第12話

 飛び降りようと思えば出来るのでは、という浅はかな考えは甘かったか、とラムはすぐに気付くこととなる。

 一般的に人間が走る速度とは思えない人間離れした速さで人力車は道を走りだした。めまぐるしく変わる景色、と言うか、過ぎ去っていく残像にラムは目を回すばかり。


 飛ぶように走っていた人力車が3台揃ってぴっちり止まると、そこは大きな競技場らしき会場の前であった。


「う、酔った…」


 そう言ってヨロヨロと人力車から降りるラムを「これくらいどうってことないじゃない、しっかりしてよ」と郁が力強く背中を叩く。

 郁は降りたあともケロッとした顔をしているし、谷はこれからのことをワクワクしてしょうがない様子だ。


 深呼吸を繰り返しつつ周りを見ると、駅ほどでは無いがそこそこ多く人が集まっており、どことなく競馬場に似通っていた。ここが何をする場か分からないラムは首を捻り考える。


「賭けって競馬とかか…?」


 きょろきょろと頭を振るラムを笑い飛ばして谷が大口を開く。


「なぁに腑抜けたこと言ってんだ、お前さん!馬より速いあいつらのレースに決まってんだろ!」


 「どれ?」と問う必要はなかった。

 ラム達の歩くその真下の地面に大きな影が映り、一瞬にして過ぎ去っていった。

 ラムが驚いて空を見上げる。その見開かれた瞳に映る光景にラムはポカーンと口を開く以外に他無かった。


「珍獣、怪物、怪獣に恐竜!空飛ぶ奴らのレースだ!」


 ラムの見たこともない生物の多くが青空を飛び回っていたのだ。自由自在、好き勝手に生き物たちは飛び回っている。

 そしてよくよく目を凝らして見ると、何故かペンギンや鮫等の海に住む生き物たちまで大きな生き物たちの間を縫って飛び回っていたのだ。


「な、なんで海の生き物も…?」

「この街の空は海と同じなの。海を飛ぶように泳ぐ生き物達は、空も泳ぐように飛ぶのよ。当たり前でしょ?」

「いや…聞いたことない…」


 唖然としたラムの手を取り、郁は前を歩く谷に続いて引っ張っていく。

 付いた場所は券売の窓口。賭け事とはやはり博打だった。


「一等を決めたほうが勝ちって事で良い?」

「いや、そんなっ、初心者の俺には難しすぎるだろ!」


 ビシッとラムは突っ込みを入れる。後ろでは谷が愉快そうにケタケタと笑っている。


「大丈夫よ。今日私達が賭けるのは3組だけのレースだし当てるのは3分の1よ?楽勝楽勝」

「3組…3分の1…」

「それにさっさとゴタゴタを解決したいでしょ?解決したら物語に戻れるでしょ?」

「ゴタゴタ…解決…」


 郁からの言葉を聞き、単純なのかただ乗せやすい性格なのか、ラムはあっさりと承諾してしまう。

 先に買っていいから、と郁に促されたラムは券売の受付嬢に軽く会釈をする。

 「どちらになさいますか?」と愛想の良い笑顔と共に、写真付きの表を渡された。


16.03.12

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