第4話 洞窟

改めて洞窟に向けて歩みを進める俺達。着くまでのついでにエレア達の能力について聞いてみる。


「洞窟に行くまでにお互いの能力について教えてくれないか?」


「そうですね。では私の能力から説明いたします。

私の能力は基本的なスライムとほぼ一緒で、色は銀の一応レア種です。

能力の解説を致しますと、服を作ったり体の形を変えたりする擬態の能力と、取り込んだものを溶かす溶解、そして私のレア種としての特殊能力は、体内に物を溜めて置ける収納の能力ですね。収納能力が高いのだけが取り柄のスライムです」


「なるほど、銀色はやっぱレア種なのか。しかも金と銀の二体に会えるとか、運良いなー」


「そうですね、マスターは本当に運がいいのだと思います」


「同じ場所で金と銀のレア種二体のスライムに会うなんて凄い確率ですわね」


「両方に溶解とかされかけたけどな」


「それはそれ、これはこれですわ」


「結果が全てですよマスター」


「そだな。じゃあ次はルナ頼む」


「では説明いたしますわね。私の能力はエレアと違って収納能力はありませんの。

ですが、溶解と擬態に加えて一つ特殊な能力がありまして、取り込んだ生物の能力を奪う事が出来るのですわ。取り込んだ能力は残念ながらまだ無いのですが……これから成長を期待できると思って頂ければ幸いです」


「エレアは収納型でルナは能力型。バランス良いな」



二人の能力を合わせたらいい感じのバランスだとわかった。

俺が倒した魔物をルナに取り込ませたらそこそこに強くなれる気がする。

エレアは荷物を持たせて鞄変わりだな!この扱いはなんだか駄目な気がするが気にしないことにしよう。適材適所ってやつだ。



「後は俺の能力か。と言っても説明不要な気がするがまあ一応。

俺はもう神様ではなく普通の人間と同じだ、ただ頑丈で死なないだけだ。

しかも攻撃を受けると、耐性とそれに属する魔法とか何かしらを得られるからさらに強くなる。今は水と雷と黒そして核魔法を使えるな…

それ聞くとやっぱ俺人間じゃねぇけど…。

とまあハッキリ言える能力はそれだけだ。そして神様としか呼ばれてなかったから名前がない、だから名前はマスターで良いよ。

神様として世界を管理していたと言っても、世界の始まりから介入はあんまりしてないし、基本的に見てただけでほぼ放置だったから世界の情勢がどうなってるのかとかは正直言ってわからん。世界に異常があれば直したりとか、人や魔物の進化の方向が間違っていたら直すとか、魔力の源泉の管理とかもあったが、正直そんなに難しく無いから監視システムを構築して自動でやっていたな。

だから俺は異常がないと動かなかったと言って良い。

それ以外は他の世界の娯楽を楽しんでたかな」


「ハッキリ言うなら駄目な神様ですね」


「それを言われたら言い返せないな。でも神様なんてそんなもんだぞ?あんまり手を加えると反感買うし。だから放置が普通なんだが……」


「この世界に落とされたと」


「そう言うことだな。まぁ正直疲れてたから丁度良かったのかも知れん。死ねないのが残念でならないのだが」


「そうですわね。生物に訪れるはずの死が来ないわけですもの。一人だけ生き続けるって言うのも悲しいですわ」


「何億年と世界を見てきたから一人には慣れてるんだけどね」


「神様と言うのは辛いものなんですね」


「実質世界を一人で支えてた訳だし?そんな俺を落としたんだ。この世界は神を必要としなくなったんだろ、だから俺を落とした」


「悲しい事ですわね」



俺は神として一応この世界を見守ってきたつもりだ。その結果がこれだとしても仕方ないと思う。必要がなくなったら捨てる。それが人と言うものなんだよな。



「「お疲れ様でしたマスター」」


「なんかしんみりさせちゃったな、すまん」


「お気になさらないで下さい。ほら、あそこが洞窟ですよ」



しんみりしてしまった空気を振り払うようにエレアが声を上げて指さす。

そこはただ穴が空いただけの平凡な洞穴だった。山と言うには低い丘の中腹辺りにぽっかりと空いていた。そんな場所にメイド服のスライムを二人連れて入っていく俺。傍から見たら駄目だなこれ。



「普通の洞窟だな。逆に怖いんだけど、中に何かとんでもない化け物とか居ないよな?」


「中には入った事ないのでわからないです」


「私もないですわ」


「二人とも無いのか……」



落胆はするが兎に角寝床を確保しないと駄目だが。



「そう言えば灯りが無いんだが、何か無いか?」


「スライムが持ち物を持っていると?」


「はっ!確かに言われてみればスライムは基本全裸だったな!」


「ですので灯りは持ってません」


「ならどうしようか、俺は死ねないから何があっても大丈夫だけど、お前たちの安全をどうにかしないと駄目だし」


「「すみませんマスター」」


「これはどうしようもないな。俺が何か作り出せればよかったんだが、クリエイト魔法は覚えてないから使えないし」


「それなのですがマスター、攻撃を食らって耐性や魔法を得られるのなら、何か作り出してみたらクリエイト魔法を習得できるのでは?」


「おー、お?確かにその可能性はある。一応神様だったから全ての魔法は習得出来ると思うけど」


「マスター、一つ気になったことがあるのですけどよろしいですの?」


「なんだルナ?」


「神様としてどうやって世界を管理していたんですの?」


「ああそれな、俺がこの世界の管理者としてやってたことに魔法は使ってなかったんだよ。だから俺が使える魔法はなかったし、機械での管理で魔法は不要だったりと、魔法を必要としてなかったから。でもこの世界の魔力は俺が満たした源泉から溢れてるものだから、魔力に関しては問題ないぞ」


「それはなんとも……」


「神様だったからと言ってなんでも出来る訳じゃないって事だ。

でもまぁ無限と言って良い程の魔力はあるし、世界への適性はあるわけだから……

やってみるだけやってみるか」



洞窟から少し離れて、落ちていた木の枝を拾う。



「何作ろう?」


「先を削って杭とか如何でしょう?」


「削るものがないんだが?」


「じゃあ私が溶解とかして尖らせてみますわ!」



ルナが木の枝に手を当てて包み込む。

慎重に先端を少しずつ溶かしていき、上手い具合に尖った杭が出来上がった。



「おお、上手い具合に溶解とかせるんだな」


「スライムですから当然ですわ」


「でも魔法は取得出来ていないか」


「やっぱり一人で作らないと駄目なんでしょうか」


「そう上手くは行かないってことか」


人任せならぬスライム任せでは能力は手に入らないか。神様時代に魔法取得の設定はしたんだが、俺に当てはまるかと言うと微妙なとこだ。


「まあ折角杭が手に入ったからこれはこれで良しとしよう」


「杭と言うには心許ないですね、短いですし」



出来た杭の長さは約20㎝で刺す分には特に問題ない。



「確かに。使えるかどうかは置いとくとして取りあえずもう一つ作ろうか」


「役に立てず申し訳ないですわ」


「別に気にしなくていいぞ」



そう言いながら別の枝を拾う。



「一応もう一度やってみようか、今度はエレア頼む。短剣っぽいので」


「かしこまりました」



俺の手と枝ごとエレアに取り込んでもらう。



「切れ味鋭く頼むぞ」


「切れ味重視ですね」



取り込まれた木の枝が剣の形になっていく。

溶解とかし終わった枝をエレアから引き抜く


「中々に良い形になったな」


「ありがとうございます」



なるべく太そうな枝を拾ったからそれなりのものが出来上がった…と思う。

柄は綺麗ではないが問題ないだろう。

出来上がった短剣を素振りしながらエレアに礼を言う。



「なんだか悔しいですわ」


「まあ気にするな、しかし魔法の取得には至らなかったか……やはり自分で削るしかないか」


「こればっかりはやってみないとわからないものですからね。仕方ないです」



出来上がった短剣もどきを使い新たに拾った枝を削っていく…

作るのは杭で良いかな。そして俺は黙々と枝を削る。



「話は変わるのですが、私たちも強くならないとマスターの傍に居られないと思うのです。どうやって強くなったらいいのでしょう?」


「そうですわね、私たちは生まれてからそんなに経ってないですから経験が浅いままですもの」


「そうだな」



枝を削る作業を続けながら会話に混ざる。



「スライムを強くする方法…ね。二人は進化の方法は知ってるか?」


「進化の方法ですか?」


「わかりますわよ!他の魔物と戦って勝つことですわ!」


「ほぼ正解だな」


「ほぼ…ですの?」



自信満々に答えたのが少しだけ正解だったことに気を落とすルナ。



「と言うよりも、魔物の行動原理が周りの敵を倒す事だからあながち間違いではないってところか」


「そうですね。それは本能ですので」


「魔物なんてそんなもんだから仕方ないとして、お前ら二人は人になって知恵がついたわけだ。まあ俺の知識を取り込んだ形になるんだが、他の魔物と必然的に違うことになる。ここまではいいな?」


「「はい」」


「よろしい。では次に進むわけだが、魔物は種族によって進化の方法は異なっている。ただ他の奴を倒せばいいというわけでもないんだ。

だからお前らスライムの進化の方法は…」


「「方法は?」」


「他の種族を取り込む」


「案外普通ですのね、て言うかまんまじゃないですの!」


「いや、だってスライムだし。取り込むことしかできないだろ」


「それはそうなのですが…」



そう、スライムの進化方法は他の種族を取り込むこと。これは他の魔物を倒すという事と根本的に変わりはない。だが一つだけ鍵となる行動がある。それは……



「落胆するのはまだ早いぞ?魔物を取り込むと言ったが、それだけで進化出来る訳ないだろ?そんなことになったら強い魔物が溢れちゃうからな。だから種族ごとに鍵となることがもう一つあるんだよ」


「鍵ですか?」


「ああ。スライムの場合だと、魔物を取り込む事、そして特殊な鉱物を取り込む事だ」


「特殊な鉱物ですか?」


「魔結晶と言うんだが、名前の通り魔力が豊富に含まれている鉱物だな。

それを取り込む事によってスライムの核の質が上がって進化出来るんだ」


「そうなんですの」


「なら魔物を倒して取り込みつつ魔結晶を探さないといけないわけですね」


「そういうこと。魔結晶は魔力の集合体みたいなもんなんだが、俺自身が魔力の源泉みたいなもんだから、俺の魔力を取り込んでたら魔結晶を取り込まずとも質は上がるんじゃないか?だから魔物を倒していくしかないな」


「魔結晶を探さなくて良いのは有り難いですね」


「魔物を倒すのはいつでも出来そうですし、楽勝ですわね!」


「どうせ時間はいくらでもあるんだ、ゆっくりやって行けばいいさ」


俺は話してる最中もずっとガリガリと木を削っていて、たった今完成した。

【クリエイト魔法】を得た。



「お、魔法を取得出来たぞ。これで知識にあるものは材料があれば作れるようになったな」


「「おめでとうございますマスター」」


「ありがとな。じゃあ早速何か作るか!何が良い?ここにある材料からなら何でも作れるぞ」


「土と木だけだと、灯りを作れないのでは?」


「それは大丈夫だ。木があれば火を起こす道具は作れるし、それで火魔法を取れるかもしれないから」


「なるほど、納得いたしました」


「では洞窟に住まずに家を作るというのは如何です?」


「木があれば家は作れるか。しかしその為には木を集めるのと、場所確保の為に整地が必要になってくるし、

魔物をどうするかの問題も出てくるぞ?」



俺達はまだこの島のことをよく知らないわけで、凶暴な魔物が居たら家なんて直ぐに壊されてしまう。その考えに至ったルナは、



「確かにそうですわね。では地下に作るというのは?」


「地下ですか、それなら魔物から狙われませんね。地中に魔物が居ないことが前提ですが」


「うっ、痛いところをついてきますのね」


「でも洞窟に入るよりかは地中の方がよさそうだな。

よし、そんなわけで今日はもう良い時間だし地面に穴を掘って簡易的な寝床としよう。地中に魔物が居たら俺が倒す方向で。明日は島を探索して脅威になりそうな魔物を倒して二人に取り込む。もしも有能そうな魔物なら名付けてヒト化させるのもありだが、あまり増やすのも面倒だし名付けは極力しない方向で行こう」


「「イエスマスター」」



クリエイト魔法を発動させて元神様の魔力は伊達ではない事を証明してみせよう。

まずは地面に空間を作らねばならないわけだ。なので地面に竪穴を少し深く掘る。

クリエイト魔法と言うが実際は物を作りだすのではなく、物質を直接動かせるようにするのがクリエイト魔法だ。

普通の人が習得する条件は物凄く厳しく設定してあって、40年間物作りの仕事に携わっていないと取得できないと言う鬼畜仕様となっている。

なので俺は凄く恵まれていると言って良いだろう。世界を長い間管理していたわけだしこれくらい出来て当然だろう……神様だったんだし。

そして15分後…



「出来た」



非常にシンプルな作りだが寝床の作成が終わった。

まず竪穴を掘って下に降りれるように螺旋を描く階段を作る。

住居となる穴を竪穴の底から横に向かって掘って出来上がりだ。

魔物が入ってこれないように、竪穴の底には杭を設置して、更に穴が見えないように竪穴の表面にはダミーの地面を作って隠す。重量に関しては土の強度を上げたから大丈夫だと思う。出るときはクリエイト魔法で穴を開けるだけで出られる。

灯りの問題だが、木から火を起こして作った松明を使っている。その時に【火魔法】もしっかり得ているので問題は無い。

火を燃やし続ける為、細い空気の通り道を作るのに一番苦労したが我ながら上手く出来たと思う。明かりとして使える魔法も取得したいところだが、それは今後の課題としよう。



「松明を作ったのはいいんだがずっと燃えないし、火魔法じゃ使い勝手が悪いし、早急に光魔法を取った方がいいかもな」


「そうですわね」


「マスター、一つよろしいでしょうか?」


「なんだエレア?」


「スライムは魔法を使えるようになりませんか?」


「残念だが普通のスライムは魔法は使えないな」


「そうなのですか」


「普通のスライムは魔法を使えない。のスライムではな。

だがお前たちは普通じゃないレア種だからな、可能性は無くはない」


「可能性はあるんですね?」


「あるにはある。が、それは進化してからだな」


「そうですか」


「私は魔物を取り込めば魔法を使える気がしますわ!」


「確かにルナなら能力を取り込めるし行けるかも知れないが、能力と魔法は違うもんだからやってみないとわからないぞ」



能力とは、耐性やその種族固有の物で有り、スライムなら溶解とか、雷獣なら雷を扱うとか、蜘蛛なら糸を吐き出すとかそんな感じのものだ。

なので、魔法が取れるかどうかはわからない。



「能力と魔法は別物なんですね」


「そういうこと」


「でも可能性はありますのよね?」


「無くはない」


「なら良いですの」


「ま、今日はもう遅いし早めに寝るぞ。この世界に落とされてから安心して眠れる日が無かったから正直クタクタだ」



そういって寝床に入る。竪穴はしっかりと隠してある。

時刻はいつの間にか夜になっていた。俺が作った寝床は木で作ったベッドに葉っぱを敷き詰めたシンプルな作りになっていて三人並んで寝れるように広く作ってある。



「そうですね、今はゆっくり休んでくださいマスター」


「私たちが傍に居りますので、安心して眠りにつくと良いですわ」


「二人ともありがと。そうさせてもらうよ」



前に言ってた通りエレアを枕にして、ルナは俺の上にスライム形態で布団の代わりになっている。極上のスライム枕と、心地よい布団に挟まれ俺はいつの間にか深い眠りに落ちていた。


―――――――――――――――――――――――――


「眠ってしまいましたね」


「ええ」



マスターが規則正しく呼吸して深い眠りに入り込んだ後。

スライム同士で会話をする二人。マスターの眷属となっているので意思疎通は喋らなくともできる。



「これからどうしていきましょう?」


「そうですわね、私たちはマスターによって新しい人生を始められるわけですが、マスターは神様として長年苦労なさって来た模様ですものね」


「神様の苦労など私達には正直言って関係も有難みもなかったです。ですがこうやってマスターと出会って話をしてみて気づいたのですが、私たちは感謝が足りなかったと思うのです。人も魔物も」


「確かに」


「世界がこうやって平和に保たれていることに疑問を抱かず、それに感謝もせずただ安穏と生きていたのでは申し訳なく思うのです。

ですので、私たちは長年管理してくれていたマスターに感謝をして、尽くさないといけないと思います」


「それには賛成ですわ。こうやって人の姿を貰えたのですもの。感謝こそすれ憎むことは絶対にないですの!」


「ええ、マスターが死を望むならそれを叶える為に尽くしましょう。今をただ平穏に暮らしたいと望むなら平穏の為に頑張りましょう」


「全てはマスターの為に。ですわね」


「全てはマスターの為に。良い言葉ですね。まあ今はより良い休息を取っていただかないと」


「ですわね。お喋りはここらで終わりにしますわ」


「はい。お休みなさいルナ、そしてマスター」


「お休みなさいエレア、マスター」



会話を終わり眠りにつく二人。

そんな会話が成されているとは知らないマスターだが、その表情は何処か嬉しそうに微笑んでいた。

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