第13話 家族
館のテラスで自作のロッキングチェアに揺られ、のんびり寛いでいると、
黄昏に染まる夕日を背にし、ヴリトラが馬車を抱えて戻ってきた。
館の前にはちゃんとスペースを取っているので、ヴリトラの巨体が後二体居ても問題ないくらいには場所を開けている。
悠々と空を飛び、馬車を壊れないようにゆっくりと下ろし、
その巨体のまま地面に降り立った。
俺はテラスからすぐさま移動して皆を出迎える。
「お帰り」
「ただいま戻りましたマスター」
「遅くなってしまい申し訳ありません」
「気にするな。街までの買い出し御苦労だった。ヴリトラもな」
ドラゴン形態から人に戻り、いつの間にか服を着て戻ってきたヴリトラにも声をかける。
「マスターこそお疲れ様じゃ。こんなに立派な家を作るとは正直驚いたぞ」
「だろ?結構頑張った!」
「凄いですマスター!」
「流石はマスターですわ!」
褒められるのは正直嬉しい。今まで誰にも褒められたりしていなかったからな。
ま、そんな事よりも
「改めて、皆お帰り。荷物は俺が運んどくから、皆は温泉でも浸かってゆっくりすると良い。温泉から上がったら魔力をたっぷりやるからな」
「温泉まで作ったのですか!楽しみにしてます!」
「ではお言葉に甘えるとするかの!」
「その前に家の中が見たいですわ!」
「そうだな、じゃあ案内するから着いて来てくれ」
「ではついでに、何処に何を置くか決めないとですね」
「頑張って作った家だからな、家具の配置なんかも拘りたいし、取りあえず案内するぞ」
俺は三人を新しい家へと案内する。馬車を引いてくれていた馬は安全な庭に離しておく。
では、俺が作った家の紹介をしよう。
まず最初に見えるのが骨で出来た門だ。門の素材にはドラゴンの骨が使われている。一見すると白い石に見えるほど見事な骨だ。研磨も完璧なので触り心地抜群のツルツル感である。
館をグルっと取り囲んでいる塀は、土を固めて焼いたレンガもどきを作って積んである。ちなみにだがヴリトラが降りてきた広場は門の外に当たる。
そして骨の門を抜けると、ドラゴン形態のヴリトラ約一体半が入れるスペースの庭がある。真ん中には噴水があって、その中心から十字に道が通っており、道のわきには水路が続いている。噴水だけだと寂しいので、花壇も作った。噴水を囲むように四つに分かれて配置してあるが、まだ何も植えていないので土のままだ。野菜を育てるのも良いかもな。食事の必要ないんだけど。
庭の説明はそんなもので、館に向かおう。
門から少し歩き、噴水を迂回して進むと館に着く。
館は庭の景観と合うように、門と同じ色、つまり白色を基調とした建物にしている。大扉とは言わないまでも、程々に広い扉を開けて中に入る。
館の玄関ホールはあまり広く作っていないから直ぐ目の前の階段で二階に上れるようにしている。
ちなみに玄関の丁度真上にテラスがあるので、そこで俺は皆の帰りを椅子に揺られながら待っていたわけだな。
部屋数はキッチンを除いて5部屋。寝室は二階のテラス脇にある。
キッチンも一応作っては見たけど使うかは悩ましいところだ。
そして自慢の温泉だが、一階の左奥から館の裏へと続く道があり、そこを通ると脱衣所と温泉がある。
温泉は、露店と屋内の二種類を用意した。場所的には丁度館の裏に温泉がある感じかな。離れとかではなく、館の真後ろに直結してる感じだ。
覗く奴は存在しないだろうが、ちゃんと塀があるので問題ない。
それに加えて塀の外に堀も作っておいたので、侵入者対策はばっちりである……飛んで来る奴が来ない限りは。
「とまあ、館はそんな感じだ。主に使うのは寝室と温泉かな」
「よくもまぁここまでの物を作ったもんじゃのぅ」
「凄いという言葉しか出てこないです」
「流石私達のマスターですわね!」
「ここまで作れば相当のんびり生活できるだろ?」
「十分過ぎるのじゃ」
「お疲れ様ですマスター」
「おう!じゃ、家具の運び込みは俺がやっとくから温泉入って汗を流して来い。スライムとドラゴンが汗をかくのかは知らんが。疲れを取るには丁度良いだろ?」
「そうですね、疲れは取れると思います。ですが…」
「皆で一緒に入るのじゃ(ですわ)」
「と、二人も言ってますので、家具をさっと運んで一緒に入りましょうマスター」
「俺はここを建てた時に入ったんだが……」
「何を言っておるのじゃ!家具を運んだらまた汗をかくじゃろ?」
「そうですわ、運ぶのにそう時間はかかりませんし、さっと終わらせて一緒に入りましょう!」
「そう言う事です」
「わかったわかった。じゃあさっさとやってしまうぞ」
まぁそれでも別に良いかと思った俺は、エレア達と家具の運び込みをした。
寝室に寝具を配置したり、天井に照明を配置したり、タオルや服などを仕舞ったりと、家族で引っ越し作業をするみたいで中々に楽しい一時だった。
家具は馬車に載せていたでかいものから、エレアが収納してた細かい物だったりと色々あったが、主だったものは一時間かからずに終わった。
そして、いい感じに運び込みが終わって汗をかいた俺達は温泉に向かう。
温泉のお湯は地下から湧き出る物ではなく、俺が水魔法で出したものなのでとってもエコである。排水に関しては、クリエイト魔法で排水システムを作っているので起動させるだけで良い。
「今更ながら、皆一緒にって言うのはどうかと思うぞ?」
背中を流し流されたりして体を綺麗にした後、露店風呂に4人で浸かりながら小さく呟く。
「別に気にしません」
「そうじゃな、性別なんぞわらわ達には関係ない事」
「そうですわ」
「そうか?まあ普通に考えたら傍から見てこの状況って男にとっては羨ましいシチュなんだがな……」
俺を真ん中に右にエレア左にルナ、背中を合わせでヴリトラと言う状況は、男にとって夢みたいな状況なんだろうな。俺含めて皆裸なわけだし。
「まぁでもそうだな、性別としては男でも元神様だったからな……」
「別に気にしなくていいんじゃないかの?」
「そう言う事をするだけが男女ってわけでもないですし、私としてはマスターがしたいなら構いませんが」
「俺はそう言う事をする為にお前らと居るわけじゃないぞ?成り行きでこうなったとは言え、もう皆家族みたいなもんだ。…まだ出会ってそんなに時間たってないけど」
あははと苦笑しながら俺はそう答えた。
「考えてみればそうじゃな。わらわは言うなれば結構な付き合いになるとしても、まだ出会って一週間も経ってないしの」
「そう言えばそうですね。でも時間なんて関係ないです。私たちはマスターの眷属として魂での繋がりが出来たのですから」
「ですわね、私たちはマスターの眷属ですから、傍に置いて下さればそれだけで幸せなのですわ」
「そっか。ありがとな」
「こちらこそ有難う御座います」
温泉に入って、少しだけ素直になれた気がする。
「……家族ってこう言うものなのかもな」
「ええ」
この世界に堕とされて、幾度も殺されながら逃げ込んだ場所でスライムと出会い、ドラゴンと出会い、家を作って一緒に住むなんて想像もしていなかった。
天文学的な確率の本来存在しえないであろう出来事。偶然か必然か、色んな出来事が重なり有って今がある。
ただ、今はこの時間を大事にしようと心から思う。
「家族か…わらわ達は皆一様に一人だったからのぅ」
「ヴリトラは畏れの象徴ですものね」
「その点に関しては俺にも非があるわけだし、少しだけ済まないと思わんでもない」
「それは別に構わんよ、自業自得ってやつじゃ」
「…そうか」
俺はヴリトラを悪役にしてしまったわけだからな、それに責任を少しは感じていたが、ヴリトラ自信気にしてないようなので少し安心する。
しばらく沈黙が続いた後、エレアが不安を口にした。
「私たちが家族で本当に良いんでしょうか?」
「んー。別に良いんじゃないか?元神様に、スライムにドラゴン、てんでバラバラだけどな」
「本当にバラバラですわね」
ここまで完全にバラバラなのはいっそ清々しい。人が一人もいない家族。
種族も全く違うから、エレアが不安になるのも分からなくもない。
「でも私たちは眷属ですよ?マスターの下に付いているのに家族だなんて良いんでしょうか?」
確かにエレアの言う通りだ。俺の眷属、つまりは俺の配下な訳だし、
畏れ多いのかも知れないが、そんな事はもう関係ないと思う。
なので、その不安を取り除いてやろう。
「エレアは俺達と家族として過ごすのは嫌か?」
「そんなことはないですけど…」
「けど?」
「やっぱり主従関係と言うものがですね…」
「お固いですわね」
「だな」
「結構真剣に言っているのですが…」
「まぁなんだ……あーあれだ、慣れないかもしれないが時間は沢山あるんだし、主従関係に捉われずにのんびりやっていけばいいさ」
「そうじゃな、一緒に暮らしていく内に慣れるじゃろう」
「ぜ、善処します」
「……まぁなんと言うかだな、不安な事も多々あるだろうが、なるべく期待に応えられるよう頑張るし、嫌な事でも何でもあれば直ぐに遠慮なく言ってくれ。
まぁ改めてこれからもよろしく頼む」
「「「イエスマスター」」」
温泉で裸の付き合いをして皆と親密に慣れた気がした。ただの眷属ではなく…家族。
『家族』か……その響きがとても心地よく感じた。
ゆっくり温泉に浸かって親睦を深めた後、俺達は寝室へ向かった。
「改めて良く見てみるとでかいベッドだな」
テラス横の寝室には真ん中にドーンとでかい天蓋付きのベッドが置いてある。
大人が6人並んでも大丈夫な位のが。
「お店で一番デカいのを買いましたので」
「少々大きすぎた感は否めないが、まぁ狭いよりは良いか。部屋を広く作っといて良かったと改めて思ったぞ。しかしよくこんなデカいのが馬車に乗ったな」
「馬車の荷台に分解して括り付けましたので、あともう二つこれよりも小さいベッドの方は横にして入れました」
「本当に御苦労さまだな」
「どういたしまして」
「さて、じゃあ報告会と言う名の『家族会議』を始めようか!」
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