第9話 初瀬と早雪の章 その9
目覚めは久しぶりの疲労感と満足感に包まれていた。私は大きく伸びをし、裸で眠っている二人に布団を掛けると台所へと向かった。朝は米を炊き干物の残りをあぶり食す。脈を探りに山へ向かわなくてはならないが、今日は一日を準備に当てようと思う。私はそう決め、のんびりと休息を取った。初瀬と早雪も今日は静かであった。時折思い出したように食事の準備をしたり明日の準備をしたりする以外は、のんべんだらりと過ごす。とはいえ明日は早朝から動かねばならぬ。それを言い含めておかねばならなかった。夕餉の後私は座敷に顔を出す。二人はいつものように座って待っていた。
「では今日は別の布団で寝るというのか」
「今日もという方が正確ですわ」
話し終えて二人は不平を漏らす。初瀬は早雪の言葉に頷いた。
「うむ、最近つれなくないかの? わしらにもう飽いたか?」
「そういうわけではない」
飽きが来ないからこそ別の布団で寝なくてはならんと言いかけて、さすがに恥ずかしすぎたので口の中にしまい込む。
「ではどういうわけじゃ」
「……」
そこを初瀬に突かれてしまい私は黙りこくった。そんな私に早雪が助け船を出す。
「ところで準備はもうお済みになりましたか?」
「ああ、あとは寝るだけだ」
私は言った。
「でしたら、今からもう寝てしまえばよろしいかと」
「こんなに早くか?」
「でも明日は早いのでしょう。それに寝ると言っても早雪たちを相手にするのですから本当に寝るのはだいぶ後になるかと」
それもそうか。私は腕を組み、早雪の提案を吟味する。まあ悪くなさそうだ。私は早雪の提案に乗ることにする。
「ではそうするか」
「うむ、それでよかろう。藤花よ、早くこちらへ来い」
「わかった。今行く」
私は寝転がる初瀬の言葉にそう返事をして二人の元へ向かうのであった。
目が覚めるとまだあたりは闇の中だった。外に出て雲の様子などを確かめてみる。東の空が僅かに赤く、そして青い。西の空には雲一つ無い。今日も良い天気になりそうだった。私は山へ登る荷物を玄関に置く。懐中食はすでに夕べに炊いてあった。日が昇るのを待って、座敷に向かう。
「初瀬に早雪。起きているか。これから山へ向かう。準備はよいか」
「うむ……」
「はい……」
若干眠そうな二人の声。私はふすまを開けた。衣服だけはきちんと身にまとっているが、まだどこかぼんやりとした様子の二人が座り込んでいた。
「大丈夫か。少し遅らせようか」
「道中目が覚めよう。藤花は気にせず出発するが良い」
「ええ、そうしてくださいまし」
「わかった。では出立するぞ」
私はそう言うと荷物を背負い玄関を出た。今日は長い行程になりそうだ。
道中は言葉がほとんど無かった。私は山にさしかかる。今日は山頂まで登るわけではないが、脈を見つけなくてはならぬ。私は山のふもとを巡ぐって沢を見つけた。そこから登ってゆく。時折膝下まで水に浸からなくてはならない場面もあり、ひどく体力を消耗させた。一度途中で昼休憩を取り、昼過ぎにはなんとかこの沢を登り切ることが出来た。わき水が山の斜面の中腹あたりからこんこんとわき出している。
「この沢ではないようだな」
占いでは流水ではなかった。ここは外れだろう。私は言った。
「また別の沢があると」
「うむ、おそらくは」
「今日回るのは大変そうですわね」
「そうだな。今日は一度退くか」
「それには及ばぬ。人の子よ」
話し合っていると急に頭の中に声が響いてきた。私は周りを見回し言った。
「山の神か」
「そうだ。この間のことは感謝しておる」
また頭の中に声が響く中、牝鹿が一頭山の崖からこちらを見つめているのに私は気づいた。以前にも会った山の神だ。私はそちらを見て礼をする。
「そう言っていただけるとありがたい」
「お前達が話しているのを聞いた。脈を探しに来ていると。わたしはその場所を知っておる。先日の返礼として教えたいと思う。だがその前にお前に聞きたいことがいくらかある。答えてくれるか」
「答えられることならば答えよう」
私は答えた。
「その脈をどうするつもりだ?」
「白壁の五つ辻に引くつもりだ」
「あそこはすでに脈がある。いまさら脈を引く必要はないと思うが」
「初瀬と早雪、二人を住まわせるには一個の脈では足りぬのだ」
私は答えた。牝鹿は続いて問いを発してくる。
「なるほど。ではさらに聞こう。いったいなぜお前は人を害する怪異に対してそこまでの奉仕をするのだ?」
「人を害する怪異?」
「わしのことじゃろう。きっと」
初瀬が言う。そういえば初瀬がそう言う存在であることを忘れていた。
「そうだ。お前は人の寿命を吸う怪異。現にいまこの男の命を吸っておろう」
「それをもう二度とさせないために脈を引く。それだけのことだ」
私は山の神に答えた。山の神は鼻を鳴らす。
「ふん。ご立派なことだ」
「質問は終わりか?」
「ああ。終わりだ」
また山の神の声が頭に響いてきた。
「では脈は教えてくれるのか?」
「いいだろう。だがその前にお人好しのお前に一つ頼みがある」
「それは一体?」
「白壁の力がまだこのあたりで一つ漏れ出している。そこを封じてくれぬか」
「場所は」
「隣の山だ。なに私が力で送ろう。その場所にはすぐに着く」
「だがそこにはもう怪異が住み着いているのではないか」
私が言うと山の神は少し笑みを見せた様な気ががした。
「そうだ。それも払って貰う」
「もう住み着いた怪異にはあまり手を出したくないのだが」
「私の妹がその怪異に手傷を負わされこの地に逃れてきた。それでもか?」
私の言葉に山の神はこう答えた。それならば。
「悪しき怪異というわけか」
「我らにとっては。お前達人間にとっては悪しき怪異かはわからぬ」
私の質問に山の神は答える。すると早雪が横から口を挟んできた。
「山の神を傷つけるとは相手はかなりの力の持ち主と考えられます。ここは熟考した方がよろしいかと」
「だが山の神を傷つけるとなればいずれ里にも被害が出よう」
私は早雪に言った。それに初瀬のことがある。早雪の懸念もあったがここは後戻りは出来まい。私は山の神に向き直る。
「いいだろう。だが今は戦う準備が出来ておらぬ。明日か明後日に向かおうと思う」
「それには及ばぬ。今送ろう」
その言葉と共に辺りが靄に包まれる。私は思わず叫んだ。
「山の神よ、それは待ってくれ。こちらにも事情というものが」
だが言葉の途中でまた頭に声が響く。
「いやもう送った。ここはすでに奴の陣地。では健闘を祈る」
靄が晴れると同時に山の神は消えていた。気がつけばあたりの地形も変わっている。私は愕然とした。人の都合も考えない。とはいえ山の神と言えば山の神らしい。
「困ったものじゃの。どうする藤花よ」
「ここは退きたいところだが……」
初瀬の言葉に反射的に言う。早雪も同意した。
「できるならばそれがよろしいですわ。しかし相手は逃してくれるでしょうか」
すでに重い足音がこちらに向かって響いてくるのがわかった。確かに逃れられるかわからない。ならば僅かな時間を戦闘準備に費やした方が良いのではないか。私は判断を迫られる。
「決めた。ここで戦うぞ。初瀬に早雪、準備せよ」
私は決断した。背を見せるよりもこちらのほうが良いように思えた。それにこの場は山地にしては広くまるで草原のようだ。胸下まである枯れ草が辺りを覆っている。山の神が作った異界かも知れぬ。私は背負っていた荷物を下ろし戦う準備をする。といっても護身用の五十鈴が一つ。懐刀が一つ。枝を刈る鉈が一つ。そして杖が一本。あるのはそれだけだ。導具などはほとんどない。とりあえず杖を両手で構え私は未知の怪異に相対した。
近づいてきた相手はひどく巨大だった。そしてどこか実態が薄かった。靄のような影が私たち三人を見下ろしている。
「やはり逃げた方が良かったのではないか?」
「いやあんな大きさではすぐに追いつかれてしまう。それに影はあくまで影だ」
私は影から視線を外さず初瀬に言う。影は私たち三人を見て一瞬立ち止まったが、それは足の位置を調整するためだったようだ。そのまま足で押しつぶしてくる。
「よけろ!」
私は叫び前進して転がり込む。私の頭の上を足の影が通り過ぎ、そして私たちがいた場所を正確に踏みつぶす。私は姿勢を正すと影に呼びかける。
「聞け。影よ。なぜ山の神を襲う?」
「知らぬ知らぬ。何も知らぬ」
大声が頭の上で爆ぜ、それだけで私の頭を震わした。これは一体何の怪異だろう。だだっ子のようでもあり、見たとおり巨人でもある。
「おぬしはいま私たちを踏みつぶそうとした。それも知らぬと言うか」
「知らぬ知らぬ。何も知らぬ」
再び大声が頭の上で爆ぜた。そのくせ足はまた私たちを狙いに動き出す。
「ならばおぬしを払わねばならぬ」
私は宣言し、この巨大な怪異に立ち向かった。今度は怪異からの返事はない。無言で私たちを踏みつぶそうとする。
「散開だ!」
私は初瀬と早雪に言い、自分も前に転がり込む。だが今度は攻撃の意志がこちらにあった。相手のかかとを杖で打つ。だが巨人の怪異は気にした様子もなかった。逆に足を踏みならし私を押しつぶそうとする。
「藤花様!」
早雪の声が遠くで聞こえた。私はなんとかその攻撃をかわし、巨人の足下から逃げ出す。それでもしばらく巨人は足を踏みならし続けていた。巨人の怪異の足下から土煙がもうもうと上がる。
「藤花。大丈夫か?」
「ああ、あの巨人、あまり目が良くないようだな」
「きっと、大きすぎるのでしょう」
私は無言で頷いた。こうして話していても巨人の怪異は我々に気づく様子もない。耳もあまり良くないようだ。ふむ。私は考える。
「知らぬ知らぬ。何も知らぬ!」
叫びながら足下を踏み続ける巨人の怪異。やはり二面性がある。まずは影を払いたいところだが、そのような導具は今はない。どうしたものか。そうこうしているうちに巨人が足下を踏み荒らすのを止めていた。今度は私たちを捜しているのだろう、左右に首を動かしている。どうやら靄には自分の姿を隠すと同時に自分からも相手を見づらくしている効果があるのではないだろうか。私は考えを二人に話してみる。
「ありそうですわね」
「それしか考えられん。じゃがどうやって靄を剥がす?」
それがすぐにわかったら苦労はしない。私は言いかけて息を呑む。巨人の怪異が私たちを見つけたようだった。再びこっちに歩いてくる。
「くるぞ!」
私は二人に警告を出し、自らもまた身構える。巨人の怪異は真っ直ぐに向かってきた。あっという間である。また私たちを踏みつぶそうとする。私たちはまた散開して逃げた。
(手は使わないのか)
逃げながら私は思う。足こそ影の色が濃いが手の影はひどく薄い。そこいら辺に倒す要(かなめ)がありそうだ。私たちは散開して逃げ、また結集する。
「このままではこちらの気力が尽きてしまう」
私がぼやくと早雪が言った。
「風を呼びましょう」
「できるのか」
「早雪に出来ることは火をおこすこと。けれど火は風を呼びましょう」
「なるほどそうだ」
私は納得して声を出す。初瀬もここぞとばかりに声を上げた。
「初瀬も物を動かすことが出来る。それで火をあの怪異に差し向けよう」
「助かる。ならば私は風の向きを探ろう」
「うむ、三人で力を合わせれば怪異をうち倒すこともできるやもしれぬ」
初瀬は言った。早雪と初瀬の言葉で私にも勝機が見えてきた。私は力強く頷く。
「よしまずは風上に回ろう。こっちだ」
私は風を探り二人を風上の方に案内する。しかしその途中で巨人の怪異に気取られてしまう。
「ここは私が引きつける。あとは任せたぞ」
言って私は怪異を風下の方におびき寄せようと動く。
「藤花!」
「行きましょう。藤花様があの怪異を引きつけているうちに」
私について行こうとする初瀬を早雪が引き留める。
「……うむ」
背中で渋々承知する初瀬の声が聞こえた。もう二人を見ている暇はない。私は巨人の怪異と相対する。このまま風下にこの怪異を引っ張らなくてはならない。私は大声を出した。
「巨人の怪異よ。何故人を襲う? 山の神を襲う?」
「知らぬ知らぬ! 何も知らぬ!」
答えは同じだった。私はまた伸びてきた足を避け風下へと逃げる。そして風下でまた巨人の怪異に向かって声を張り上げた。
「巨人の怪異よ。何故人を襲う? 山の神を襲う?」
「知らぬ知らぬ! 何も知らぬ!」
問いも同じならば答えも全く同じだった。しかし注意はこちらに向いた。私はじりじり下がってゆく。火はまだか。そんなことを思う。と同時に草原に火が灯った。火は次々に灯り、やがて炎となる。煙と焦げ臭い臭いに気がついたのか、巨人の怪異が風上の方を見た。こちらも何かしなくては。私は鉈を取り出し巨人の怪異に切りつける。狙うはかかとではない。足の小指だ。勢いよく振り下ろす。
今度は手応えがあった。足の小指から勢いよく黒い靄のような物が飛び出す。巨人の怪異は溜まらず悲鳴を上げた。膝をつき靄の薄い手をがむしゃらに振り回す。だがその時には私はすでにその射程からは離れていた。しかし黒い靄は私の想像以上の代物だったようだ。腕の黒い靄がするすると伸び私をがっしり捕まえる。
「しまった!」
握りつぶされる。そう覚悟したが無理に伸ばし手にそこまでの力は無いようだった。ただ持ち上げられ放り投げられる。私の体が宙を舞った。初瀬と早雪が何事かを言うのが聞こえたような気がする。私の腕から鉈が飛び、私の意識が一瞬飛ぶ。私は地面に叩き付けられた。しかし生きている。
「藤花!」
枯れ草と、そして初瀬のお陰である。初瀬が私が地面に叩き付けられる一瞬、その物を動かす力で私の体を持ち上げたのである。
「すまん。助かった」
私は近づいてくる初瀬に声をかける。火はどんどん迫ってくる。これを味方にするのも敵にするのもこちらの対処次第である。私は短刀を抜きで周囲の草を薙ぐ。草薙の逸話に倣ったわけではないが迫る火を防ぐためである。巨人は迫る火を前に戸惑っている。私は初瀬に言った。
「巨人にいたる火の道を!」
「あいわかった!」
その言葉と共に枯れ草が巨人の方を向けて一斉にしなだる。火はその上を走ってゆく。そうして巨人は火に包まれた。
「知らぬ知らぬ! 何も知らぬ!」
巨人は相変わらず叫んでいる。だが火は風を呼び、黒い靄を剥がしてゆく。私は五十鈴を取り出した。
「五十鈴を使う。初瀬に早雪、耳を塞げ!」
「はい」
「うむ」
私は五十鈴を打ち鳴らす。音響は巨人の靄をさらに剥がしてゆく。二度三度。いや何度も打ち鳴らす。とうとう炎と風と音色によって巨人の怪異の黒い靄は剥がされた。私は五十鈴を打ち鳴らすのを止める。靄が引きはがされた姿は、ひどく小さい。そらはまるで――。
「人の怪異であったか」
私は呟く。剥がされた怪異は老婆の姿をしていた。おそらく年を経て山に捨てられた老婆の怪異であろう。それが白壁の力を得てここまで大きくなったのではないか。火は靄と一緒に消えていた。灼け果てた枯れ草を踏み私は老婆に近づき目の前で屈みこむ。
「知らずとはいえ傷つけてしまい、すまなんだの」
「知らぬ知らぬ。何も知らぬ……」
私の謝罪にか細い声で老婆は言った。それは許しの言葉と言うより恨みの言葉であるように私には聞こえた。その恨みは当然のことにも聞こえる。一人山に捨てられ、この老婆はどれほど人を怨んだことか。
「可哀想じゃの」
「ええ」
側まできた二人も言う。私はそんな二人に、いや自分に言い聞かせるように言った。
「だが滅せなくてはならぬ」
「うむ。こやつが怪異のままいても良いことなど誰にも一つもない」
「そうですわね。早雪もそう考えます」
二人も私の言葉に同意する。私も力弱く頷いた。
「そうだな」
「輪廻の先に良き会合がありますように」
「来世ではよき巡りがあることを祈る」
早雪と初瀬が手を合わせる。私は二人を見、それから老婆を見下ろし、言った。
「うむ。では消すぞ。耳を塞げ」
私は老婆の耳元で五十鈴を二度打ち鳴らした。これなら老婆にも聞こえよう。音に応えるように老婆の体は溶けてゆく。やがて老婆の姿は見えなくなった。私は五十鈴をしまい二人に耳を塞ぐのを止めるように促した。
「終わったの」
老婆が消え去った方向に手を合わせながら初瀬が言う。早雪も同じようにまた無言で手を合わせている。
「ああ終わった。一時はどうなることかと思ったが」
「何とかなりましたわね。それでお迎えは来るのでしょうか」
早雪の問いに私は考え込んだ。
「迎えか。どうかな。それに運ばれても同じ山の中だろう」
「うむ。そうじゃろうよのう」
「だが少し疲れた。ここで休み、山の神の迎えが来ぬようであれば我らの力で下山しよう」
「それがよろしいかと。ですがその前に綻びを繕った方が良いと早雪は考えます」
「そうだな。そうしよう」
早雪の提言に従い私は針と糸を持っていつものように綻びを閉じた。終わって一人息を吐く。そうして二人に振り返り私は言った。
「では少し休む。おぬしたちも安らうが良い。正直今回もお主達の力がなければ死んでいた。感謝してもしたりぬ」
「そもそもわしらのせいで買った喧嘩よ。気に病むな」
「そう言ってくれると助かる」
それだけ言うと私は焼けた草の上に座り込んだ。想像以上に疲労している。私に憑いている初瀬が力を使ったせいかもしれぬ。だがそれが無ければ死んでいた。考えることは後にして今は体力の回復に務めよう。私は呼吸を深くし、体力の早期回復を図る。
小一時間ほど休んだが、山の神の迎えは来なかった。私は下山を決意する。その前に背負っていた荷物を確認せねば。奇跡的に荷物は火に呑まれることも巨人に踏みつけもされることはなく、枯れ草の中に転がっていた。
「山の神にも困った物じゃ」
荷物を背負い直していると初瀬が言った。。
「ああいった神様は人の都合など考えてはくださいませぬから」
「とりあえず一度戻る。山の神にはまた会いに行けば良い」
「それがよさそうじゃ。しかし戻れるかの?」
「とりあえず今どこにいるかわからぬが南を目指そう。どこかの道に辿り着くはずだ」
「うむ、うまく南に進めればよいがの」
「夜道は無理をしない方が良さそうですわね」
「夜になったら無理せずどこかで朝が来るまで休もうと思う。もしかしたら山の神が助けてくれるかも知れぬ」
「あまりあてにはできんがの」
「そういうことを言うものではない。ここは山の神の領域。悪口は筒抜けと考えた方がよい」
私は初瀬の言葉をたしなめた。初瀬も無理に反論することなく素直に頷く。
「そうだの。控えよう」
「ではとりあえず南に向けて進むぞ。初瀬に早雪、良いか?」
「ええ、もちろん」
「うむ、参ろうか」
「それとなにか違和感とかあれば教えて欲しい。いまは歩くのが精一杯ゆえ」
「それも承知じゃ」
「まわりに気を配ります。藤花様は歩くことに集中してくださいませ」
「助かる」
そんな会話の後、私たちは南目指して山の斜面を歩き出した。
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