第11話
ラムの頭を過ぎ去る記憶の断片で最後に主張してきた映像は議長であるシマリスの姿。そしてそのシマリスから“物語を好きなようにして良いぞ”と言い渡された事が思い出される。
「そうか、俺に結末が委ねられたから…」
ラムの独り言は谷には聞こえていなかったらしく、頷きもせずに谷は谷で自身の言葉を続けた。
「別に流浪人のお前らが悪いって訳じゃねえぞ。気を悪くする必要な。探せばそこら中にゴロゴロいるはずだしな。そもそも街にいる住人は終わった物語の割りに多すぎる」
「そ、そうなのか…」
ほうほうと谷の言葉に関心してラムが何度も頷いていると、泣きじゃくっていた郁がすくっと立ち上がった。
そうして、ラムに指を差す。
「こうなったら絶っ対にあたしのラムさん見つけるんだから!あんた!探すの手伝いなさいよ!!」
涙で落ちた化粧で面白がっていいのか怖がっていいのか分からない表情をした郁は恨めしそうに歯ぎしりをしてラムにそう訴える。
逃げ腰で後退るラムはとにかく狼狽えるばかりだ。
「え、俺!?やだよ。俺には俺でやることがあるんだから!」
「手伝わないってんなら、あんたの血、全部飲み干して殺してやるんだから…っ!」
黒い瞳をぎらぎらと燃え上がらせた郁は腰を低くし戦闘態勢でジリジリと近付いてくる。その様子に困惑したラムはひぃっ、と情けない声を上げる。
間に立つ谷は溜息をつき、興奮気味の郁を制止させた。
「バカ言うな、お前さんはここん中じゃ吸血鬼じゃねぇんだろ」
「あ、そうだった…」
谷の言葉で思い出したその“事実”に郁は心底悔しそうに拳を握りしめ、落胆してみせる。元の調子に戻った郁を見て、ラムはほっと胸を撫で下ろす。
暫くして、ラムは今後の事を考えなければ、と気を引き締めた表情を見せた。
「俺、龍の討伐に向かわなければならないんです。それで俺の物語は終わりを迎えられる、はずなんです」
半信半疑ではあるものの、きりりとした表情でラムはふたりに宣言する。だが、郁は呆れた顔をしてラムに反論をした。
「何言ってんのよ。その前にあたしのラムさんを捜索すんのよ」
「だから!俺の物語はまだ終わってないんだ。それが終わったらこっちに来て、いくらでも手伝ってやるから。勘弁してよ」
「はぁ~?あんた何様のつもりよ、結末が決まってない未完の登場人物だからここに来ちゃったんでしょう?だったら手伝いなさいよ!この詐欺師!」
「ちょっと待てって、詐欺師は誤解!つーか、あんたが俺を勝手に断定したせいでこうなっちまったんだろ!」
ギャーギャーと言い合うふたりに「静粛に!」と物々しい雰囲気を醸し出しながら谷が声を発し、口を閉ざすよう促した。
強面の表情に力強い視線でぎろりと睨まれ、ふたり揃って大人しくなる。すると谷は一言、大声をあげてふたりに告げる。
「よーし。争いごとってんなら、賭け事で決めようじゃねぇか!」
「賭け…?」
先ほどの厳粛さはどこへやら。谷はがははと豪快に笑い出してそう告げる。
谷の言葉に少しばかり興味を示すラムとは対照的に郁の目はどんどん冷めていく。
「でたー、谷さんの博打好き」
「え?」
「まぁ良いわ。私の勝ちは決まったも同然だもん。ペテン師ラム!勝負よ!」
「へ?」
「うっしゃあ、出発だ!」
谷がパチンッと綺麗に指を鳴らす。
「何処に!?」とラムが叫ぶと同時に三人の目の前に人力車が丁度三台止まる。わっせわっせと現れた男に担がれ、座席に座らされ、問答無用でラムは連行された。
16.03.11
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