第5話 島
翌日、俺はベッドの上で二人に魔力を与えていた。
「あぁ、マスターの…物凄く濃くて美味しいです!」
「これ程濃いとは思ってませんでしたの!」
「はっはっはーこれでも元神様だからね、好きなだけ飲むと良いぞ!」
言い方がなんだか卑猥に聞こえるが、魔力を上げているだけだ。
断じてエッチな事ではない!俺には性欲が無いのでそうしたいと思うこともない。
ちなみにスライムの魔力の取り込み方法は溶解して取り込む方法が普通だが、
今は人型になっているので、俺の手から溢れ出した魔力をスライム化した手から直に吸っている。
「この世界に魔力を満たしたのは俺だからな。また新たに世界を作ろうとでもしない限り枯渇なんてしないさ。しかも俺の魔力は魔結晶よりも濃いと思うから、直ぐにでも強くなる…かもしれない」
「強くなれるんですか?ではもっと頂かないと……」
エレアが手にがっつこうとするのを魔力を抑えて止める。
「でもそれは駄目だ。強すぎる魔力を一気に取ると魔力が体に馴染まなくなって、最悪動けなくなる」
「何事も程々が肝心なんですのね」
「そう言う事だ」
「質問よろしいですか?」
「ん?」
「そこまで強い魔力を持っているのに、表面には全然出てないのが不思議なのですがどうやっているのですか?」
「あー、それな」
通常魔力と言うものは体から少なからず出ているものだ。それは人も魔物も変わらない。その漏れ出している魔力の量で強いか弱いかが本能的に判断出来たりするんだが、俺の場合は全く違う。
「世界に魔力を満たしたのは俺だって言ったろ?だから魔力とは言ってみれば俺自身の生命力みたいなもんで、コントロールは自由自在だ。
まあ出来ない方がおかしいと言って良いかもな。だから一滴も漏れないし、傍から見ると魔力を持たない雑魚にしか見えないわけだ。
もし仮に魔力を放出しながら歩いたら、それだけで世界のバランスが崩壊してしまうという大惨事になりかねん」
「そうでしたの」
「魔力を抑えていただきありがとうございます」
「ま、そういう事だ。んじゃ腹ごしらえも終わったことだし、改めて島の探索に行くか!」
「「イエス、マスター」」
俺たちは寝床の入口に穴を開けて外に出る。勿論ちゃんと穴を隠すのも忘れない。
「今日もいい天気だな」
「はい」
「そうですわね」
多少雲が見えるものの、ほぼ快晴と言って良い程天気が良い。
鬱屈とした気持ちが晴れるようにとても爽やかな気分になる。
特に必要ないが、深呼吸を二三度繰り返して新鮮な空気を取り込む。
体は人なので呼吸不要があろうが無意識レベルで息をする。
「よし!では今日の目標を発表する!」
「「はい」」
「今日の目標は……島の全景を詳しく知りたいと思う。そして出来れば地図を描きたい!」
そう、一番の目標は島の把握だ。どこに何があってどうなっているのか、強い魔物は居るのか、それを知ってるのと知らないのとでは天と地ほどの差がある。
知識とは必要不可欠なものなのだ。
「と言うわけで、この寝床を起点に散策を開始する!魔物に出会ったら俺が倒すから、二人で半分づつ取り込んでいこう」
「「イエス、マスター」」
「では出発!」
こうして俺たちは島の探索へと出発する。
――――――――――しばらくして――――――――――――――
「この島を全部回るのに大体8時間ってところか」
朝に探索を開始し、太陽は昼を過ぎ夕方に差し掛かろうとしていた。
一旦寝床に帰ってきて情報を整理する。
島を一通り見て回ったが、島の長と言える魔物は居なかった。
それらしき住処はあったのだが、もぬけの殻であったのでおそらく出掛けているのだろう。普通の魔物は色んな種類生息していたが、脅威になりそうなものは少なく、二人だけで十分に対処可能と分かった。そして二人に取り込む事も忘れてはいない。
一応魔物の種類を載せておこう。
『ランドウルフ………島に生息していた狼が魔力を取り込み魔物化した。3~5匹単位で生活しており、性格は比較的凶暴。
自分より弱い相手を捕まえて食べるため、それなりの強者であればそうそう襲われることは無い』
『飛びウサギ……島に生息しているウサギが独自に進化を遂げた。一匹で居ることが多くよく他の魔物に狙われているが、脚力が異常に強く逃げ足が速い。
実は空も飛べるのでは?と言われているが真偽のほどはわからない。しかしのんびり屋な性格か警戒心が非常に薄く、死の危機に面しないと行動しないずぼらな奴』
『スライム……一般的な粘液生物。突如として湧いてくるため生態は詳しくわからない。大きさも個体によってバラバラなため見つけやすかったり見つけにくかったりと、よくわからない生物である。魔力に惹かれる性質を持っており、魔力を感じると飛びついてくる。魔力を出していない俺を何故襲ったのかは不明だ。
基本的に緑色をしているが、エレアやルナの様な特殊個体も存在する模様』
『ベビードラゴン……ドラゴンの幼生体。進化すれば強者になるが、進化までの道のりが果てしなく遠く、数万頭に一頭が完全体になれると言われている。
幼生体の数は比較的多く、個体によって性格は様々だが基本的に一匹で行動している。なのでよく他の魔物に食べられている。運がいい奴だけ成体になれる。弱肉強食の世界では当たり前の事なので仕方ない。何故一匹で居るのかと言うと、ドラゴンは卵を産んだ後に適当な場所に放置していくからだ。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言う感じで、一人で生き抜いて見せろと言う事なのだろう…多分』
『ポイズンスネーク……一般的な毒蛇。毒を持っているが特に注意する必要がない。俺達には毒は効かないので、スルーしてもかまわない存在だが、一般の人たちには危険と言えよう』
『ボア……イノシシが魔物化した存在。突進力が強く凶暴なので非常に鬱陶しい。肉としては美味なので、調理器具が出来次第程々に狩りたいところだ』
『グレートボア……ボアの進化した存在。ボアのボス。ボアより少し強いだけで特に気にすることは無い。進化したことで肉質が固くなりあまり美味しくなくなる』
『トレント……木が魔物化した存在。枝を操り攻撃してくるがテリトリーに入らない限り無害。普通の木と見分ける方法があり、青い魔力の線が樹の幹にうっすらと出ている。普通の木よりも質が良く、見分け方も簡単なため、家を作るには丁度いいかもしれない』
『モス……蛾。光に集まる普通の蛾。非常に鬱陶しい。炎を出すと寄ってきて勝手に燃えてくれる。ただ鱗粉には麻痺作用があり、気を付けてないと動けなくなったところに脳から蜜を吸われて殺される。麻痺耐性を取っていなかったので、丁度良いと【麻痺無効】を取得しておいた』
『バット……普通の蝙蝠が魔物化した存在。主に夜活動しており、昼は洞窟で眠っている。大群で居ることが多く非常に鬱陶しい。超音波を放つので耳が痛くなるから注意』
と、島に生息する魔物は大体こんな所だ。あとは普通の動物や虫が少しいるだけだった。
「取りあえずわかったことをまとめると、この島はあまりでかくないみたいだ。
浜辺があって、森があって、丘がある。島としては非常に住みやすい場所かもしれない。しかし問題が一つ。ここはおそらくドラゴンの寝床だ。それも非常に強力な奴のな」
最初に見た洞窟があった山というより丘なのだが、そこのてっぺんに一際大きな竪穴があって、穴の底に人や魔物などの骨が見えたのでやばそうな雰囲気をしていた。
多分運がいいベビードラゴンが進化した存在だと思うが、今のスライム二人では勝ち目はないだろう。ちなみに最初の洞窟は特に何もなく、バットが生息していただけだった。怯えて損した。さて、どうしたもんか。
「頭が良さげで強そうなドラゴンならヒト化させるのもありだと思うが、二人はどう思う?」
「そうですね、この島の主を配下に付ければ生活はしやすいかと」
「私もそれに賛成ですわ」
「そうか」
「ただ……」
言葉を渋るエレア。
「なんだ?」
「一つだけ申し上げるなら、別に仲間にしなくても良いのではないかと」
「それはどうして?」
「確かに島の主を仲間にするのは良いのですが、そんな強者が大人しく配下になるでしょうか?それならば有無を言わさず消滅させた方が早いかと」
「結構過激な発想するんだなエレアは」
ちょっと驚いた。エレアはどっちかと言うと大人しそうなイメージだったのだが、仲間を増やすのが嫌なのだろうか。
「そうだな、ルナはどう思う?」
少し考えてから言葉にする。
「そう…ですわね。エレアの意見も尤もですが、マスターの負担を減らす意味では消滅が、知能が高く優秀なら服従が良いかと思いますわ」
「服従って、俺はそこまでは望んでないんだが……」
「いえ、マスターに仕えるものとして絶対の忠誠心を持って服従するのは当たり前かと」
「おいおい、そう言うのは勘弁してくれ。普通に一人の仲間として扱ってくれないか?マスターだからとか神様だからなんてのは正直言って疲れた」
もう俺は神様でもないただ強いだけの人だ。だからただのんびりとしていたい。
上に立って管理やらなんやらをするのはもう正直言って嫌になっていた。
「申し訳ありませんマスター」
「わかってくれたのなら良いよ。じゃあ俺一人で主と交渉してくる」
「一人なんてそんな…」
こればっかりは仕方ない。二人はまだまだ弱いのだ。俺は死んでも生き返るし、交渉するならやはり一対一じゃないとフェアではない。
「二人には死んで欲しくないからな。だから寝床で待っていてくれ。これは命令な」
「「かしこまりました」」
「マスター、どうかお気をつけて」
「死なないからと言って無茶だけはしないで下さいませ」
「わかった。程々に頑張ってくるよ。最悪消滅させるから心配するな」
「「はい。いってらっしゃいませ!」」
俺は二人を寝床に待機させ、一人でドラゴンとおぼしき住処へと向かった。
夜には寝に帰って来るはずだから、そこを待ち伏せするとしよう。
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