第10話 お買い物

~眷属side~


ヴリトラの背中に乗り、マスターがいる島を出発して今は海上を飛んでいる。



「そう言えばヴリトラは人の街が何処に有るとかわかるのですか?」


「勿論じゃ。伊達に人の国を滅ぼしに行ったりはしておらぬよ。安心して任せるがよい!」


「そうですか」


今の会話は、ヴリトラがドラゴン形態になっているので意思疎通である。三人になったので眷属ネットワーク。KN眷属ネットワークとでも言うべきか。


「一つ気になったのですが、ヴリトラは国を滅ぼした邪龍…なわけですわよね?堂々と飛んでて大丈夫ですの?」


「それについても安心するがよい。わらわに戦いを挑む無謀な輩などおらん!」


「確かにそうですわね」



海上を渡り大陸が近づいてくる。と、ヴリトラは高度を下げつつ海上すれすれを飛行する。



「今から行くのは港町じゃ。なのでちょっと遠回りして離れたところに降りるぞ」



港から見えないように回り込む。そして港から伸びる街道の傍の森に降り立った。

ヒト化すると裸なので、素早く服を着るヴリトラ。



「では行くとするかのう」


「あ、ちょっと待ってください」


「なんじゃ?」


「このまま街に向かうと怪しまれるんじゃないですかね。街道から馬車も乗らずに来るなんて可笑しいでしょうし」


「その考えは無かったのじゃ!」


「どうしましょう」


「街にこっそり入るとか?」


「それはちょっと不味いかと」


「別にこのままで良いのではないか?馬車は盗賊に襲われたとか何とか言って逃げきって、ここまでたどり着いたとかでも通用しそうな気がするぞ?」


「そうですね、考えても無駄な気がしてきましたしそれで行きますか」



考えることが面倒になった三人は港町に向けて歩き始める。

それから十五分位後に港町にたどり着いた。



「止まれ。メイドが徒歩でこの街に来るとは…何の用だ?」


「はい。ご主人様の命令で馬車でこの街に向かっていたのですが、

道中盗賊に襲われ、止む無く馬車を捨てて街道を歩いてここまで来ました。

鞄だけは無事だったのでなんとか頼まれごとを果たせそうです。

通してはもらえないでしょうか?」


「許可証か身分証明出来る物は持っているか?」


「私達三人とも馬車に荷物を置いたまま来ましたので持っておりません」


「そうか。なら通すことは出来ん」


「何故駄目なのじゃ?」


「身元が分からない者は街には入れられん」


「どうしても無理ですの?」


「どうしてもだ」


「…そうですの」


「わかりました。ではこれを差し上げますので通しては頂けませんか?

どうしてもご主人様の命令をこなさないと私達クビになってしまいますので。

どうかお願いします」



鞄からアクセサリーを一つ取り出して渡す。

それは金の装飾の腕輪で赤い宝石が所々に散りばめられていて如何にも高級品と言うのがわかる。門番はスッとその腕輪を服の中に忍ばせると。



「……さっさと通れ」


「有難う御座います」



そそくさと門をくぐった三人はやっとのことで港町に入るのだった。



「やっと入れましたわね。一時はどうなることかと」


「なんだかドッと疲れたのじゃ」


「アクセサリーを一つ使ってしまいました」


「あの状況では仕方ないと思うのじゃ。それよりも街に入れたのじゃから早くやる事を済ませた方が良かろう」


「そうですね。まずはアクセサリーを売りに行って資金を集めませんと」



場所などは全く分からないので、人に道を聞いたりしながら宝飾店を見つけた。

そのお店は小奇麗な感じで、宝飾品がショーケースの中に綺麗に並べられて輝きを放っている。しかし宝飾品はやはりお高いのかお客様は居ないようだ。



「すみません」



ドアを開け店の中に入る。控えめなエレアの声が店内に木霊する。



「いらっしゃい。今日は何の御用だね?」



出迎えてくれた店主は、わし鼻で腰の曲がった高齢のお爺さんだった。



「アクセサリーを買い取って貰いたいのですが可能ですか?」


「買い取りか、別に構わんよ。一体どんな品を持ってきたんだい?」


「これを全てお願いします」



エレアは鞄から取り出すかのように自分の中に収納してあるアクセサリーを全て取り出した。



「ちょっと待っててくれ、眼鏡を掛けないと鑑定出来ないのでね」


「構いませんよ」



出したアクセサリーの量が多かったのか、眼鏡を取りに一旦奥に戻るお爺さん。

暫くして戻ってくると、テーブルに置かれたアクセサリー類をじっくりと一つ一つ鑑定していく。そして一通り終わって口を開く。


「お嬢さん方、この品々は一体どこで手に入れたんだい?」


「これらはご主人様が集めておられた物で、私たちは売ってくるようにとしか申し付けられておりません」


「うぅむ、そうか。…それは残念じゃ」



凄く残念そうに言うお爺さん。



「残念?」


「あぁ、この品々じゃがな、とても古くに作られた物の様でのう。とても価値が高いものばかりなんじゃ。状態も昔の物とは思えんほど凄く良い。全て纏めて買い取っても良いんじゃが…本当に売ってしまって良いのか?」


「はい。構いません。それがご主人様の命令ですから」


「わかった。では全てこちらで買い取ろう。そうじゃな、全部合わせて……5000万セタって所かの」


「5000万ですか?」


「なんじゃ足りないか?」


「いえ、十分です。額が額だけに驚いてしまっただけですので、有難う御座います」


「そうか。ならそれで良いな?」


「はい」


「お金を取って来るからしばし待って居れ」



ちなみにだがこの世界の通貨は【セタ】人が働いて月に貰える平均の給金が20万セタなので、5000万とは相当な価値があったという事だ。

この世界では紙幣も出回っており、千、五千、1万、10万セタの紙幣が存在する。

硬貨の種類だが、1セタ銅貨、5セタ銅貨、10セタ銅貨、50セタ銅貨、100セタ銀貨、500セタ銀貨があり端数は無い。

なので5000万セタは10万セタ紙幣が500枚と言う結構とんでもない額だ。



「待たせたな。これが5000万セタじゃ」


「有難う御座います。ではまた手に入りましたらこちらにお持ちいたしますね」


「待っておるぞ」


「はい。失礼します」



5000万セタと言う大金を鞄にしまう振りをして体に取り込み、店を後にした。



「………あの嬢ちゃん達はいったい何者だったんじゃ。あんなに沢山の装飾品を持ち込んで来るとはの。とんでもない価値の物ばっかりだから構わんのじゃが…金庫に有った現金が殆どなくなってしもうたわ」



店の中でそんな愚痴をこぼしているとは知らずに次の店へと向かう三人であった。



「高く売れて良かったですわね」


「そうじゃな!」


「はい。これでマスターに喜んで貰えそうです」


「では、お金が手に入りましたので私は情報収集に行ってきますわ!」


「そうですね、買い物は私に任せてください。資金はこれで足りますか?」



そう言って小銭含めて5万セタ程渡される。それを自分の鞄に仕舞い込む。


「十分ですわ」


「わらわはエレアに着いて行くぞ」


「お願いしますね」


「では行ってきますわ。また買い物が終わったら連絡くださいな」


「はい。行ってらっしゃいルナ」



アクセサリーを売って得たお金で、ルナは情報収集に、エレアとヴリトラは馬車を買って武器と防具を売ろうと馬車を扱っている商店向かった。



「すみません」



木製のドアを潜り抜け店主の元へと向かう。



「いらっしゃいませ。馬車から生活雑貨まで幅広く取り扱っているバルト商店へようこそ!品揃えはこのアルタスで一番!ご用件は何でしょうか?」



早口で捲し立てる店主、どうやら街の名前はアルタス、店の名前はバルト商店と言うらしい。



「はい。馬車を買いたいのですが幾らになりますか?」


「馬車をお探しですね、かしこまりました。ではこちらへどうぞ」



流石に慣れているのか、丁寧に接客しつつ奥の倉庫へと促す。



「こちらの馬車が当店の一押しです!」



紹介された馬車は、詰めれば10人は人が入れそうな馬車だった。



「こちらの馬車はですね、最新ではないのですがどんな凸凹とした道でも対応できるよう衝撃を吸収できる構造をしておりまして乗り心地抜群で低価格という一石二鳥な馬車なのです!そして今なら馬も二頭付けて、お値段なんと!200万セタです!如何ですか?」


「ではそれをいただきます」



悩む間もなく即答するエレア。それに驚いた店主は、



「即断即決とは恐れ入りました。購入した後は返却できませんが本当によろしいのですね?」


「ええ、構いません」


「ではお店の前に準備させて戴きますので少々お待ちください。御者は如何致しますか?」


「御者は問題ないのじゃ。わらわが務めるのでな!」


「そうでございましたか。では直ぐにご用意いたしますね。先にお金を頂いてもよろしいでしょうか?」


「わかりました」



鞄から200万セタ(20枚の10万セタ紙幣)を渡した。確かにとお金を受け取った店主は準備の為に人を呼び、お店の前で待つようにと三人を促しつつ、他にご入用の物はございませんかと勧めるのも忘れない店主の鑑だ。

その迫力に負け、照明魔道具など便利そうな雑貨を少々買ったのはご愛嬌と言うものだろう。占めて2万になるかどうかなので結構な買い物と言えるだろう。

それから暫くして、



「お待たせいたしました。こちらの馬車でございます。大切にお乗りくださいませ」


「有難う御座います」


「ではでは、また何かあればバルト商店までお願いいたします!」



最後にお店の宣伝を忘れない店主。流石である。馬車に乗り込むエレア、荷台にこっそり武器と防具を出しておく。

ヴリトラは御者台に乗る前に馬たちとコミュニケーションと言う名の調教を行っている。馬がドラゴンに勝てるわけもなく、ヴリトラには悪いようにはしないからと説き伏せられている様だ。頑張れ馬たち。



「ヴリトラ、次は武器屋に行きますが大丈夫ですか?」


「大丈夫なのじゃ。馬たちもわかってくれたようじゃしの」



ヒヒーンと鳴く馬たち、心なしか恐怖が滲み出ているが気にしない方が良いのだろう。



「武器屋の場所は馬たちが知っておるようじゃから任せてみるし、一応手綱も握っておくから安心するといい!」


「ならお任せしますね」


「うむ任された!」



馬車の操縦経験のないヴリトラだが、馬が優秀であれば事故など起きないであろうと言う根拠のない自信を持っているようだ。その内に慣れるだろうというのもあるのだろうか。馬たちによる活躍により無事に武器屋に着いた二人。事故らなくて何よりである。



「すみません。武器と防具を売りたいのですが…」



武器屋独特の工房の匂いが鼻をつく。お店の奥まった所に火事場があり、その手前にカウンター、周りに武器が立てかけられていた。



「らっしゃい。武器と防具の買い取りか、物はどこだ」


「馬車の中にあります」


「案内してくれ」


「はい」



お店の店主は白い髭を生やしたガタイの良い武器屋のイメージ通りのおじさんだった。



「ふむ。ショートソード二本にロングソード一本、槍と斧が一つずつに金属鎧が3つか。どれも質は良さそうだがそれだけだな。ただ……こりゃぁ…」



一つだけ気になる物があったようで、それを手に取って品定めをしっかりおこなっている。



「こいつはやばい」


「そんなにヤバいものかの?」


「ああ、武器屋として長年やってきたがこんなのは見たことがない」



店主が手にしているのは一本の鎌。柄は黒い何かの金属で出来ており、長さは1,3m程で蛇が巻き付いたような文様が浮かんでいる。

その刃は柄の黒と馴染むような紫色をしており毒々しくも見える。じっと見ていると吸い込まれそうな程に綺麗な輝きを放っている。刃の大きさは柄の半分近くもあり、三日月型をしており扱うのはむずかしそうだ。



「この鎌なんだが、これはうちでは扱えない代物だ。すまないが買い取りは出来ない」


「わかりました。では他の品物をお願いします」


「わかった。だが他のは鋳潰して使うしかないからお金にならんが良いのか?」


「ええ。それで構いません」


「じゃあ全部合わせて5万ってとこだな」


「わかりました。では馬車から下ろして運びますね」


「すまねぇな」



思ったより安かったが特に問題は無いだろうと思い、全てを下ろし運び込む二人。



「ほらよ、5万だ」


「有難う御座います」


「ああ、また何かあったら寄ると良い」


「はい。失礼します」



二人は武器屋を後にした。唯一残った鎌はエレアの中へと戻された。

資金調達が一通り終わったのでマスターに連絡を入れる。



『マスター聞こえますか?』


『ああ、聞こえてるよ。どうした?』


『はい、寝具なのですがどう言ったものがよろしいでしょう?』


『そうだな、お金はどんな感じだ?』


『アクセサリーが非常に高値で売れたので色々買っても十分かと』


『なるほど。高く売れたのならなるべく良いのを買いたいな』



普通に街には入れてることに一安心し、アクセサリーなどが思った以上に高く売れたようで何よりだ。綺麗にした甲斐があったものだ。



『予算に余裕が出来てるなら、俺たちが一緒に寝れる程度のでかいベッドと、予備で人が二人並んで寝れる程度のベッドを二つ程頼む』


『はい』


『あと、三人の服と俺の服、家に置く証明とかも頼む。予算が足りそうに無いなら寝具と服だけでも良いからな』


『かしこまりました。予算は十分に出来ましたのでマスターの知識から必要そうなものを買っておきます。先に必要かと思い馬車を買ってしまいましたが宜しかったでしょうか?』


『それは必要だから大丈夫だ。上手い具合に頼むぞ』


『お任せください。では、これで失礼しますね』


『ご苦労様』



会話を終了する。



「馬車の事、事後報告でしたが気にして無いようで良かったです」


「マスターがそうそう怒ることは無いのじゃ。安心せい」



そうですねとほっと胸をなでおろす。



「では寝具を売ってるところに行きましょう」


「そうじゃな!良い物を買ってマスターに喜んでもらうのじゃ!」


「はい!」



二人は寝具店を探しに馬車で出かけ、何事もなく寝具を購入。

ついでに照明類、衣服等も買い込み馬車に積み込んだ。

一通りの買い物が終わったとき、時刻は黄昏時。

些か時間がかかったことに驚きつつ、ルナに連絡を入れた。



「ルナ、聞こえますか?」


「はーい!ルナちゃんれすよー!」


「ルナ!?どうしたんですかその喋り方は!」


「ほぇ?特になんでもないれすよぅ。今は酒場で情報収集してた所れ、万事良好れす!」


「はぁ、良い時間なのでそろそろ帰りますよ。迎えに行くので場所を教えてください」


「場所れすか?えーっと、モッフルっていう酒場れす!」


「わかりました。すぐ行きますので大人しく待っているように」


「了解れあります!」



はあ、とため息をつく。まさかあのルナがお酒で潰れるなどと思う筈もなく、情報収集は大丈夫なのかと心配になるエレアだった。



「ルナは大丈夫かのぅ?」


「まさかスライムが酔うとは思っても見ませんでした。気を付けないといけませんね」


「そうじゃな。エレアも酔うかも知れんし、確かめるためにお酒を買って帰るのも良いかもじゃな」


「そうですね。そうしましょうか」



そんな話をしつつ馬車を走らせるヴリトラ。どうやら馬車の扱いは慣れたようだ。


モッフルと言う酒場に着いた二人は、ヴリトラは御者席で荷物番をしてエレアだけで酒場に入る。



「いらっしゃいませー!」



元気の良いウェイトレスの声を聞き流しながらルナの姿を探す。



「エレアー!こっちれすよー!」



どうやら探すまでもなくルナから見つけてくれたようだ。



「さあ帰るわよルナ。こんなに酔っちゃってもう」


「このお酒が美味しいのがいけないんれすよぅ」


「はあ。わかったから、お代ここに置いとくから」


「はーい!有難う御座いましたー!」


「おう、ルナちゃんまた来てくれよな!」


「ルナちゃんが来るの楽しみに待ってるからよー」


「はい、またくるのれす!」



どうやら酔っぱらったついでに話し相手も見つけていたようだ。

記憶があればいいなと思いながら馬車に戻った。

エレアとルナが戻ってきたのを確認したヴリトラは、馬車を走らせそのまま門を抜け街道の脇道へと入っていった。


その馬車の後ろに黒ずくめの人達が着いて来て居るのを確認しながら……

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