砂漠渡り
城下町から関門まで四キロもない。
ルゥロ達が待ち合わせの場所まで行くと既にサラは待っていた。
謝りながら走っていくと、申し訳なさそうに頭を下げられた。
「迷惑をおかけしてしまって申し訳ございません……」
「いや、気にするな。俺達も砂漠に用事があったし」
ルゥロが言うとサラは心底(しんそこ)驚いたように瞠目した。
「ルゥロ様が、ですか」
「あ、俺が行くと変? 結構色んなところに行ってんだけど」
ショックだなーと呟いているとサラは深く頭を下げた。
「いえ! そういうわけじゃないんです! ただ、本当に驚いて……!」
頭を下げ続けるサラにセイテが笑った。
「王子が砂漠に行くなんて普通なら有り得ないことだしね。仕方ないよ。だから、そんなに頭下げないで」
サラの手を握り、顔を上げさせると彼女は何故(なぜ)か顔を赤くした。
それにセイテが首を傾げているとルゥロが鞄(かばん)から布を取りだし、頭までを覆(おお)い隠すように被った。
他の面々(めんめん)も同じように布を被った。
「サラは属性で自分を覆うことって出来るか?」
ルゥロは思い出したように尋ねた。
「あ、はいっ。あまり効果は長持ちしないんですが」
眉根を下げながら頭を掻くサラにセイテは大丈夫と声を掛ける。
「砂漠に住み始めて長いんでしょ? だったら平気だよね」
「はい! それだけは自信を持って言えます。まあ、布が無いと死にかけますが」
照れて笑うサラにルゥロは紹介をしてなかったとレック達を見た。
「レックのことは知ってると思うけど、俺とセイテの側近。で、そこにいる銀髪(ぎんぱつ)で赤メッシュの男が友人のニミル。その隣に立っている髪の長い女の子が同じく友人のルチルクルーツ」
二人は名前を呼ばれると笑って手を振った。
「サラです。今日からよろしくお願いします」
セイテとルチルクルーツにも深く頭を下げた。
「俺とルクルは王族とか貴族とかじゃないからそんなに固くなくていいよ。気軽に話しかけてくれていいからね」
「そうだよ、サラちゃん。さん付けしなくていいからね」
「わ、分かりました! じゃあ、ニミル君、とルチルクちゃん?」
悩むように名前を呼ぶとニミルとレック以外が吹き出した。
「ニ、ニミル君……」
「ニミル君とは……」
腹を押さえながら笑うルゥロとセイテにサラは困惑(こんわく)した。
「え、え、あたし、何かおかしなこと言いました?」
「いやいや…っ、ただ、ニミルに君付けなのが…。こいつ、こう見えても二十歳だから」
笑いながら言うルゥロにニミルが口を尖(とが)らせた。
サラはと言えば、驚きの声を上げた後、まじまじとニミルを見ている。
「二十歳、でしたか……。ごめんなさい…」
「気にしないで! 若く見えるのはいいことだから」
笑い続けるルゥロとセイテを睨み付けながらサラの頭を撫でた。
「ニミル君」
そんな中、ぼそりと背を向けながらレックが言った。
「暫(しばら)く言われ続けるな」
それを見てルゥロはニミルに憐(あわれ)みの言葉を贈(おく)った。
目の下を引きつらせながらニミルはこれからの日々にただ茫然(ぼうぜん)とした。
ルゥロは暑い日差しの中を平然と歩いていく。
それはセイテ達も同じで砂漠を苦としていない。と言うのも、それぞれの属性を纏(まと)うことにより暑さを凌(しの)いでいるのである。
だがそれも限界があり、平気な内にと着々とサラの住む町――カーテルネットを目指していた。
夜になる前に出来るだけ町に近付きたいと足早に歩いているとサラがふと立ち止まった。
「サラ? 大丈夫か」
ルゥロが振り返ると彼女は汗を流していた。
急ぎすぎたかと心配しているとルチルクルーツが空中から水を出現させた。
水はサラに降りかかる。
「どう? 暑さは減った?」
ルチルクルーツが笑顔で手を差し伸べるとサラは顔を濡らしながら手を取った。
「ありがとうございます。ルチルクちゃんの属性は水なんですね」
「うん。水だけは豊富(ほうふ)にあるよ。でも飲めるわけじゃないから、結局水は必要なんだけどよね」
ルゥロはサラに「もう少しだけ我慢してくれ」と言うと、サラをおぶった。
「きゃあっ。ル、ルゥロ様っ、降ろしてください!」
「王子だからって気を使うな」
サラが暴れるのにも構(かま)わずルゥロはそのまま歩き出した。
抵抗しても降ろしてくれないと観念したサラはルゥロの背で風が優しく頬(ほお)を撫でるのを感じた。
サラをおぶってまで先を目指すのはそろそろ陽が落ちてくる頃だからだった。
砂漠の夜は寒く、昼間使った体力を成(な)るべく回復しておきたい。
ルゥロはカーテルネットまであと三分の一という所まで来るとサラを降ろした。
「サラ、寝袋持ってるか? 持ってたら出せよ。今日はここで野宿するからな」
寝袋を砂地の上に置き、綺麗に六人分並べる。
ルゥロがまきを寝袋の頭上に放り投げるとニミルがそこに火をつけた。
「ニミルさんは火ですか?」
「うーん、まあ、そうだね」
ルゥロの肩に肘を乗せながらニミルは曖昧に答える。
だがサラはそれをさほど気に留めなかった。
そんなサラの向かい側ではルチルクルーツがポッドに飲み水を入れ、火にくべる。
火を囲うようにしてルゥロ達が座った。
「慣れてますね」
慌ててサラも腰を降ろした。
「いつもこんな感じだからな」
ルゥロは火の様子を見ながら言った。
それから本格的に日が暮れ、藍色の空に星が現れ煌煌と存在を示していた。
建物の光が無い分、星がよく見える。
幻想的な世界が目の前に広がっていた。
「やっぱり町の外は星が綺麗だな」
「そうなんですか? いつもと変わらないように見えますが」
サラは本日の夜ご飯であるパンを口にし、首を傾げた。
「サラさんは昨日町に泊まった時、空を見なかったの?」
セイテが聞くと彼女は頬を赤く染め、頭に手を置いた。
「いやー、城下町の町並みや露店に気分が上がりまして……。ご飯もこちらでは見かけない物ばかりでしたので、一日中興奮してて夜は疲れて寝ちゃいました……」
サラはお恥ずかしいとパンで顔を隠した。
「ははっ、それはいいことだ」
ルゥロが笑顔でそんなことを言えば、サラは更に顔を赤くした。
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