第17話
「そんでラム、お前さんどうする気だ?」
「ど、どうするとは…」
急に谷からそう問いかけられ、狼狽える。
「ラム、お前さんは“お前さんの”物語からこの街に迷い込んじまったんだろ?」
「あ、はい。そうです。断言できます」
「だが君は森で、それも白の近くに唯一いた男だろう。魔王は男だと聞いていたし、君以外に当てはまる該当者がいない」
「そう言われてもなー…本当に違うとしか…」
大人しく優雅に紅茶を楽しんでいる貴族の横でラムは頭を抱えていると谷が膝の辺りを軽快に叩き「なら良い案がある!」とやけに楽しげに言う。
谷の話を聞くために顔を向ける3人とは異なり、郁はどことなくうんざりしたような目をしていた。
「レースに出るんだよ!」
「レース…勇者の彼女が?」
ラムがとぼけたことを聞くが、谷はぶんぶんと首を振り否定する。
「馬鹿野郎!そんなんじゃ何の証拠にもならねぇだろうが、お前さんが出んだよ!!」
「え、俺!?」
谷は自信満々に、加えてこれ以上の楽しみはないと言うかの様な瞳で言いのける。ラムは戸惑い、狼狽え、助けを求めるように勇者に視線を移す。
勇者の彼女は「それはありかもしれませんね」と呟きながら推理小説の探偵さながらに何か考え込んでいる様子だ。
その隣で郁は「ほんっと、博打好きなんだから…」と言いながら先ほどのラムのように頭を抱え、貴族の彼はやけに長い睫毛を上下させ谷を見つめている。
何か考えている様子だったルチルはスッと手を上げ口を開く。
「あの龍は魔王自らが召喚したと町では言われていました。つまり、その魔王であれば龍を乗りこなす事ができるはずです。まぁ、その…何故か私にも懐いてはしましたが、貴方の証言の通りに貴方が魔王でない場合は龍から振り落とされる、と」
彼女のその説明に谷はうんうんと頷く。
「レース会場以外の場所は危ねぇから空飛ぶ生き物たちには乗ることができん。確かめるならレースしかないだろ?」
ふたりの説明を聞き郁はようやく納得したらしく、額を拭う仕草を見せる。
「あぁ~そういう事だったの。谷さんがただ博打がしたいだけかと思っちゃった」
ごめんね、と郁は舌を出しおちゃらけた様子で谷に謝る。
「まぁあんたの証言が真っ赤な嘘なら、真の詐欺師決定って事ね。全部演技なのだとしたら完璧としか言いようがないわ」
可笑しそうに郁はクスクスと笑う。
それぞれの反応を黙って見ていた貴族の彼は冷めてしまった紅茶をすすり、谷に問いかける。
「しかし、それは非常に危険ではないですか?彼の証言が潔白であると確認できたと同時に、彼が怪我をする恐れがあると思うのだけど」
「んなこと心配する必要はねぇよ。この街に住むもんはどんな怪我しようと死にゃしねぇじゃねえか。まぁ、しばらく動けないかもしれんがな」
谷はぐわははと豪快に笑いながら「そんときゃここに入院だな!」と続ける。ラムはグッと握り拳を作り、意を決して宣言する。
「俺には龍を手懐けることなど出来ない!そして、それを持って俺が魔王ではないということを証明しよう」
勇者と貴族を除いて、ラムの宣言を聞いていた者はやんややんやと拍手を送った。
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