありませんので」


「もう良いだろ、情報は喋った。これ以上は何もない」


「あともう一つだけ、貴方達は何者ですか?」


「何者も何もただの盗人だが?」


「それは嘘ですね。ただの盗人があんな技術を持っている訳ありません」


「ちっ、よく見てやがるな」


「わかったらさっさと答えなさい」


「わぁったよ、教えりゃいいんだろ教えりゃ。俺たちは暗殺者ギルドに所属していた精鋭だ。しかしそのギルドは壊滅して無くなってな。食うものに困った俺達はそのスキルを活かしてこうやって盗人まがいの事をやってただけだ」


「なんでギルドが壊滅したのですか?」


「それは…ギルドの本部があった街が消滅したからだよ」


「消滅?」


「知らないのか?最近BODブラッド・オブ・ダークネス・ドラゴンが表れて街を破壊しまくっているって」


「あー、納得いたしました」



結局主だった原因は上で飛んでいるヴリトラの様だ。余計な仕事を増やしてくれたものだと頭を抱えたくなるが、エレアには全く関係ないので知らんふりをする。



「もう全部喋ったぞ、さっさと解放してくれ!」


「情報は有難う御座います…ルナ」



そう言うと、ルナは追跡者の全身を包み込んだ。ガボボと声にならない声を出しているがエレアは無表情だ。



「私達が貴方を返すわけないじゃないですか。勿論死んでもらいます。マスターに迷惑掛けたくないですので。それでは御機嫌よう」



エレアが淑女の様に一礼すると、ルナが追跡者を溶かし数十秒の内に骨も残らず溶かし尽くした。追跡者を取り込み終わると、人に戻った。



「これで一件落着ですわね」


「ええ、後はマスターに報告ですね」


「私も情報収集頑張りましたので、しっかり報告しますわ!」


「酔ってましたけどちゃんと覚えてますか?」


「勿論ですわ!」


「なら良いですけど」



追跡者を全て葬った三人はマスターの居る島へと帰るのだった。

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